「さて、今日はいよいよ増改築記念のパーティーだな。ユウを起こさないとな」
ダークスーツを纏うムツキは、リゥパの好みによって珍しくオールバックにされていた。まるで気品のある執事のような出で立ちになっている。
「ムッちゃん、最高よ! 凛々しさが際立つ髪型だと思うわ」
リゥパはどうやらキッチリカッチリした格好が好みのようだ。彼女は興奮気味にムツキの前で嬉しそうにはしゃいでいる。彼女は髪の色に合わせてか、薄緑色をした膝上までのハイウエストワンピースを着こなし、ワインレッドのハイヒールで差し色を決めている。普段、日に当たることのなかった白い肌が服装とあいまって艶めかしさを漂わせる。
その隣でナジュミネは、黒の膝下までのワンピースに白いノーカラージャケット、黒いヒールといったアンサンブルスタイルでパーティーに臨むようだった。彼女は彼の髪形を見つめながら、次のパーティーで無造作ヘアかツンツンヘアかにしてもらおうと密かに想っていた。
「ありがとう。ケット、ユウはここ数日、起きても部屋からほとんど出ずに何かをしていたよな?」
「そうニャ」
ムツキは少し照れているようで若干顔が嬉しそうに歪みつつ、歪み切らないようにケットの方を向いて、真面目な話に切り替えようとする。
ケットは真っ黒な身体の中で唯一の色違いである白い胸元の毛の上に、真っ赤な大きな蝶ネクタイをしていた。オシャレを決め込んだ彼は静かに肯いた後に、2本の尻尾で〇を描いて言葉を返した。
「私との神託の時間も最近減っていたから、何かしていたようね」
リゥパも少しばかり真面目に話に加わる。
「ユウ様は猫よりも気まぐれニャ」
猫の王様であるケットに言われてしまっては、ユウの気まぐれは猫以上という太鼓判が押されたようなものだった。
「ケットはむしろ猫らしからぬな」
「ニャ!?」
ナジュミネの何気ない一言に、ケットは少しショックを受ける。猫の中の猫と自負しているケットにとって、猫らしからぬは少し残念な響きだったのだ。
「いやいや、たしかに気まぐれとはほど遠いけど、猫特有の程よい距離感があるから、やっぱり猫って感じがするな」
ムツキはケットが寂しそうな顔をしているのに気付いて、すかさずフォローを入れた。ただし、お世辞でも何でもなく、ただ事実を述べているだけである。彼が本心から思っていることを理解しているので、ケットの表情がパっと明るくなる。
「ご主人! 一生ついていくニャ!」
ケットはとても嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。
「それは嬉しいな。さて、じゃあ、ユウを呼んでくるよ」
「俺も行く」
ムツキがそう言うと、クーがのそのそと歩きながらムツキの方へと近付く。クーは碧の毛並みとは頭の上に渋めのくすんだ赤色のリボンを着けていた。ユウに似合うと言われてから、ほぼ毎回、忘れない限りはこのリボンを着けている。着ける際には律儀に頭の上にリボンの花が咲いている。
最初は何度も笑いを取る形になっていたが、今ではすっかり皆に馴染まれていた。
「クー、ありがとう。心強いな」
ムツキとクーがユウの部屋へと向かう。2階へと消えていったのを確認して、ケットがみんなの方へと向き直る。
「それじゃ、他のみんニャはパーティーの準備をするニャ! と言っても、ほぼほぼできあがっているニャ。だから、運ぶのをお願いするニャ。今日は、クマやゴリラもゲストで来てくれているニャ。盛大に彼らに感謝しつつ、パーティーを盛り上げていくニャ!」
「にゃー」
「ばう!」
「ぷぅ」
「はーい」
「分かった。ん? ところでリゥパ。ルーヴァはどうしたんだ?」
ナジュミネは今朝からルーヴァを見かけなかったので、隣にいたリゥパに訊ねる。
「ルーヴァは元々夜行性だから、朝昼は弱いのよ。最近、昼夜逆転させて働かせすぎたから休んでもらっているわ。もちろん、後で食べられそうなものを運ぶつもりよ」
リゥパは少し心配そうな声色でルーヴァのことを話す。ナジュミネはゆっくりと肯いた。
「そうか。教えてくれてありがとう。ルーヴァにはいろいろと世話になっているからな。私も料理を一緒に運びたい」
「本当、根っからのいい人よね、ナジュミネって」
「ありがとう。そう思ってもらえるなら喜ばしいことだ」
ナジュミネは否定も肯定もせず、リゥパの言葉に謝礼の意を述べるだけに留めた。