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それから二週間、本格的な梅雨に入る頃。こいつは意識不明の状況が続き、日に日に体力も落ちていると聞いていた。 俺はあいつの母親に許可をもらい毎日通い、顔を見て少し話をして、手を握って帰る。
もう感情のまま話さない。ただ側に居たかった。
「藤城くんは大学受験するんだよね?」
「……え? はい、その……予定です」
あいつと会った帰り、あいつの母親に呼び止められた。
「一般入試なんでしょう? 勉強、進んでる?」
「ああ、まあ……」
あいつの母親には俺の素行が悪いことも、取り乱して叫ぶところも見せちまった。だからせめて受け答えだけはハッキリしようと心掛けてたのによ、どこまでも曖昧でヘナチョコで情けねぇ。
正直なとこ受験勉強の予定は狂いまくり、期末テストなんか全く身に入らねぇ現状だ。
「自分の人生を、生きてね」
「……え?」
「ほら、あの子は。……生きられない運命、だから……。だけど藤城くんは違う。これからの人生があるから。長い人生が続いていくから。だから、お願い。あの子のために、自分を捨てないでね。藤城くんの人生は、これからも続いていくのだから」
降り続ける雨を見つめる目は細く、蛍光灯の光りではない瞳の奥に宿るものに、俺の心はズンと重くなっていく。
「はい」
深く頷いた俺は病院を後にし、ひたすらに真っ直ぐと家に向かっていく。
いつもなら浜辺や街を目的なくブラブラして時間を溶かしていたが、そんな時間はねぇ。
自室の机にはプリントやら教科書がグチャと置かれてて、帰ってきて一番にしたことはテスト勉強の計画立てだった。
期末テストまで一週間。元より勉強はしていたし、今からなら詰めれるだろう。
あいつの目が覚めた時、俺も頑張っていたんだぞ。そう言い張る為に睡眠時間を削り、あいつに会いに行く時間すら削りひたすらに机に向かった。
カラッとした日差しが差す、七月上旬。梅雨が終わろうとする頃に期末テストが終わり、俺はあいつの病室に向かい走っていた。
やるだけのことは、やった。これであいつに会える。
あいつの母親には今日からの面会を頼んでおり、学校が終わってからと約束している。
あいつに会える。あいつに。
期待と不安が入り混じる中、久しぶりに病棟に辿り着いた。
「藤城くん」
そこに立っていたのは、あいつの母親。
肩を震わせ、口元を抑え、こちらを見てきた。
「ごめんね。電話しようとしたんだけど……。は、話せなくて……」
言葉に詰まる様子から、確かに電話などできる状況ではなかったのだと伝わってくる。
まさか……。
気付けば俺まで、カタカタと体が震え出していた。
「……会ってあげてくれる?」
「はい」
こいつの母親に付いていくとそこは以前と同じ急患用の部屋で、状態は改善してなかったのだと伝わってくる。
まさか、違うよな。
そう思い、開かれたカーテンへと歩いて行く。
そこにはこちらに顔を向け、目を細めるこいつ。まだ口の管は付いており、表情が作れないようだ。
そんなこと、どうでもいい。俺はこいつの元に駆け寄り、分かるかと聞いた。
大きく頷いたこいつは、俺の手を取り力無く握ってきた。
「先ほど、目が覚めたの。今でも信じられなくてね。ごめんね、連絡出来なくて……」
こいつの母親は顔を洗って来るからと出て行き、二人きりになった。
口に管が入っているから今は声が出ないらしく、俺は何も言えないことから沈黙となる。
話したいことは、山ほどある。
心配してたぞ、……お前の母さんが。
まあ俺も、一ミクロだけ心配してやった。
勉強頑張ったんだぞ。お前に安心して欲しくて。
何も言えないのは声を出したら、目から気持ちが溢れてしまいそうで。そしたら止まらなくなりそうで。そんな姿見せられないだろう? 頑張って戦っている、母娘の前で。
こうしている間にこいつの母親が帰ってきて、紙がないと意思疎通が出来ないよね、と出してくれた。そっか、紙やスマホのメモでやり取りすれば良いのか。気持ちがいっぱいで、そんなことにも気付いていなかった。
「す、すみません」
「私も気付かなかったから」
こいつの母親と顔を合わせて、ははっと笑い合った。
紙とペンを受け取ったこいつは、デカデカと書き出す。しばらく動かしていなかった手は上手く動かないようで一字を書くにも時間がかかるようだ。
やっと紙に書かれた文字を見た途端、またこいつの母親と顔を合わせて笑ってしまう。
『なおきくん、べんきょうは?』
やっぱり親子だな、って。
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