テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
テスト最終日の夜、藍林檎学園の寮は、重圧から解放された生徒たちの安堵感に包まれていました。
204号室では、全てのエネルギーを使い果たした元貴が、ベッドの上でふにゃふにゃになって突っ伏しています。6時間の緊張と、常に神経を尖らせていた反動で、体は岩のように凝り固まっていました。
「……もとき、肩、すごいことになってんぞ」
着替えを終えた滉斗が、ベッドの横に座り込んで元貴の背中を覗き込みました。
「……んぅ、ひろと……もう指一本動かないよ……」
「わかってる。ちょっとじっとしてろ」
滉斗は慣れた手つきで自分の手のひらをこすり合わせ、温めてから、元貴の肩にそっと手を置きました。実は滉斗、幼い頃から元貴の体調の変化に敏感だったため、独学や涼架からのアドバイスで、マッサージがプロ並みに上手くなっていたのです。
「……っ、あ、そこ……」
滉斗の親指が、首の付け根のツボを的確に捉えます。強すぎず、弱すぎない、絶妙な加減。
ガチガチだった筋肉が、滉斗の体温と共に少しずつ解けていくのが分かります。
「ひろと、じょうず……。なんで、そんなに場所わかるの?」
「……お前の体だぞ。どこが凝りやすいかくらい、毎日見てりゃわかる。……ここだろ、一番しんどいの」
今度は肩甲骨の周りを、円を描くように優しく、丁寧に。
元貴はあまりの気持ちよさに、我慢できず「ふぇぇ……」と力の抜けた声を漏らしました。
(……やばい。今の声、めちゃくちゃ可愛いんだけど……。いや、集中しろ俺。今は癒やしタイムだ……)
滉斗は内心で必死に「かわいい」の嵐と戦いながら、次は元貴の腕、そしてこめかみへとマッサージを移していきました。
「……耳の周りも、少しほぐしておくぞ。今日は一日中、ずっと頑張ってただろ」
滉斗の大きな手が、元貴の耳の後ろを優しく包み込みます。聴覚過敏で過敏になっていた神経が、その手の温もりだけで凪いでいくようでした。
「……ありがと、ひろと。……もう、とろけちゃいそう……」
「とろけていいよ。そのまま寝ろ。明日は休みなんだから」
マッサージが終わる頃には、元貴の呼吸はすっかり深くなっていました。
滉斗は、完全に寝落ち寸前の元貴にそっと掛け布団を被せ、自分もその隣に滑り込みます。
「……ひろと、の手、魔法の手だね……」
「……おやすみ、もとき。よく頑張ったな」
二人が静かに眠りにつこうとしたその時、部屋のドアが「コンコン!」と小さく鳴りました。
「二人とも〜! テストお疲れ様パーティー用の高級プリン、持ってきたよぉ〜……って、あ、もう寝ちゃったかな?」
ドアの向こうから聞こえる涼架の控えめな声。
滉斗は「明日いただきます……」と小声で返し、元貴を抱き寄せて目を閉じました。
世界で一番贅沢で優しい夜は、こうして更けていくのでした。
NEXT♡170
コメント
1件