テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
定期テスト当日。藍林檎学園の校舎内は、いつも以上にピンと張り詰めた空気に包まれていました。
1時間目から始まったテストは、休み時間を挟んで容赦なく続きます。ペンが紙を削る音、時計の針が刻む音、そして他の生徒たちの緊張した溜息。聴覚過敏の元貴にとって、静寂の中に潜むそれらの「小さな音」は、普段の喧騒よりも鋭く神経を削るものでした。
4時間目のチャイムが鳴り響いた瞬間、元貴は力なく机に突っ伏しました。
午前中だけで、数学、国語、理科、社会。膨大な情報の処理と、音への防衛で、心身ともにエネルギーは底をつきかけています。
「……もとき。お疲れ様、よく頑張ったな」
隣の席から、滉斗がすぐに駆け寄りました。
元貴の顔は少し青白く、眉間には疲れによる微かな皺が寄っています。
「……ひろと……。もう、頭がパンパンだよ……。耳の奥が、ずっとジンジンしてる……」
消え入るような声で呟く元貴に、滉斗は迷わず自分の愛用しているノイズキャンセリングヘッドホンをそっと被せました。一瞬で外界の音が遮断され、元貴の表情がふっと緩みます。
「あと半分だ。……今は何も考えなくていいから。ほら、捕まって」
滉斗は元貴のカバンを自分の肩にかけ、ふらつく元貴の腰をしっかりと抱き寄せました。
中等部1年生とは思えないほど、その足取りは力強く、迷いがありません。
廊下は、テストの答え合わせで騒ぐ生徒たちで溢れていましたが、滉斗は元貴を自分の体で隠すようにして、人混みを避けて歩きます。
「……ひろと、ごめんね。重いでしょ」
「全然。お前、ちゃんと食ってんのかってくらい軽いし。……それに、俺を頼るために付き合ってるんだろ?」
ぶっきらぼうな言い方の中に、隠しきれない愛情が滲みます。
元貴はヘッドホン越しに伝わってくる滉斗の体温に、折れそうだった心を繋ぎ止めました。
食堂に到着すると、そこにはすでに涼架が「予約席」を確保して待っていました。
中庭に面した、一番静かで日当たりの良い角の席です。
「おかえり! 二人とも、午前中の山場は超えたね!」
涼架は二人の姿を見るなり、サッと立ち上がって元貴を椅子に座らせました。
「元貴、顔色が真っ白だよぉ。はい、これ、お兄ちゃん特製の『集中力が戻る魔法のハーブティー』。ゆっくり飲んで」
温かいカップを元貴の手に握らせ、涼架は優しく微笑みます。
「午後の英語と音楽は、僕と一緒にやったでしょ? 大丈夫、元貴ならできるよ」
「……うん。涼ちゃん、ひろと……ありがとう。僕、もう少し頑張れそう」
三人はあえてテストの内容には触れず、穏やかな話題だけでランチタイムを過ごしました。
滉斗は、元貴が食べやすいように一口サイズに切ったおかずをそっと皿に分け、涼架は最近あった面白い失敗談を話して元貴を笑わせます。
午後からの2教科。
まだ戦いは続きますが、左右を最強の味方に守られた元貴の目には、少しずつ確かな光が戻っていました。
NEXT♡150
コメント
1件