< pnside >
診察室を出てからずっと胸の奥がざわざわしていた。
三年ぶりに再会したのに、恋の話なんて一度も触れられなかった。
あの夜、お互いに好きだって言ったのに。
でも、医者と患者という線がまだ残ってるのはわかってる。
わかってるけど……。
期待なんてしてなかったと言えば嘘になる。
今日はいつもより診察が短く感じた。
先生の声が前より落ち着いていた気がして、距離がほんの少しだけ遠くに感じた。
俺の話を聞いてはくれる。
穏やかで優しいことは変わらない。
でも、その優しさの奥に以前はなかった「線」があった。
俺が昔のことを思い出して、ちょっとだけその話題に触れそうになった瞬間。
先生は一度だけ言葉を探したような間を作った。
その微妙な沈黙が、妙に胸に残ってしまっている。
本気で避けてるわけじゃないと思う。
でも、触れちゃいけないものみたいに、大事に扱われてる感じがした。
俺のことを突き放したいわけではない。
でも、近づきすぎるといけないと思っている。 それが全部先生の態度からわかった。
診察が終わって、立ち上がろうとした時。
rd「気をつけて帰ってね」
rd「疲れてるでしょ?」
その声だけで、なんか全部崩れそうになった。あの声、三年前と同じだった。
落ち着いてて、優しくて、少し儚い。
名前を呼ぶときの響きなんて、耳から離れない。
出入口の近くまで歩いて、呼ばれた。
rd「ぺいんと」
振り返ると、先生は少し微笑んでいた。
三年前、初めて笑ってくれた日のことを思い出すくらい、静かで優しい笑い方だった。
pn「……なに」
rd「無理しないで」
それだけで、喉の奥がぎゅっとなった。
そんな言葉を言われるほど、俺のことまだ気にしてくれてるんだって思う。
思うと同時に、距離があるのも感じて、胸の奥がぐちゃぐちゃに混ざった。
病院を出てからもずっとその言葉が残っている。
無理しないでって、先生が言うと、どうしてこんなに響くんだろう。
家に着いても落ち着かないままベッドに座ると、今日先生が取ったあの「一拍」の間が何回も頭の中で再生された。
本当は俺のことどう思ってるんだろう。三年前と同じなんだろうか。
それとも、大人になった俺にはもう別の距離感が必要なんだろうか。
考えてもわからない。
わからないのに、考えずにはいられない。
そのせいで、心が変に忙しい。
名前を呼ばれた声だけが、やたら鮮明に残ってる。
恋の話には触れられなかった。
でも、触れなかったからこそ、もっと気になってしまう。
先生のあの優しさの奥にあるものが、なんなのかわからない。
診察中、俺の目を見て話す先生の表情が少しだけ揺れた気がして。
それがただの疲れなのか、それとも俺のことをどう扱えばいいのか迷ってのことなのか。
答えはどっちかわからない。
わからないはずなのに、その小さな揺れが、今日一番胸に引っかかっている。
< rdside >
午後の診察が全部終わって部屋が静かになった頃、ようやく息をついた。
いつも通りの一日なのに、今日はやけに疲れが残っている。
原因はわかっていた。
ぺいんとが来たから。
三年ぶりに会った。
大人になっていた。
声も落ち着いて、雰囲気も柔らかくなって、昔みたいに苛立ったり、誰も寄せつけないみたいな空気も弱くなっていた。
でも、無理してる気配だけはすぐにわかった。俺には、どうしてかそういう変化が全部わかってしまう。
診察の途中、三年前の話題に触れそうになったぺいんとが、ほんの少し俺を見た。
その瞬間、胸がざわつくのが自分でもわかった。
あれは仕事としての態度じゃいけなくなると思って、一度だけ言葉を探した。
迷った。
あの一拍の間の正体は、それだった。
あの日の「好き」を、三年経った今どう扱えばいいのか。
ぺいんとがどんな気持ちだったのか。
その続きをここで聞いてしまったら、医者としての線を完全に超えてしまう。
でも、聞きたくて仕方なかった。
だからあんな変な沈黙になった。
本当は、もっと話してほしかった。
昔よりずっと素直に話せるようになっていたぺいんとを見るたび、あの頃よりずっと近づきたいと思ってしまう。
けど、それを表に出すわけにはいかない。
三年前より厳しくなった規定もある。
責任も重い。
医者としての線を簡単には越えられない。
だから力を抜いた声で名前を呼んで、無理しないでって言うことしかできなかった。
呼んだ時、振り返ったぺいんとの目が一瞬だけ揺れた。
あれが嬉しかった。
けど同時に胸が痛かった。
もし期待させてしまってるなら、それは違う。
今はまだちゃんと線を守らなきゃいけない。
でも、彼の名前を呼んだ瞬間の感覚だけはどうしても抜けない。
三年間、ずっと気になっていた名前。
やっと口にできたのに、また距離を作らなきゃいけない。
その矛盾が苦しい。
カルテに今日の内容を書きながら、また考える。
ぺいんとは帰り道、きっと今日の俺の態度を気にするだろう。
どう思っただろう。
距離ができたと感じたんだろうか。
それとも、あの沈黙の意味に気づいたんだろうか。
本当は、気づいてほしいとも思ってしまう。
気づかれたくないとも思う。
どちらの気持ちが強いのか、自分でもよくわからない。
ただ一つだけはっきりしているのは、ぺいんとの名前を呼ぶだけで胸が苦しくなるということだった。
三年経っても、彼のことが好きだという事実は微動だにしていない。
それどころか、前より深く沈んでいる気がする。
rd「恋煩いだなぁ … 笑ヾ」
コメント
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夜風に触れての続きですか!続き楽しみに待ってますね!やっぱらだぺんさいこぉ、!