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【fk】
「“にゃす”って言うの可愛すぎない?」
「それ俺聞かなきゃいけない話?」
取材が終わった後、それぞれが次の仕事や帰路に着く中面倒くさい奴に掴まってしまった。
「ふっかこの後オフでしょ?」
「オフだったのに今無駄な時間使わされてる」
「あれ聞けると一日運気上がるんだよね」
「えっ、もしかして俺の声聞こえてない?」
ふはっ、と笑う顔は凜々しくて男前なのに、頭の中はピンクの馬鹿のことで一杯らしく、そのギャップに不覚にも笑みがこぼれてしまう。
俺達の生活圏からは少し離れた、個室のあるカフェに連れ込まれて小一時間。
最初こそリーダーらしく仕事の話をしていたものの、気付けば佐久間の話ばかり。
「照あれ好きだよね」
「逆に嫌いなやついんの?」
「まあ可愛いよね、あざといけど」
「は?俺のなんだけど」
普段は冷静で頼りになる照の知能指数をここまで下げてしまうなんて、佐久間という男は本当に恐ろしい奴だと思う。
「話出たついでに言うけどさ、佐久間が可愛い擬音出す度ににやつくのなんとかなんないの?」
「えっ出てる?」
隠してるつもりだったことに驚きだよ…
「何回聞いても新鮮ってすごいよね」
「うんすごいね、お前の頭ん中見てみたいわ」
「可愛いと好きの大渋滞起こってる」
「強火佐久間担じゃん…素直になったもんだね」
今でこそ可愛いやら好きやら余計なことまで口に出すようになったけど、元々照は歯の浮くような台詞を積極的に言える質ではなかった。
佐久間と付き合うことになってから、素直な気持ちを言葉にすることに自信がついてきたのか肯定的な言動が増えた気がする。
本人の前では照れて濁している姿をよく見るけど、きっと二人きりの時には愛情表現もできているのだろうとなんとなく思う。
「佐久間といたら変に意地張ったり強がったりすんの馬鹿らしく思えてきて」
「良くも悪くも思ったことなんでも口に出しちゃうもんね」
「かっこいいよ、ほんと」
あの素直さはなりたいって思ってなれるもんじゃないけど、ずっと一緒にいたらさすがに影響受けちゃうんだね。
「伝えたことに対しても全力で応えてくれるから、喜んでほしくて俺も言葉にしようって思える」
「侵食されてるねー」
指をさして揶揄うとやめろよ、と一蹴されてしまったけど、その表情には幸せが滲んでいた。
表立って応援できる恋ではないけれど、2人の纏うふんわりした空気には仕方ないなと思わせてしまう魅力がある。
照のやきもちにはメンバー全員呆れてしまうことはあれど、それ以上にお互いに与え合っている影響がいい方に向いているのはみんなが感じていると思う。
初めの頃こそ不安や戸惑いもあったけど、雰囲気が柔らかくなった照と、いい意味で何も変わらない佐久間に誰も反発することなく温かく見守っている。
なんならいじるネタが増えて楽しんでいる奴もいる程だ。
いいグループになったなとしみじみ思う。
「あ、俺もちょっと相談あるんだけど」
…と言いかけたときに、照のスマホが鳴った。
画面を見た瞬間の表情で嫌でも相手が誰だか分かってしまう。
「佐久間?」
「うん、もうすぐ仕事終わるって」
「ほーん」
「この近くでやってるはずだからもう行くわ」
「えっ」
俺の話は!?と引き留める間もなく帰り支度を済ませた照に文句の一つでも言おうかと思ったけど、
「ふっか今日はありがとね」
と、満面の笑みで言われると伝える気は失せた。
自分は飲み終わってから出るからさっさと行けと手を振ると、少し申し訳なさそうな顔をして、それでも浮き足だった歩みで店を後にした。
その後ろ姿を見ていると、たまにはこんな勿体ない時間の使い方もありか、と納得させてしまう2人の微笑ましさに頬が緩む。
佐久間の現場にあわせてわざわざこんな遠い場所にまで足を伸ばす照のいじらしさにほっこりしたのも束の間、
あれ…俺もしかして都合よく暇つぶしに使われただけ…?
と、嫌なことに気付いてしまって、急に虚しい気持ちになる。
佐久間、お前の彼氏盲目になりすぎてるよ…と心の中で呟くと、呑気な声で「にゃす♡」と幻聴が聞こえた気がして1人頭を抱えた。