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#カントリーヒューマンズ
ある日、ドイツはいつも通りだった。
「本日の進行ですが、まずこちらの案件から処理します、兄さん」
いつも通りの敬語、いつも通りの距離感。
それなのに――
ナチは、ほんのわずかな違和感を覚えていた。
「……近いな」
「そうでしょうか」
ドイツは首を傾げるだけで、自覚はないらしい。
ナチの隣に立ち、書類を差し出す距離が、ほんの数センチ近い。
肩が触れそうで触れない、その曖昧な位置。
「問題ありません。効率的ですので」
「……そうか」
ナチはそれ以上言わなかった。
⸻
数時間後。
ナチ:「……少し休憩にする」
ドイツ:「はい、兄さんもお疲れでしょう」
ナチ:「お前もだろう」
ドイツ:「いえ、問題ありません」
(即答)
ナチ:「……」
⸻
しかしその数分後。
ドイツ:「……兄さん」
ナチ:「何だ」
ドイツ:「少しだけ、失礼します」
(そう言って、隣の椅子に座る)
ナチ:「……わざわざ隣に来る必要はないだろう」
ドイツ:「距離が近い方が、すぐ対応できますので」
ナチ:「……」
(言い返せない)
⸻
ドイツ:「……」
(じっと資料を見ている)
ナチ:「……おい」
ドイツ:「はい、兄さん」
ナチ:「近い」
ドイツ:「そうでしょうか」
ナチ:「そうだ」
ドイツ:「申し訳ありません」
(しかし動かない)
ナチ:「離れろ」
ドイツ:「はい」
(少しだけ椅子を引く)
(でもまだ近い)
ナチ:「……」
⸻
しばらくして。
ドイツ:「……兄さん」
ナチ:「何だ」
ドイツ:「少しだけ」
(ほんの少しだけ、体重を預けるように寄る)
ナチ:「……おい」
ドイツ:「……すみません」
(声が少しだけ弱い)
ナチ:「……」
⸻
ナチはそこでようやく気づく。
――こいつ、疲れているな。
⸻
ナチ:「……無理をするな」
ドイツ:「していません」
ナチ:「している」
ドイツ:「……」
(沈黙)
⸻
ドイツ:「……兄さんは」
ナチ:「何だ」
ドイツ:「大丈夫ですか」
ナチ:「問題ない」
ドイツ:「……そうですか」
⸻
(少し間)
ドイツ:「……なら、よかったです」
(ぽつりと)
⸻
ナチ:「……」
(言葉が詰まる)
⸻
ドイツ:「……」
(そのまま、少しだけ肩が触れる)
ナチ:「……ドイツ」
ドイツ:「はい、兄さん」
ナチ:「離れろ」
ドイツ:「……はい」
(でもすぐには離れない)
⸻
ナチ:「……お前」
ドイツ:「はい」
ナチ:「自覚はあるのか」
ドイツ:「何のことでしょうか」
ナチ:「……距離だ」
ドイツ:「……ありません」
(即答)
ナチ:「……そうか」
⸻
(少し沈黙)
ドイツ:「……兄さん」
ナチ:「何だ」
ドイツ:「……ここにいてもよろしいでしょうか」
ナチ:「……好きにしろ」
ドイツ:「ありがとうございます」
⸻
(完全に隣に落ち着く)
(ほんの少し、寄る)
⸻
ナチ:「……調子が狂うな」
ドイツ:「申し訳ありません」
ナチ:「謝るな」
⸻
(しばらく無言)
ドイツ:「……」
(呼吸が少し落ち着く)
ナチ:「……」
(ちら、と横を見る)
⸻
ドイツ:「……兄さんがいると」
ナチ:「……」
ドイツ:「少し、楽です」
⸻
ナチ:「……」
(完全に固まる)
⸻
ドイツ:「……すみません」
ナチ:「謝るなと言っている」
⸻
(少し間)
ナチ:「……好きにしろ」
ドイツ:「はい、兄さん」
⸻
その日、ドイツは最後まで隣にいた。
距離は近いまま。
触れそうで触れないまま。
そして――
ナチは一度も、それを強く拒まなかった。
⸻
後日。
ナチ:「……ドイツ」
ドイツ:「はい、兄さん」
ナチ:「距離を保て」
ドイツ:「はい」
(きっちり一歩下がる)
⸻
(少し間)
ナチ:「……いや」
ドイツ:「?」
ナチ:「……やはりいい」
ドイツ:「……?」
⸻
ナチ:「そのままでいい」
ドイツ:「……承知しました、兄さん」
⸻
(ほんの少しだけ、また距離が近くなる)
⸻
ナチ:「……」
(小さく)
ナチ:「……全く」
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