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城プル
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「FORSAKEN」の薄暗い路地裏。
トゲ付き首輪をジャラジャラと鳴らしながら、Gatitoは頭を抱えて壁に背中を預けていた。
背中の魚の骨柄パーカーは少し崩れ、緑のドミノクラウンの下にある赤い眼は激しい動揺に揺れている。
「くそっ……なんなんだあのドブネズミは……! 捕まえようとしたら怪しい薬で迫ってくるし、撫で回してきやがるし……俺様はキラーだぞ!? なんであいつペースに巻き込まれてんだッ!」
頭をかきむしるGatitoの頭上から、静かな羽ばたきの音とともに人影が降り立った。
黒いハチワレ模様の猫獣人・Mowlだ。
胸の黄色いリボンを整え、赤と茶色のマントを優雅に翻しながら、左目のモノクルを光らせる。
彼はスペクターからの寵愛を一身に受ける「主のお気に入り」であり、紳士的な振る舞いを崩さないが、その表情には微かな焦りと嫉妬の色が滲んでいた。
「お困りのようですね、Gatitoさん」
Mowlは着地すると、フクロウの翼からしなやかな猫の手足へと戻し、Gatitoへ静かに近づいた。
「噂は耳にしていますよ。あのサバイバーのRat……ただの実験体ネズミの分際で、あなたに無作法な接触を繰り返しているとか。スペクター様も最近はあのネズミの狂気に夢中で、私へのお戯れのお時間が減っているのです。非常に不愉快、かつ危険な兆候ですよ」
「Mowl……お前、なんでここに……」
「紳士として忠告申し上げます。あのネズミはただの人間や獣人とはタチが違います。知性と狂気に毒された有害物質そのもの。悩むくらいなら……今すぐ二人で追い詰め、綺麗さっぱり食べちゃいましょう!」
Mowlの提案に、Gatitoは緑の大きな爪をシャキーンと鳴らした。
「けッ……言われなくてもそのつもりだ! あんなドブネズミ、骨も残さず噛み砕いてやる!」
数十分後。
廃墟となった大聖堂の広場。
発電機の調整を行っていたRatの前に、二匹の猫キラーが同時に立ちはだかった。
上空にはフクロウ姿へと変身し、鋭い旋回を見せるMowl。
地上には大きな緑の爪を構え、オラオラ気質全開で殺気を放つGatito。
「逃げ場はありませんよ、Ratくん! スペクター様の庭を乱す害獣として、私がエレガントに料理してあげます!」
「今日こそ終わりだドブネズミッ! 爪の藻屑になりやがれ!」
二方向からの完璧な挟み撃ち。
サバイバーにとっては絶望的な死の挟撃だった。
しかし、白衣を羽織ったRatは恐怖するどころか、ヘルメット上のサングラスを指先でクイッと押し上げ、赤い眼を爛々と輝かせた。
「やあやあ! 猫科の連撃実験かい? 速度、角度、質量の異なる二体の同時襲撃……実に興味深いサンプルデータが得られそうだ!」
「舐めるなッ!」
Gatitoが地を蹴り、ダイヤモンド並みの硬度を誇る緑の爪で空を切り裂く。
同時に空からMowlが音もなく急降下し、猛禽の爪をRatの喉元へ突き出した。
だが、Ratの動きはあまりにも鮮やかだった。
「予測範囲内だよ」
Ratは右手の黒手袋でポケットから小型の電磁ワイヤー弾を取り出すと、地上のガラ場へ正確に投擲。
弾け飛んだ高電圧ワイヤーが瞬時に展開し、空中で交差したMowlの翼と脚を絡め取った。
「ほわあああっ!? 」
機動力を奪われたMowlはあられもない姿で回転し、床へと墜落。
Ratは間髪入れずに、目の前に迫っていたGatitoの右腕を捉えた。
「なっ……!?」
Gatitoの力強い踏み込みを、Ratは自らの身体を軸にして流し、滑らかな体術でGatitoの体勢を崩す。
そして、驚くGatitoを逃がさないように、力強くその手首を掴み上げた。
物理的な力ではキラーであるGatitoが上回るはずだった。
しかし、Ratの掴む手には、マッドサイエンティストとしての狂気だけでなく、サバイバーとして数多の死線をくぐり抜けてきた男の確かな「腕力」と「強引さ」が込められていた。
「捕まえたよ、僕の愛しい検体」
「っ……あ……!?」
強引に引き寄せられ、Gatitoの背中が冷たい大聖堂の石柱に叩きつけられる。
逃げ場を完全に塞ぐように、RatはGatitoの両手首を頭上で片手にまとめ、壁に押しピンのように固定した。
そしてもう片方の手が、Gatitoの顎を強引にすくい上げる。
至近距離で重なる視線。
ヘルメットの影から覗くRatの赤い瞳には、いつものふざけた観察欲だけでなく、オスとしての逃がさないという色濃い「支配欲」が宿っていた。
「Mowlくんの忠告通り、僕を食べようとしてくれたのかい? ……でもね、Gatito。喰うか喰われるかの主導権を握っているのは、君じゃない」
低く、耳元に響く男らしい声。
顔が触れ合うほどの距離で放たれる強い体温と絶対的な強引さに、Gatitoの脳内で何かが激しく弾けた。
「ーーー~~~ッ!?」
背中の魚の骨柄パーカーが大きくはだけ、半透明な胴体の奥で心臓が跳ね上がる。
透ける肋骨が、狂ったような速度で上下を始めた。
赤い眼が潤み、耳がペタリと倒れる。
いつもはオラついて威張っているはずなのに、首筋や腕を強引に固定されると、身体が勝手に熱を帯びてしまう。
ネズミ相手に恐怖でも怒りでもなく、「男として押し倒されている」という事実に、胸が苦しいほど高鳴っていた。
「な……なに、カッコつけて……離せよバカ……ッ!」
強がりを口にするものの、Gatitoの声は情けないほど震えていた。
脇でワイヤーに絡まり「Gatitoさん! 助けて……というか私を無視しないでください!」と悶絶するMowlのことなど、今のGatitoの視界には一切入っていなかった。
ただ目の前で自分を鋭い瞳で見つめ返す、狂暴で男臭いネズミの存在だけに、身も心も支配されかけていた。