テラーノベル
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ユイにとって自分のママが本当はキツネだということは、それほど大きな問題ではなかった。
ママは毎月一回、つきが姿を隠す新月の夜になると、山に帰らなくてはならなかったが、
そんなことぐらい別にどうってことない、とユイは思っていた。
五年生のユイのクラスには、お母さんが国際線のスチュワーデスをしていて、
一週間も家を開ける子だっているのだ。
新月の晩、ママが山で何をしているのかユイはよく知らない。
でも、ずっと前におじいちゃんが、
「ツキノヒカリの消え失せる朔の間、わしらは本性を隠せなくなる」
といっていた。朔というのは新月のことで、つまり、月がすっぽり太陽の影に入ってしまっている間、
ママは狐の姿に戻ってしまうらしいのだ。ユイは狐の姿に戻ったママを見たことがない。
「お前たちに狐の姿を見られたら、ママは、人間の街で暮らせなくなるのさ」
と、おじいちゃんは言う。それなのに、そんな話をするとき、おじいちゃんは、でっかい狐の姿をしたまま
だらしなくソファに寝そべり、ふさふさとした尻尾を振ってみせるのだった。
「じゃ、どうして、おじいちゃんは、キツネの格好のまま、家に遊びに来たりするの?いっつも人間に化けとけばいいのに……」
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