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🎧続編「アンコールの、その先で」・2
きっかけは、ほんの一言だった。
「一回だけ、やってみない?」
軽いノリ。
冗談みたいな提案。
でも。
その“軽さ”の裏に、少しだけ本気があった。
小さなライブイベント。
持ち時間は、三十分。
告知も、ほとんどしていない。
ただ、ひっそりと名前が並ぶ。
暁 琉夏/月城 冬星──と。
楽屋。
久しぶりに、同じ空間で準備をする。
あの頃みたいに、言葉は多くない。
でも。
沈黙が、少しも重くない。
琉夏「……一曲目、どうする」
ベースを調整しながら聞く。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「適当でいい」
変わらない答え。
思わず笑う。
琉夏「結局それかよ」
冬星「それでやってきただろ」
淡々とした声。
でも。
少しだけ、懐かしい。
ステージ袖。
名前が呼ばれる。
ざわめきが、少しだけ広がる。
知らない顔の方が多い。
でも。
何人かは、気づいている。
「あれ、もしかして──」
そんな空気。
ステージに出た 。
ライトが当たる。
客席を見る。
少ない。
でも、ちゃんといる。
──“待ってたやつ”が。
琉夏「……始めます」
短く告げる。
合図はない。
あの頃と同じ。
ギターが鳴る。
わざと外した音。
でも。
昔より、少しだけ優しい。
ベースを重ねる。
今度は、引っ張られすぎない。
自分のリズムを保ったまま。
声を乗せる。
音が、混ざる。
(……あ)
一瞬で、分かる。
違う。
でも。
ちゃんと“これ”だ。
あの頃みたいに、壊れそうじゃない。
でも。
ちゃんと、引っかかる。
ちゃんと、残る。
二曲目。
三曲目。
少しずつ、熱が上がる。
客席の空気も、変わる。
最初は戸惑っていた人たちが。
だんだん、飲み込まれていく。
歪んでるのに、離れられない音。
(……届いてる)
はっきり分かる。
あの頃より、ずっと。
最後の曲。
イントロが鳴る。
自然と、目が合う。
ほんの一瞬。
でも、それで十分。
音が、重なる。
ぶつかる。
でも、崩れない。
選んで、繋げている。
(……これだ)
胸の奥が、強く鳴る。
これが、今の自分たちの音。
依存でもなく。
逃げでもなく。
ただ、選んで鳴らしてる音。
曲が終わる。
一瞬の静寂。
それから。
大きな拍手。
歓声。
さっきまでとは、明らかに違う。
誰かが叫ぶ。
「アンコール!」
その声に、何人かが続く。
手拍子が揃う。
名前が呼ばれる。
──あの日と、同じ光景。
でも。
今度は、違う。
琉夏が、少しだけ笑う。
冬星を見る。
冬星も、わずかに口角を上げる。
琉夏「……どうする」
小さく聞く。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「……やる?」
軽く返す。
その言葉に、少しだけ驚く。
でも。
すぐに、笑う。
琉夏「……いいのかよ」
冬星「今なら」
短い答え。
それで、全部分かる。
あの頃は、“いらなかった”。
終わるために。
でも今は。
続けても、壊れない。
ステージに戻る。
歓声が上がる。
ベースを構える。
ギターが鳴る。
──アンコール。
音が、もう一度重なる。
でも。
それはもう、“縛り”じゃない。
ただの、“選択”。
ただの、“続き”。
曲が終わる。
今度こそ、本当に終わり。
でも。
誰も、寂しそうじゃない。
むしろ。
どこか、満たされている。
ステージを降りる。
夜の空気。
並んで歩く。
あの頃と似てる。
でも、違う。
琉夏「……なんかさ」
ぽつりと呟く。
琉夏「やっとちゃんと、やれてる気する」
本音だった。
全部ひっくるめて。
今の音が、一番しっくりくる。
冬星は、少しだけ頷く。
冬星「だな」
短い同意だ。
少しだけ歩く。
立ち止まる。
でも。
今度は、別れの空気じゃない。
琉夏「……またやる?」
自然に聞く。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「……まあ」
曖昧に頷く。
それでいい。
約束しない。
でも。
続いていく。
“アンコールは、もういらない”
そう思っていた。
でも。
今なら分かる。
──アンコールは、“終わりのため”じゃなくていい。
続けるために、あってもいいってことを。