橙桃です。本人様とは関係ありません。
地雷だよって方、通報される方は見ないようにしてください。
なんでもありの方のみ見ていただけると嬉しいです。
「命令!俺を好きになってや!」
「………は?」
橙side
カーテンの隙間からキラキラと光が漏れてくる。
スタスタと部屋に向かってくる足音。
トントンとノックされるドア。
召使い「ジェル様ー!おはよう御座いますー」
橙「ん…まだ、ねる…」
召使い「ジェル様!今日は舞踏会が行われますので準備なさって下さい!」
橙「んぅ……」
召使い「おはよう御座います」
橙「ん、おはよ」
俺はこの国の王子。
頭だっていいし剣術だってお手の物。
誰もが俺を称え、誰もが俺を愛している。
召使い「今日は朝から隣町に向かいます。今回の舞踏会ではお見合いも兼ねて…、」
橙「はいはい分かった」
今日は一年に一度の隣町での舞踏会。毎年豪華なケーキやら用意されるけど別に興味はない。
朝食を終えて自室に戻る。
まぁ折角の舞踏会やし何時もよりはきっちりした服装で行くか、とクローゼットの中から服を引っ張り出す。
鏡で全身を整えて部屋を出て、馬車に乗る。
あー眠い。昨日夜ふかししてもうた…。
隣町に着き、少し時間が経った頃。
馬車のがゆっくりと止まった。
召使い「ジェル様。そこの花屋に用事がありますので、しばしお待ちを…」
橙「ん、」
そう言うと、数名の召使いが花屋に向かって行った。
舞踏会の時に使う花でも予約してたのだろう。
窓から覗くと色とりどりの花が見えた。
あ、あのピンクの花かわいい
そんな事をぼんやりと考えていると、何やら召使いと誰かの話している声が聞こえてきた。
召使い「今日は舞踏会でございまして____」
?「あぁ、そうなんですね。」
スッキリしているけど何処か落ち着いてる声。
どんな人なんやろと目線を移すと
橙「ッ?!?!//」
まるで野原に咲く花のような淡いピンク色の髪。
澄んだ海のようなブルーの瞳。
上品に口元に手を当てて笑みを浮かべている。
ドキドキと自分でも可笑しいと思えるほど心臓が速まる。
かわいい。好き。俺のものにしたい。
人生で初めて恋をした瞬間だった。
召使い「ジェル様、こちらがこの国の姫様で御座います」
橙「……あ、どうも」
姫「はじめまして〜」
それから舞踏会が始まっても、脳内からあの花屋に居た子が離れなくて。考えれば考えるほど好きになった。自分がこんなに単純な奴だったとは思わなかったけど、きっとそれ程までに彼が魅力的だったのだろう。
召使い「さま、ジェル様聞いておられますか?」
橙「!ごめん、何の話?」
姫「私との婚約についてですわ」
橙「へー……え、?婚約?」
召使い「左様でございます」
橙「嫌なんやけど」
姫「え?」
召使い「な、何を仰る!この方は…」
橙「悪いけど、俺心に決めた人がおるから」
まだ話したことなんて無いけど、この俺を好きにならん奴なんてこの世に居らへんし。
きっとあの子も喜んで嫁になってくれるはず。
橙「そういう事やから、またな」
召使い「お待ち下さい、!ジェル様!」
城に帰ってきて、少し召使いに説教をされた。
別に、俺の結婚相手なんて俺が選ぶし。
あんたらが勝手に合わせたんやろ。
召使い「ではこのぐらいにして…ジェル様、先程心に決めた方がおられると…?」
橙「言ったで」
召使い「何方でしょうか…?」
橙「あの子!!あの子が欲しい!」
召使い「落ち着いて下さい…!あの子とは誰のことでしょうか…?」
橙「隣町の花屋に居た子!」
召使い「あぁ、あの方はさとみ様で御座います」
橙「さと、み…」
名前もかわいい。会いたい。
橙「すぐにその子のこと連れてきて!」
召使い「しょ、承知いたしました!」
すぐさま家臣を隣町に向かわせた。
あと数時間であの子は俺のものになるんや。
そう考えるとうきうきして仕方がなかった。
召使い「ジェル様…!連れてきました!さあ!告白を!」
桃「え、なにどういうこと?」
橙「ありがとう。2人にして貰ってもええ?」
召使い「はい!もちろんでございます!」
召使いたちが出て行ったことを確認して眼の前の彼を見る。
さとみは困惑気味だった。まぁそうやろうな急に王子に呼び出されてるんやし。
あれ、でもどうしよう。
告白なんて初めてなんやけど。
桃「あ、あの…」
さとみが顔を上げると目があった。
見つめ合って。見つめ合って。
これは、もう言うしかない。
橙「命令!俺を好きになってや!」
王子様は絶対なんやから断るはずがない。
橙「運命なんよ!絶対!」
だからほら、俺のものになってくれる…
桃「……は?」
・・・あれ?
思っていた反応と違う。それになんだろう。朝に聞いた声よりも重みがあるっていうか…。
桃「ふざけんじゃねえよ。誰がお前なんか好きになるもんか」
え、怒ってる?てかこれもしかして
フラれた?嘘やろ?この俺が?
誰もが羨む王子なのに?
桃「王子だかなんだか知らねぇけど、金じゃ買えないものもあるんだよ」
橙「そ、そんな…」
桃「おれ、店に戻るから」
橙「え…」
さとみはバンッと音を立てて出て行った。
入れ違いで入ってきた召使いたちも困惑顔。
そうやろうな。俺もこんな思いしたの初めてや。
家臣「あ、あ奴…なんてことを…」
召使い「ジェル様、もっと違う人がおられますよ。ほら、山にある城の…」
橙「……ふふwあははッ!」
召使い「ジェル様…?」
橙「面白い!絶対堕としてみせるわ!」
恋愛なんて簡単だ。夢中にさせてやる。
待ってろよ。さとみ。
橙「こんにちは」
桃「………なんでいんの」
やめて。そんな顔で俺を見んといて。
そんなところも好きやけど。
翌日。俺は早速花屋に向かって馬車を走らせた。
絶対に堕としてみせるんやから毎日来るようにしよう。
桃「何のようですか」
橙「君に会いに来ました」
桃「あいにく、仕事があるので」
橙「それでもええよ」
はぁ?とジト目で睨んでくるさとみ。
はぁ…かわいい。
桃「言いましたよね?貴方のことは好きになれないって」
橙「言われたで?ちょっとショックやったけど。堕とせばええだけやし」
桃「意味分かんないんですけど」
さとみはズカズカとあるって行くと裏の水道からバケツに水を汲み始めた。
橙「一人で店やってるん?」
桃「まぁな」
橙「母さんとかは?」
桃「別に何だっていいだろ」
冷たいなー好きやけど。
そう思っていると後ろから足音が聞こえてきた。
?「さとみ、お客さんかい?」
桃「ッ!母さん…」
橙「え?!母さん?」
振り向くとカーディガンを肩にかけた女性が立っていた。
桃「母さん寝てなくていいの…?」
母「今日は体調が良い方なのよ…それよりお客さんでしょうか」
橙「あ、はい。隣町に住んでいるジェルです」
母「ジェルさん…どこかで聞いたことあるような…」
桃「そんな事より母さんは家に戻ってて!」
母「でもさとみばかり仕事をしても…」
桃「俺の事は気にしないでいいから!」
分かったわ、とさとみのお母さんは家に入っていった。
橙「……母さん、病気なん?」
桃「まぁな。………持病なんだって」
橙「そうなんや…」
桃「てかお前自分が王子だってこと言わなくて良かったのかよ」
橙「別に今関係ない事やし」
桃「………あっそ」
ほら手伝え、とバケツを渡される。
あれ?俺王子だよな?
橙「ちょ、さとみ…」
桃「ここに来たからにはただでは帰さねえよ」
橙「…それって長い時間ここにいていいって事よな?」
桃「、………知るか」
橙「ふふw任せときやお姫様♡」
桃「ふざけんな」
それからというもの
俺はさとみの所に行っては仕事を手伝う日々を過ごし、季節も夏に入った。
さとみとは随分打ち解けた気もするが相変わらず俺の告白には答えてくれない。
母「あら、ジェルさん今日も来てくれたのね」
橙「ええ。将来の嫁さんの手伝いなんてお安いものです」
母「あら〜♡」
桃「あー手が滑ったー」
ゴンッと頭に衝撃が走る。
今、フライパンで頭叩いたん?かわいいな
桃「お前…馬鹿じゃないの?」
橙「あれ、声に出てた?」
桃「ダダ漏れだわ」
橙「え〜恥ずかしいわぁ」
桃「今更恥ずかしがんなよ」
さとみは豪快に笑うようになった。上品な笑い方も素敵だったけど、さとみにはこの笑い方の方がしっくりくるなと思う。
こうやって幸せな日々が続くといいな。
さとみに呼び出されたのは城に帰ったあとだった。
母さんの様態が悪化したらしい。
俺が着くとさとみは抱きついて涙をこぼした。
桃「どうしよ…、母さんしんじゃう…ッお医者さんも、遠くから来るから…間に合わないかもッ」
橙「大丈夫、大丈夫。母さんの部屋行こう」
部屋に入ると母さんは凄く苦しそうにしていた。
覚えてる。この光景。
橙「さとみ、水を汲んできて。」
桃「え…でも」
橙「大丈夫。俺に任せとき」
桃「………分かった」
俺の手当があったからか医者が来たあと、症状が落ち着いたらしく、母さんは一命を取り留めた。
さとみの姿が見えなくて探していると、裏庭から啜り泣く声が聞こえて来た。
橙「…さとみ」
桃「…、じぇる、」
橙「母さん無事やったから。安心してな」
桃「うんッうん…ありがとじぇる」
橙「どういたしまして」
桃「じぇる、手当上手だったね」
橙「あー、俺の母さんも病気でなぁ召使いたちが手当してるところ見てたから」
桃「あ、そうなんだ…」
橙「まぁ俺の母さんは結局小さいときに亡くなったけど」
桃「ごめん…嫌なこと思い出させて」
橙「ううん、大丈夫。愛するさとみの大切な母さんやから。俺にも優しくしてくれるし。お礼みたいなものや。」
桃「…そっか……俺、看板しまってくるからジェルは母さんの様子見に行ってくれる?」
橙「ん、分かった……、さとみ」
桃「…なに?」
橙「俺、諦めへんから。母さんのことも2人で支えて行こう。俺はさとみを守る。絶対に。さとみに伝わるまで愛を届けるから」
桃「…………勝手にしろ」
どんなことがあっても君を愛し続けるから。
桃「…………ごめんね、ジェル」
橙「かあさーん、体調どうですか?」
母「ジェルさん、ありかとうね。体調は良い方よ」
橙「それは良かった。これからも俺とさとみ2人で支えて行くので安心して下さいね」
母「ええ、ありがとう。…、でもさとみの方が大変なのに…」
母さんは小さく消えるような声でそう言った。
橙「……それ、どういう意味ですか」
母「………さとみには言わないでと言われていたのだけどね___」
お母さんはさとみが病気だということを教えてくれた。母さんよりも重い病気らしい。
さとみは日中はあまり症状が出ないらしく、店番をすることが出来るのだが、夜には高熱を出してしまうらしい。
薬もなく、まだ発見されて間も無い病気なので治療法も見つかっていないらしい。
そして余命も残り少ないことも教えてくれた。
母さんは泣きながら謝ってきた。
さとみも、母さんも誰も悪くないのに。
俺は心配をかけないように2人の前では笑顔でいることにした。
橙「明日、俺の誕生日なんよね」
桃「ふーん」
いつもどおり花に水やりをしながらさとみと会話をする。
病気だと聞いてから気づいたけど、さとみは普通の人より肌が白く、とても痩せ細って見える。何で今まで気づかなかったのか不思議で仕方ない。
橙「それで、明日誕生祭をやるんよ。良かったら来ない?」
桃「行かない。母さんが心配だし」
橙「俺の城の奴に頼めばいいやん」
桃「でも母さんにお前が王子だってこと言ってねぇだろ」
橙「まぁなんとかなるやろ」
誕生祭は昼間。さとみの症状が出ないように昼間にして貰った。
橙「な?お願い!とっておきのドレスも用意するから」
桃「いやそこはせめてタキシードにしろよ」
橙「えードレス似合うのにー」
桃「じゃあ行かない」
橙「うそうそ!タキシード用意するから!」
桃「はぁ…わかったよ」
誕生祭当日。
橙「かっっっわいい……」
桃「かっこいいだろ」
橙「かわいい」
桃「キモい」
橙「好き」
桃「あっそ」
眼の前に天使がいます。かわいいです。
さとみは白い生地ににピンクの装飾がついたタキシードを着ている。あぁもう思ったとおり。何着ても似合う。特注しておいて良かったぁ……。
誕生祭の次に行われた舞踏会。
そろそろ暇になっただろうとさとみを連れ出して窓辺に来る。
桃「いいの?抜け出して」
橙「ええよ、2人きりになりたかったし」
桃「………そっか」
橙「一曲踊ってみる?」
桃「………うん」
さとみの手を取ってエスコートする。
余命も近いからだろう。少しふらついているけれど、もうこうやって2人でいられる時間も少ないのだから。
一歩ずつ丁寧に踊るさとみはやっぱり可愛くて、綺麗で。
あぁ…この人に恋して良かった。
見つめ合って。見つめ合って。
曲が終わっても手を離そうともせずに。
橙「……さとみ」
桃「…なに」
橙「さとみを好きになってこの世界が色づいた。こんなに誰かを好きになった事なんてなくて。好きすぎて仕方がないんよ。さとみを幸せにすることを誓う。何十年だって側にいる。だから
俺と付き合ってくれませんか」
桃「…………ごめん、ごめんなさ、」
分かってた。断られることなんて。
さとみは優しいから。最期まで自分の病気の事を言わずに俺から離れること。
分かってたのに……。
さとみが泣いたら、俺だって涙が出そうだ。
橙「じゃあな」
桃「うん、送ってくれてありがとう。そして、お誕生日おめでとう。ジェル」
橙「うん…ありがとう」
桃「、………またね」
さとみの母さんに呼ばれたのは次の日の朝だった。
さとみは眠るように息を引き取ったらしい。
母さんから渡された手紙には涙の跡とともにさとみらしい綺麗な字でこう綴られていた。
『ジェルへ
最期まで答えることができなくてごめんなさい。
母さんがジェルに俺の病気の事を伝えていたことを帰ってきて知りました。
俺が死ぬことを分かっていたのにそれでも側にいてくれるなんて、ジェルは本当に優しいね。
好き。好きです。大好きです。
太陽のように明るくて、優しくて一緒にいると毎日が楽しくて。
ジェルと過ごした日々は俺にとって宝物です。
ジェルに初めて城に呼び出されて告白されたときも凄く嬉しかった。ずっと憧れていた王子様からの告白なんて誰だって嬉しいでしょ?
でも病気のことがあるから一緒になれないって決めつけてた。
ジェルと付き合ってたらきっと楽しい日々を過ごせたと思うけど、その分隠し事のせいで素直に楽しめないと思って。
だから、俺達は付き合わなくて良かったと思う。付き合ってたら俺、死ぬのが怖くなってた。今だって怖い。ジェルの居ない世界に行くなんて怖いよ。
でも、待ってる。来世でもジェルを待ってる。だから迎えに来て抱きしめて?
約束だからな。愛してます。
さとみ』
両想いだったんだ。最初から。
俺は声を上げて泣いた。
桃「その後、王子は彼のことを心の中で愛し続け、来世で迎えに行くことを誓ったのでした。_____めでたしめでたし。…なのか?って何泣いてんだよジェル」
橙「ゔっ…その王子と花屋の子を俺とさとちゃんに置き換えちゃってッ」
桃「はぁ?置き換えんなよ…あ、これ実話なんだ。その王子が書いたんだって。すげーな」
橙「ゔぅ……」
桃「はぁ…ほらハンカチ」
橙「ゔんっ…ありがと…」
桃「本屋なんて久しぶりだから立ち寄っただけなのにだいぶ居座ったな〜帰るか」
橙「…そうやな」
桃「ほら、お前今日誕生日なのにかっこいい顔が台無しだぞ〜」
橙「………さとみ」
桃「ん?なに?」
チュッ
桃「は?!///…急になんだよ…」
橙「んー?なんでもない」
桃「何だよそれ、…行くぞ」
橙「待ってや〜」
読んでいた本を棚に戻す。
橙「……ちゃんと迎えに来れたで」
桃「ジェルー?はやくー!」
橙「今行くー!!」
ジェル君お誕生日おめでとう御座います
あなたが幸せな日々を過ごせることを願ってます
コメント
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いやもう最高としかいいようがありませんね
投稿された時読んだんですけど、コメントは深夜だったんでやめました いや、相変わらず神ですね…() もうッ、それしか出てきません✨
めちゃめちゃ良すぎるお話でした😭