目黒side
あの夜から、多分少し翔太くんに避けられてる
踏み込みすぎたかもしれないと落ち込んでいると、舘さんに声をかけられた
「目黒、近々飲みに行くか」
「俺、今日の夜、空いてます」
「じゃあ、今日行こうか」
「はい」
仕事が終わった後に個室の飲み屋に入る
乾杯してすぐに舘さんは本題に入った
「何かあっただろ?」
「わかりますか」
「なんとなくね。翔太が目黒を気にしてる感じがして」
「ちょっと踏み込みすぎちゃったかも。少し避けられてると思います」
「それは目黒が悪いんじゃないよ。誰かに心配をかけそうになると距離を取りたがるのは、翔太の昔からの悪い癖だから」
「それは、近づいて欲しくないってことじゃないんですか?」
「いや、怖いんだよ。心を許した相手が離れていってしまう時のことを先に考えるんだ。だから自分から距離を取って殻に閉じこもる。でも裏を返せば、目黒に心を許しかけてるってこと。だから、お前の心配はまっすぐに翔太の心には届いてる。ただ、翔太は、それの受け取り方も返し方も分からないんだ」
「翔太くん、大丈夫ってしか言わないんです」
「そうだろうね」
「舘さんは知ってると思いますけど、翔太くんが大丈夫って言って笑ってる時は、大丈夫じゃない時ばかりで。大丈夫な時は、なんのこと?って聞いてくる。だから、翔太くんの大丈夫は信用しちゃいけないんだ」
「そうだな…。目黒、酷なことを言うかもしれないけど、どうか翔太の傍を離れないでやって。お前が望む関係性じゃないかもしれないけど、翔太が今1番心を許してるのは目黒だと思う。俺には、翔太のことを理解はしてやれても、心を解いてやることはできなかった。お前にはそれができる気がするんだ。」
「そんな言い方、断れないじゃん」
「悪いな。今日は好きなだけ飲め」
その日は久々にかなり飲んで、舘さんに散々文句をぶちまけてしまった
「大丈夫、大丈夫って言うばっかりで。……全っ然!大丈夫じゃないくせに」
「そうだなぁ」
「寂しそうに笑うんです。それもキレイに」
「あの顔はずるいよね」
「あんなの気になって仕方ない。でも結局言うのは大丈夫ばっかり。左手で前髪触りながら」
「その癖に気づいたのは目黒だけだよ」
「でも、気づいたのに、俺は何もできてない。横で眺めてることしかできてない」
「俺は、それだけ翔太のことを見てくれてるやつがいるってことが嬉しいよ。」
「悔しいです。自分の不甲斐なさが」
「俺はそんなこともないと思うけどなぁ」
「でも、やっぱり好きなんです…どうしようもなく。だから笑っててほしいのに…」
「そうだなぁ」
「笑っててくれれば、それだけでいいのに…」
「ほんとになぁ」
「他人の痛みにばっかり敏感で、誰かのためなら自分から矢面に立っていくくせに」
「うん」
「誰かから自分への好意には鈍チンで」
「あれはねぇ笑」
「諦めようとするタイミングでばっかり弱ってて、結局放っておけなくて」
「目黒は優しいな」
「でも俺はどこかで見返りを求めてる」
「そんなの、みんなそうでしょ」
とりとめもなく、同じようなことを延々と繰り返す俺の愚痴を、舘さんはひたすら穏やかに聞いてくれた








