初めての頃のように

そうやって、1カ月が経った。目黒が我慢出来ない。

練習日は一緒にいるのに。

世間話しかしない。

すぐそばにいるのに触れることもない。

渡辺は、ラウールと話して笑ってる。ラウールも2人のことは知っているが、口出ししない方がいいと思って当たり障りのない話をしている。

昼から仕事の日、早朝、渡辺は2人で楽しかった海に来ている。

この海は、散歩して端の岩陰でキスをしたり、誰もいない時、手を繋いで歩いた。

1人砂浜に座り、海を見つめている。涙をポロポロ流しながら。

渡辺ー目黒・・。

2人でいると楽しい。

「大好き」って言ってくれる。

大事にされてる気がする。

渡辺は、同じくらい目黒は大事にしているつもり。

なのに、すぐ不安になる。

長く一緒にいて、結婚までしてるのに、なぜか不安になる。

目黒を信じてる。なのにこの不安は何だろう？

時々、あのスタンプを押された時みたいに、知らない人に見える。遠い存在に感じる。

怖いと思ってしまった自分がいる。

あんな目黒は知らない。

窓の外を見ながらタバコを吸う目黒なんか見たことない。

自分は何を知っていて、どれだけ愛しているのだろう。

最初に「好き」と言われて戸惑い、嫌悪していた自分。

ずっと告白されて、だんだん「好き」になっていった自分。

今では、きっと自分だけが「大好き」なんだと思う。

目黒だけしかいらない。

でも、目黒は違う。「好き」になる人がいる。自分とは違う。

この気持ちは寂しいんだと思う。

阿部ー翔太、そろそろ話してもいいんじゃない？

渡辺ーこの気持ちは寂しいのかな。

阿部ー泣きそうな顔してる自覚ある？寂しいんだよ。

渡辺ー何を話せばいい？

阿部ー翔太の思ってること。

渡辺ー俺の？

阿部ー目黒は今も待ってるよ、翔太が1人になって考えたこと話してくれるの。

渡辺ー何も考えてない。寂しかっただけ。

阿部ー練習行こう？

渡辺ー俺、あの2人と一緒にいていいのかな？

阿部ーどういうこと？

渡辺ーラウールはいいけど、目黒といていいのかな？

阿部ー世間話しかしないんでしょ？

渡辺ーん。

阿部ー目黒が待ってるのは事実だけど、口にしないんでしょ？ だったら一緒にいても大丈夫。

3人でいても、くだらない話ばかり。笑いながら目黒と目が合う。

渡辺ー今日、お前んち行く。

目黒ーん、待ってる。

ラウールが嬉しそうな顔をする。

渡辺は、踊っていても、今夜の話が上手く伝わるか気になる。

目黒は渡辺は大人だと言う。

だけど、今夜のことを考えて、ドキドキしているのが大人なんだろうか？