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春。
新しい制服に袖を通した私は胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
今日から始まる新生活。憧れていた 高度育成高等学校に通うことになった。
最新設備が整い、卒業後の進路も約束された夢のような学校。
ここでなら、自分もきっと成長できる――そんな期待で胸がいっぱいだった。
少し緊張しながら乗り込んだ通学バス。
そこで、あたしはひとりの少年に目を留めた。
窓際の席に座り、静かに外を眺めている少年。
整った顔立ち。
感情をあまり表に出さない落ち着いた雰囲気。
それが、綾小路清隆との最初の出会いだった。
バスが走り出してしばらくすると、一人のお年寄りが乗ってきた。
車内には空席がない。
「どうしよう……」
席を譲りたい。
でも、急に立ち上がる勇気が出ない。
迷っているうちに時間だけが過ぎていく。
そのとき、ふと視線を感じた。
顔を上げると、少し離れた場所にいた彼と目が合った。
彼は何も言わない。
ただ静かに、こちらを見ていた。
不思議と、その視線に背中を押された気がした。
「す、すみません! どうぞ!」
あたし立ち上がり、お年寄りに席を譲った。
「ありがとう」
優しい声に、胸がほっと温かくなる。
そして再び視線を向けると、彼はもう窓の外を見ていた。
けれど、ほんの少しだけ口元が和らいだような気がした。
学校に到着し、クラス発表を確認する。
1年Dクラス。
あたしは期待と不安を抱えながら教室へ向かった。
教室の扉を開けた瞬間――
「あっ……」
思わず声が漏れる。
そこには、今朝バスで見かけた彼がいた。
彼は教室の後ろの席で静かに座っていた。
その姿を見ただけで、なぜか少し安心する。
まだ言葉も交わしていない。
名前すら知らない。
それでも、あたしの胸の中には、小さな予感が芽生えていた。
この出会いが、自分の高校生活を大きく変えることになる――と。
窓の外では、春の風が優しく桜を揺らしていた。
あたしの恋と青春、そして少し特別な物語は、
こうして静かに始まった。
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