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楽しげな祭囃子の音。提灯に灯ったオレンジ色の揺らめき。光と熱気に包まれた世界が私たちを夏の夜の終わりへと誘う。
きっと今日は特別で楽しい想い出に残る日になるといいな。
空を見上げれば陽がだんだんと落ちてきている。夏の夜はもうすぐそこだ。
隣を歩く実里くんをちらりと横目で見る。
暗闇克服しようとしているみたいだけど、きっと夜はまだ辛いはずだ。
「もうすぐ夜だけど大丈夫?」
実里くんがこちらを向いて口元を緩める。
「お祭りはかなり明るいから平気だよ」
「そっか」
できるだけ明るいところにいよう。実里くんが少しでも不安にならないように。
「それに帰りは武蔵の親が運転する車で帰るつもりだから」
「そっか」
「まぁでも……少しは克服できてきたっていっても、そんなに長くはいられないと思う」
実里くんの横顔が一瞬だけ曇ったように見えた。きっと私が思っている以上に本人とっては辛いことなはずだ。
「だからさ」
耳に息がかかる。そして甘く無邪気に彼の唇から言葉が紡がれる。
「今日はいっぱい楽しませてよ。せんぱい」
「!」
思いもよらぬ刺激的な声に肩が震え、背筋が伸びる。
「あ! ましろせんぱい! あんず飴食べよ!」
私の手を引き、実里くんは【あんず飴】と書いてある屋台の方へと歩いていく。
その姿はお祭りにはしゃいでいる無邪気な子どもみたいだ。今日は心から楽しんでもらいたい。
「あんず飴とかひさびさー」
そう言いながら買ったあんず飴を食べる実里くん。
水飴をぺろりと舌で舐め上げる仕草や、屋台の橙色の灯りをバックに伏し目がちにあんず飴を見ている姿に思わず見惚れてしまう。
私もあんず飴を購入して、一口食べてみる。まわりの水飴がねっとりと甘くて、スモモの部分は鼻にツンとくるような酸っぱさだ。
「ましろせんぱい、こっち向いて」
ゆっくりと顔を上げると満足そうに微笑んでいる実里くんは私を見てにやりと口角を歪めた。
内緒話をするように近づいてきた実里くんは、口元を濃紺色の浴衣の袖で隠した。
「っ!!」
きっとそれは——私と実里くんしか知らない。
端から見ればただの内緒話をしている二人。
海の紅月くらげさん