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お股ポテト
29
はるにし
72
草木も眠る丑三つ時、なんだろうか。
とにかく、夜中。
屋敷の中は閑散としていた。
「すぅ……」
シュメリはベッドでぐっすり眠っている。
僕はその隣で、眠い目を擦っていた。
(きっと今夜、バルトが来る。捕縛シーンが見られるかも)
小説の序盤、シュメリの寝込みを襲ったバルト。
しかし、シュメリはその襲撃に気が付いていた。
魔法で編んだ切れない糸を首に巻いて、バルトに首輪をつける。
『これで君は、私のペットだ』
自分を殺しに来た暗殺者を付き出すのではなく、手懐けようとする。
自分より背も図体も大きなバルトを、小柄なシュメリが制する。
それだけで胸熱だ。
そう、このカプは、シュメバルなのだ。
(今夜は、記念すべき始まりの夜。その場面に居合わせるなんて、至福……!)
残念なのは、僕がとっても眠いってことだ。
小説には夜半て書いてあったから、まぁまぁ遅い時間だ。
僕は布団の中で大欠伸をしながら、バルトが来るのを待った。
待っていた、はずなんだけど……。
「うにゃ……ふにゃ」
自分の寝言で目が覚めた。
いつの間にか寝ていたみたいだ。
(いけない、寝ちゃった……)
前足で顔を洗う。
目を擦っているつもりだけど、猫的な仕草になる。
懸命に目を擦っていたら、腹の下に手が入ってきた。
「にゅ?」
シュメリが起きたんだろうか。
そう思って隣を見たら、シュメリは目を瞑っている。
(……え? えぇ!)
体が宙に浮く。
誰かに抱きかかえられた。
「助けに来たぞ、リンネ」
耳元で声がした。
僕は、恐る恐る後ろを振り返った。
(バ、バルト! 助けるって、何⁉)
暗いけど、僕は猫だから良く見える。
小説の挿絵で見たバルトが、僕を抱いていた。
シュル、と布が擦れるような音がした。
「ちっ……起きたか」
ナイフを取り出して、バルトが何かを切る仕草をした。
「残念、その糸は魔法で編んだ魔糸だ。そう簡単には切れないよ」
シュメリが糸を引く。
糸の先はバルトの首に絡まってた。
「くそっ」
バルトがナイフで切ろうとしても、揺れるばかりで切れない。
硬質なしなり方をする魔糸は、まるでピアノ線のようだ。
(待って、このシーンは……シュメリが魔糸を使うのは、バルトを拘束する時)
シュメリの魔糸が、僕を抱くバルトの腕に絡んだ。
指が一本一本、剥がされていく。
「はにゃ!」
僕の体がバルトの手から落ちた。
シュメリが僕を受け止めて、抱きしめた。
「大丈夫かい、リンネ。怖かったね」
「リンネは俺の猫魔だ。怖いはずあるか!」
バルトが叫んだ。
魔糸を懸命に切ろうとしている。
「君の敗因は、私の罠に気が付かなかったことだ。この部屋には、無数の魔糸を張り巡らせてある」
シュメリが微笑む。
「そんな馬鹿な……魔力なんて、微塵も感じなかったのに」
「魔力を隠す術くらい、心得ているよ。私を誰だと思っているんだい?」
「聖騎士は伊達じゃねぇか」
バルトが悔しそうに舌打ちした。
「奪い合いも、そろそろ飽きた。いい加減、僕のリンネに手を出すのはやめてもらおう」
「お前のじゃない。俺の猫魔だ。勘違いするな」
僕は、シュメリの腕の中で二人を見比べた。
(あれ……あれぇ? どうして二人は、僕を取り合ってるの?)
ここは、シュメリが華麗にバルトを掴まえて、『私のペットだ』って宣言するシーンじゃないの?
僕の頭が困惑した。
「やれやれ、わからない男だな。ならば、仕方がない」
シュメリが糸を伝って魔力を流した。
バルトの首に巻かれた糸が、首輪に変形した。
(そう、これ! それでシュメリが言うんだ、僕の……)
「これで君は私に逆らえない。私のペットに手出しするのは、やめてもらおう」
シュメリが得意げな顔で、小首を傾げた。
バルトが首輪を引っ張りながら、歯噛みしている。
僕の目は、点になった。
(台詞が、変わってる。二人の話なのに。僕が混じってる)
どうしてだろう。
わからな過ぎて、頭が真っ白だ。
「こんなもの、付けやがって」
バルトが悔しそうに吐き捨てた。
ナイフをあてようと引っ張ろうと、魔法を使おうと、首輪は切れない。
「大丈夫、君の納得がいくまで屋敷においてあげるよ」
「牢になんか入ってやるか。リンネを返せ!」
「牢じゃない場所にいけるかは、君次第だ」
シュメリが腕の中の僕を撫でる。
その姿を、バルトが歯軋りしながら睨んだ。
「リンネをペット扱いする男に、渡せるか」
「今は、ペットの姿だけどね。すぐに伴侶に変わるさ」
真っ白な頭に、伴侶という言葉が流れ込んで来た。
(伴侶? 伴侶って、何? 誰が?)
バルトだろうか。
アスランズ王国は魔法を使えば同性でも子を孕める。
だから二人はきっと、結婚するんだと思っていた。
(小説、最後まで読んでないから、わからないけど)
もしかしたら、読んでいてもわからなかったかもしれない。
だって、この時点で僕が知っている小説の内容とは違っている。
「さぁ、リンネ。ゆっくりお眠り。私は彼を地下牢に繋いでくるから」
物騒なことを言って、シュメリが僕をベッドに降ろした。
首輪を魔糸で繋がれたバルトが、引っ張られていく。
バルトが、僕を振り返った。
「絶対、取り戻すから。待っていてくれ、リンネ」
切実な表情で、バルトが僕を見詰めた。
すぐにシュメリに連れて行かれた。
(どうして、こうなったんだろう)
混乱しながら、考える。
わからな過ぎて、脳がヒートアップした。
僕の体はポテン、とベッドに倒れた。
考えてもわからないことは、わからない。
だから、明日にしよう。
僕は現実と自分の思考から逃げて、寝ることにした。
だって、あまりに眠すぎたんだ。
(猫だからかな。僕の体力がないせいかな)
睡魔が、僕を包んでいった。
コメント
2件
セリフが変わっていてキョトンとしている猫ッ!!✨️✨️ 可愛いに決まってるだろう!!!!( ゚∀゚)・∵. グハッ!!
うわああ第3話読み終わったよ〜!!😭💕 転生リンネちゃんが猫の姿でバルトとシュメリの取り合い現場に巻き込まれてるの、展開違いすぎて頭パンクしそうになったけどめっちゃエモい!!「伴侶」発言でさらに混乱してるところとか、もう感情が追いつかなくて可愛いすぎるんだが?! 原作知ってるからこそのギャップ萌えがたまらん…続き早く読みたいです!!🐱✨