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ポーロスと別れてから、ゆらは真っ先に駅前の交番へ向かった。
(カメラは持ってないから奴の姿を録画はできなかったけど……ネガイストンを証拠として出してさっきのことを話せば、警察は対応してくれるはず!)
あと五歩も進めば交番に着く距離まで来たとき、急にゆらの足は進まなくなった。
後ろに引き返したり等の動作は通常通り可能だが、交番に近付くことはできない。
(この程度の距離……叫べば伝わるはずだ。)
「すみまっ………!?」
声が出ない。
「あー、あー。ちゃんと声は戻った感じか……?なら、もう一度。けいさt……」
(まさか、警察とあたしが接触する為の行動が一切できないようになっている?次はネガイストンを地面に置いてみるか。)
今度はネガイストンを学校用鞄から取り出そうとしたが、ネガイストンはびくとも動かなかった。
(ネガイストンを貰った時点であたしは嵌められたのか……)
あれから、ネガイストンを自室に置いた状態で(ネガイストンを他人が見れるようにならなければ、ネガイストンを持って動かすことはできた。)父親にポーロスのことを話そうとしてみたが、やはり声は出なかった。
紙に書いてみたり手話や暗号などによっての伝達も、全て無理だった。
奇妙な生物と遭遇してから、明くる日。
化政公園は休日でも、湿った雰囲気と一つしかない遊具も錆びている所為なのか、ゆら以外に人はいなかった。
(あ、本当にまだいた。)
昨日ポーロスがいた低木を覗くと、ポーロスはその中で死んだように眠っている。
(これにも睡眠の概念があるのか……或いは、眠っているように見せかけているのか。)
「ポーロス?あたしが来た。ネガイストンについて聞きたいことがあってね。」
ゆらの声に反応して、無防備なポーロスは丸っこい目を開けた。
「ポ、ポー?えっとキミは……何て名前だったかポー?」
「そういえば、名乗ってなかったね。まだ警戒すべき存在に、本名を知られるのは嫌だから〜……好きなように呼んでくれて構わない。」
「プリキュアには、本当の名前とは別にプリキュア名があるとかっこいいとポーロスは思うポー。最初はキュアから始まって、カタカナが良いポーね。例えば、キュアラッキーみたいな……」
「キュアカタストロフィとかは?」
「カタストロフィはどういう意味ポーか?」
「大災害、破滅って意味の英単語。」
「ポジティブな言葉がいいポー!あ、キュアポジティブはどうポー?」
「暗い意味は駄目なら……キュアジェネシスで。起源、創世を意味しているよ。」
「ソウセイ?はわからないけど、まぁ良いと思うポー。」
「それじゃあ、本題に入るね。あたしがネガイストンやポーロスのことを他人に伝える為の行動が、全てできなかった。何故?」
「できないって、どういう感じなんだポー?」
「交番に行こうとしたら、あと数mのところで足が進まなかったりとかだね。」
「なんか怖いポーね……ポーロスにはわかんないけど、おじいちゃんから聞いた伝説だと『プリキュアになれる人間は、自身がプリキュアであること等を伝えてはならない。』というお話があったポー。それが関係しているかもしれないポーね。」
(知らないフリでもしているのか?真実を語る者は機知のない人間だけであるとはいえ。)
「成る程ね。ネガイストンはどのような条件下で、プリキュアに変身させるんだい?」
「地球にある、人間が作った物の中にネガイストンを入れて……何かスイッチを押したりとかすれば変身できるはずだポー。でも、変身した後の姿とかは、詳しく設定しないといけないと思うポーね。」
「物を媒体にする感じか。」
「人間がプリキュアに変身する様子は見たことないから、ポーロスもあんまり知らないポー。プリキュアは何か可愛い衣装を着ているけど、鎧ぐらいの防御力が服にあるのがポーロスのイメージだポー。」
ゆらは長方形で縦長の筐体を、ポーロスがいる低木の中に下から入れる。
「……これは何ポー?」
「無線機だよ。離れていてもこれであたしと通話できる。繊細な機械だから、肌身離さず持っていてね。水には濡らさないように。」
ポーロスにあげた無線機には、超小型監視カメラとGPSも取り付けておいたものだ。
帰ってきたゆらは、冬休み前に技術の授業で製作したラジオを取る。
(一度作ったから構造を理解しているし、お兄が中学の頃に作った同じものがあるから一つなくなっても大して困らないはずだ。)
物置の自室で、外部の電波を受信する為の部品を取り出し、そこにネガイストンを入れる。
ネガイストンに繋がるスイッチを押すと、目の前がピンク色になった。
(は?一過性脳虚血発作……ではないな。まさか、変身する際に視界がこのようになるのか?人体にかなり有害な気がする……)
自分の手足が動けているのを確認する。
足は地面についている感覚がなく、浮いているみたいだった。
試しに、足にいつも履いている運動靴を履いた状態にすることを想像すると、足にはその運動靴が装着された。
上半身に鎧を装着するイメージをしてみたが、鎧は出てこない。
そしてピンク色の視界は、物置の自室へと戻った。
(一度身に付けたものでないと、装着できないのか?空間は体感二分程度で戻ったけど……装着のイメージに失敗すると空間が消える可能性もある。そして何よりも……変身というよりは、人体改造って感覚だな。)
ポーロスに渡したものとは別の無線機を取り出す。
「ポーロス、聞こえている?」
『すごい、機械からキュアジェネシスの声がするポー!』
「ラジオの部品の一部をネガイストンに変えて、そこに繋がるスイッチを押した。そしたら、ピンク色の空間の中であたしが浮いてる感じになったんだ。」
『きっとそれが、変身するときの空間ポーね。』
「履いたことのある靴のイメージをしたら出てきたけど、鎧を装着する想像をしても変化はなかった。そしたら、ピンクの空間は消えたんだ。身に着けられない物にどんな条件があるのか知りたい。」
『可愛くない見た目の衣装は身に着けられないはずだポー。それと、空間は少し経てば消えると思うポーね。』
父の部屋から借りてきた古いノートパソコンを起動させ、ポーロスの無線機に取り付けたGPSを確認する。
化政公園から移動はしておらず、監視カメラも紫陽花の低木の葉を映していた。
『……キュアジェネシス?どうしたポーか?』
「ああ、またあの空間に行ってみるよ。今度は、スイッチを押してから空間が消えるまでの時間を測るつもり。」
『あと、髪の毛とか目の色も変えられると思うポー。』
パソコンのサイトにあるストップウォッチを作動させると同時に、ラジオのスイッチを押す。
再びピンクの空間が視界を埋め尽くした。
桃色のプリーツミニスカートを想像すると、それが装着される。
元々履いていたズボンは消えた。
鴇色の髪を黒く染めるイメージをすると、その通りに黒くなった。
髪の伸び縮みもできるようだ。
体感二分ぐらいで、空間が消える。
パソコンのタイマーを確認すると、三秒が表示されていた。
「最後にあたしが話してから、一分以上経っているように感じた?」
『一分って一秒を六十回数えることポーよね。あ、一秒がどのくらいかは分かってるポー。それで、キミが話してから一秒が五回以上経ってると思うポー。六十回も経過してはないポーね。』
(空間内での時間は経過しないのか?)
ゆらは何度も空間を展開させて、ポーロスと会話を挟みながら試行錯誤をした。
_____三十六回目の空間消滅後。
「変身後の姿は明確に想像できる。それじゃ、掛け声等も合わせて変身してみるよ。」
『応援してるポー!』
ゆらはエテルノラジオと名付けた、ネガイストンの入ったラジオのスイッチを押す。
視界はピンク色の空間に包まれる光景も、もう慣れた。
「プリキュア!デイ·フェアヴァンドルング!」
長い靴下にスニーカー、スパッツの上にはプリーツミニスカートが装着される。
どれもシクラメンピンクを基調とした衣装だ。
ホルターネックの服に撫子色のケープが羽織られる。
髪と睫毛は、長さが変わらないまま黒く染まる。
瞳は、十字のハイライトの入ったチェリーピンクになった。
「凌駕する桜桃の大審問官!キュアジェネシス!」
空間が消滅しても、肉体は変身したときと同じ状態のままだ。
(直感的にだけど、人間の肉体ではなくなった感じがするな……交番に進めなくなった時点で人体に危険な影響は既に及んでいたけどね。)
人間失格。もはや、ゆらは完全に人間ではなくなった。