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ああ、もう……バレンタイン回でこの切なさは反則だわ! 杏奈の不器用なチョコ渡し、めっちゃ可愛かったし、翔が自分の事情抱えて「言えない」選択するところ、グッときたよ……。最後の「いつか光の中に戻れたら」の伏線、泣かせるなあ。平次の告白を和葉がパフェでかっさらうギャグとの緩急も完璧だった🔥
2月14日、バレンタインデー。江古田高校2年B組の教室は、朝からどことなくそわそわした空気に包まれていた。
「おーい快斗おぉお! あんた、他のクラスの女子からチョコもらいすぎ! 青子の手作りがカバンに入らなくなるでしょ!」
「おっと、青子。お前それ、自分が本命チョコを渡すスペースがなくなるって心配してくれてるわけ?」
「なっ、何言ってるのよば快斗ー!」
いつものように快斗と青子が顔を真っ赤にして騒いでいる中、窓際の席で翔は気だるげに机に突っ伏していた。そこへ、ポニーテールを揺らした杏奈がツカツカと歩み寄ってきて、翔の背中をバシッと叩いた。
「ほら翔、起きて! あんたには他クラスからのチョコなんて一個も届いてないんだから、安心して目覚ましなさい!」
「……痛。杏奈、朝から相変わらずのゴリラパンチだな……。チョコなんかより、俺は睡眠が欲しいの」
「ふん、じゃあこれは私の優しさで没収ね」
杏奈がフイッと顔を背けながら、翔の机の上にぽんと置いたのは、丁寧にラッピングされた小さな箱だった。
「あげる。……まあ、中身はただのビターチョコだけど。あんた、甘すぎるの嫌いでしょ」
「え……」
翔が体を起こして箱を見つめると、杏奈はすでに耳まで真っ赤にして自分の席へスタスタと戻り、教科書で顔を隠してしまっていた。いつもは小競り合いばかりの幼馴染からの、不器用な本命。翔のポーカーフェイスの奥で、ドクンと心臓が跳ねる。その時、翔のスマホがブルリと震えた。新一からの着信だった。
『翔、今から平次と和葉も合流して、全員で東京スカイツリーの展望台に行くぞ。快斗と青子ちゃん、それと……お前の隣にいるゴリラ娘も連れてこい』
「は? スカイツリー? なんでまた急に……」
『蘭が、バレンタイン限定の絶景イルミネーションが見たいって言い出してさ。平次もなぜか張り切ってて……。とにかく、現地集合な』
新一の少し照れくさそうな声に、翔は苦笑する。
「わかったよ」
と電話を切り、前方の席でまだ赤くなっている杏奈を見つめた。
「ねえ、杏奈。放課後、スカイツリー行こ。新一たちも全員来るって」
「はあ!? なんであんたの友達たちのデートに私まで巻き込まれるのよ!」
「いいから。……ほら、せっかくのバレンタインだしさ」
翔がのんびりとした、けれど少しだけ真剣な目で誘うと、杏奈は「……まぁ、あんたがどうしてもって言うなら、行ってあげてもいいけど」と、嬉しさを隠すように口を尖らせた。
【後編:告白絶景スポットの夜、届かない言葉】
夕暮れが夜へと変わる頃、東京スカイツリーの展望台。地上数百メートルのガラス越しには、バレンタイン限定の淡いピンクとゴールドに彩られた、東京の100万ドルの夜景が広がっていた。ここは若者たちの間で「告白絶景スポット」として名高い場所だ。
「わあ……! 新一、見て、すごく綺麗!」
「あ、ああ……そうだな(おい服部、お前そろそろ和葉に言うんだろ?)」
「わかっとるわ工藤! 最高のシチュエーションやないか……!(せ、せやけど、タイミングが……!)」
新一の後ろで蘭が目を輝かせ、平次は和葉を横目にダラダラと冷や汗を流している。少し離れた場所では、快斗が青子の目の前で夜景を背景に一輪の薔薇を取り出すマジックを披露し、「快斗、すごーい!」と青子がはしゃいでいた。そんな3組の喧騒から少し離れた窓際。翔と杏奈は、並んで夜景を見つめていた。
「……すごいね。東京の夜景って、こんなにキラキラしてるんだ」
杏奈が静かに呟く。横顔にイルミネーションの光が反射して、いつもより少し大人びて見えた。翔はポケットの中で、杏奈からもらったチョコの箱をそっと握りしめていた。
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椎名遥陽~はるひ~
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(……伝えるべき、なのかな)
翔の胸の奥で、激しい葛藤が渦巻く。自分は、ただの「工藤翔」ではない。夜になれば、親友の命を守るために闇を駆ける、元怪盗CATとしての顔がある。特例とはいえ、新一との契約によってこれからも危険な場所に身を置くかもしれない身だ。こんな自分に、普通の女子高生である杏奈を巻き込んでいいのだろうか。「好きだ」と伝えて、彼女と恋人という確かな関係になってしまえば、彼女を危険に晒す引き金になるかもしれない。
「……翔? どうしたの、黙っちゃって。また眠いの?」
杏奈が不思議そうに、翔の顔を覗き込んできた。その真っ直ぐな瞳には、翔への純粋な信頼と、少しの期待が滲んでいる。翔は、ハーフマスクを被る時のように、一瞬だけ自分の心をポーカーフェイスで覆い隠した。そして、いつもの気だるげな、けれど底抜けに優しい笑みを浮かべる。
「いや、杏奈って横から見ると、本当にゴリラに似てるなーと思って」
「あんたマジで一回そこから飛び降りなさいよ!!」
杏奈が顔を真っ赤にしてポカポカと翔の腕を叩く。
「痛い痛い、冗談だって。……ありがとね、杏奈。チョコ、すごく美味しかった」
翔がそっと杏奈の頭を撫でると、杏奈は「……っ、もう。来年は激辛のチョコにしてやるんだから」と、ぷいっと夜景の方を向いてしまった。けれど、その横顔はとても幸せそうに綻んでいる。あいつらはあいつらの、俺たちには俺たちの距離がある。付き合わなくたって、言葉にしなくたって、俺たちの絆は誰よりも強い。遠くで「和葉ぁ! オレ、お前に――」「あ、平次、あっちで限定のパフェ売っとるで! 行こ!」「あ、おい待て和葉ァアア!」と大騒ぎしている平次たちを見ながら、翔は心の中で静かに誓う。
(いつか、本当の意味で俺が『光』の中に戻れたら。その時は――ちゃんと、伝えるよ)
まだ「好き」とは言えない。けれど、冷たいガラスに映る二人の距離は、誰よりも優しく寄り添っていた。