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羽海汐遠
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#魔道具職人
こはる
471
フユめん
190
地炎獣出現の報告を受けて、アウレリウスは素早く動いた。
執務室に主だった百人隊長たちを集めて、情報の取りまとめを行った。
「標的の目撃位置と時間は?」
ペトロニウスが答える。
「一時間前、東に二つ目の見張り塔です。距離は目視でおよそ北に六キロメートル。魔の森のふちを出たり入ったりしていたと」
「東二の見張り塔に攻城兵器を集めろ。スコルピオとハルパックスだ」
「はい」
「隊列が整い次第、カムロドゥヌムから出撃する。緑の狼煙一本と赤の狼煙二本を上げておけ」
「はっ!」
緑の狼煙は攻城兵器の集約命令、赤の狼煙は集約先の位置を示す。この場合は東に二つ目の見張り塔だった。
アウレリウスはすぐに執務室を出た。司令部前の広場には、兵士たちが整列し始めている。
規則通りの隊列を取った兵士たちの前で、アウレリウスは声を張り上げた。
「兵士諸君! 知っての通り、地炎獣が出現した。大型の魔物討伐は久方ぶりになるが、何も恐れることはない。我々は常に訓練を怠らず、魔物どもに勝利を続けてきた。このカムロドゥヌムを守り、人々を守り続けてきた。我々の覚悟は既にできている。今もう一度、新たな勝利によってカムロドゥヌムを、人々を、家族を守る!」
――オオォッ!
兵士たちから|鬨《とき》の声が上がる。
彼らは今年、食事事情が改善されて体に力がみなぎり、流行り病も起こっていないために健康で、気力にあふれていた。
士気はじゅうぶんに高い。
演説を終えたアウレリウスは騎馬にまたがり、軍団の先頭に立って北門から出撃した。
アウレリウスに率いられたドリファ軍団は、東二の見張り塔にたどり着いた。
攻城兵器はまだ全てが集まっていなかったが、地炎獣は魔の森を出てウルピウスの防壁へと移動を始めていた。その歩みは巨体に対してそう速くはないが、それでも一時間もあれば防壁まで到達するだろう。
(どういうことだ。魔物が自ら魔の森を出てくるとは)
アウレリウスは内心で眉をしかめた。
たとえ強力な個体であっても、魔物は基本的に魔の森を出ようとしない。
今までに例外は魔王竜だけだった。アレは出現するなり多数の魔物を引き連れて、ウルピウスの防壁へ、カムロドゥヌムへ近寄ってきたのだ。まるで軍隊が敵地に侵攻するように。
八年前の惨劇が脳裏をよぎり、アウレリウスは歯を食いしばる。
「攻城兵器が足りませんが、どうしますか」
ペトロニウスが問いかける。アウレリウスは答えた。
「このまま攻撃を仕掛ける。残りの兵器を待っている時間はない。開門せよ、出撃する!」
「はっ!」
見張り塔近くの門が開かれて、兵士たちが次々と防壁を通り過ぎていく。兵士に混じって集まっただけの攻城兵器――スコルピオとハルパックス――も引き出された。
ウルピウスの防壁と魔の森の間は平地で、視界をさえぎるものはない。
地炎獣の象の数倍もの巨体は既に目視できる距離にある。
兵士たちは防壁を背に隊列を展開させた。
「スコルピオ、用意!」
アウレリウスの号令に従い、攻城兵器のスコルピオが準備された。
スコルピオは大型の弩弓で、ねじりばねを使った矢の射程距離は一キロメートルを超える。さらに対魔獣として大型矢の鏃には毒が塗られていた。
ギリギリと音を立ててスコルピオに矢がつがえられる。
「標的との距離、一キロメートルを切りました!」
見張り塔の兵士が叫んだ。
アウレリウスは上げた手を振り下ろす。
「スコルピオ、射出!」
空を切り裂く音をいくつも発して、大型矢が放たれた。狙いは正確で、矢は地炎獣の分厚い外殻を突き破り体に突き刺さる。
――グガァアアアァアアッ!!
地炎獣が咆哮のような悲鳴を上げた。けれども致命傷ではない。
魔獣は苦痛と怒りの炎を瞳に宿し、ウルピウスの防壁へ向かって突進を始めた。
「スコルピオ、第二射用意! 魔法隊は魔力障壁、水!」
水の魔力を帯びた壁が兵士たちの前に展開される。それは地炎獣が吐き散らした炎を受け止めて、水蒸気を上げながら消えていった。
同時にスコルピオがもう一度放たれる。
距離が近くなった分、大型矢はより深く地炎獣の体に突き刺さった。それでも魔獣は倒れない。
「ハルパックス、射出!」
もう一種類の大型兵器が放たれた。
ハルパックスは鉤爪のついたロープを射出する兵器で、本来は海戦で船の動きを妨害するために使う。
鉤爪は地炎獣の体に絡みついて、突進の速度を遅くする。魔獣はうるさそうにロープを払おうとするが、今回は敵を見越して氷の魔力をロープに込めてある。鉤爪からロープから氷の魔法がほとばしり、いっとき、魔獣を地面につなぎとめた。
「スコルピオ、第三射!!」
動きを止めた地炎獣に、三たびの矢が放たれた。
もう間近に迫った的を外すはずもなく、毒の大型矢は深く深く魔獣の体をえぐる。
地炎獣は悲鳴を上げた。先ほどのような咆哮ではなく、明確に命が尽きつつある苦痛の声だった。
しかし地炎獣は氷のロープを食い千切るように振り払い、特大の炎を吐く。
それは張り巡らされていた水の魔力障壁を吹き飛ばし、兵士たちと攻城兵器の一部を黒焦げにした。
さらに魔獣は再度の突進をする。全身から大型矢を生やしながら、兵士たちを踏み潰そうとする。
もうスコルピオを撃つ時間はない――。
間近に迫る魔物の巨体に、兵士らは剣を抜いた。対人用の武器が地炎獣に通じるはずもなかったが、戦いを諦めるわけにはいかない。
もしも彼らがここで負けてしまえば、魔物は防壁を乗り越えてカムロドゥヌムの町へ向かってしまうだろう。
「――ッ、第四分隊、散開!」
魔獣の突進経路を読んだアウレリウスが声を上げる。
兵士たちは慌ててその場を離れ……。
ドォンッッ!!
地炎獣は頭からウルピウスの防壁に衝突した。防壁と地面とが激しく揺れるほどの衝撃。地炎獣の高熱の体温が石造りの防壁を焦がし――。
そこで、魔獣は動きを止めた。
もうもうと上がる土煙と水蒸気の中、地炎獣は絶命していた。
兵士たちの勝利の雄叫びが響く。
けれど一方で炎に巻かれて死んだ者もいる。
アウレリウスは勝利を祝いながらも、黒焦げになってしまった死者たちを運び出した。カムロドゥヌムに家族が残っている者は死亡を伝えて、埋葬してやらなければならない。
地炎獣の骸も問題だった。
放置しておけばいずれ腐って悪臭と病原体をばら撒くだろう。臭気が他の魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。
しかしこの魔獣はかなりの巨体の上に外殻が非常に硬く、解体が容易ではない。関節部などから地道に刃を入れて、外殻を剥ぎ取っていくしかなかった。
ただし剥ぎ取りさえすれば頑丈な外殻は素材として良い値段で取引される。当然、魔石も出る。
実際、地炎獣出現と討伐完了の噂を聞きつけて、カムロドゥヌム以外からも商人たちが買付にやって来た。
アウレリウスは素材の売却代金を、兵士たちのねぎらいと死亡者の遺族への慰労金などに当てることにした。
焼失してしまった攻城兵器の補充も必要だ。
これらの攻城兵器は大型魔物の討伐に必須であり、常に一定数を確保しなければならない。
特にスコルピオのねじりばねは、人間の髪の毛で作る。人毛は強靭で使い勝手がいいのだ。
カムロドゥヌムや周辺の農村の女性や奴隷たちに供出を命じれば、彼女たちは積極的に髪を切って持ってきてくれた。長く伸ばした髪はユピテル女性の象徴だったが、その大切さ以上に魔物討伐の役に立てる正義感があったのだ。
そういった処理をアウレリウスは淡々とこなしていった。
コメント
1件
うわー、今回の話すごく重くて熱かった……😢💥 アウレリウスの指揮、冷静でかっこよかったけど、地炎獣の迫力が半端なくて読んでるこっちまで息を止めちゃった。 それでいて、死んだ兵士たちのことや素材の処理まで丁寧に描かれてて、ただの戦闘シーンで終わらせないところが灰猫さんらしいなって思った。 最後の後処理パート、結構好き。戦いの後も現実は続くんだなって染みる。