コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『そうなんです、ふたりの部屋が見つかったときに、やっぱり運命の出会いだったんだなぁと思いまして、それで———』
電撃結婚をした人気女優の声を合図にテレビのチャンネルを変えると、右隣からバナナの皮が飛んでくる。朝の8時、私は飛んできたバナナの皮をミサキに投げ返した。
「私、いまのニュース番組見てたのに。」
知ってる、とだけ返事をして朝ごはんの食器を片付けてから、換気扇の下で煙草に火をつける。ミサキは私の小学校からの友人であり、同居人だ。性格や嗜好が全く合わないミサキとの同居生活も早1年、だいぶ慣れてきた頃である。
「あの女優の声苦手なの。蝉の鳴き声みたいに頭に響いて鬱陶しいじゃん。」
「よく言うよね、この間あの女優が主演の映画、普通に見てたくせに。」
ミサキは学生の頃から我が強い子だった。私より小さく一回り華奢で、大きな瞳に長い黒色の髪。その特徴は出会った頃から変わらないままで、ミサキの魅力的な部分だと思う。お互い友人が少ないこともあってか15年も関係が続いていて、気づけば25歳独身同士でシェアハウスまでしていた。
「なんでもいいけどさ、あんたのコンプレックスに私を巻き込まないでよね。」
こちらを見向きもせず言葉だけ残すと、ミサキはテレビのチャンネルを先程のニュース番組に戻す。私はそんなミサキを横目に、ただ煙草を燻らした。短くなった煙草を紙コップにいれた水につけると、ジュという音をたてて一瞬で消える赤。
『彼と一緒にふたりの部屋に入った時、本当にふたりがひとつになったみたいでした。これが本物の愛なんだって。どんな苦しさも嬉しさも分かち合えて——』
朝の8時半。スーツに着替えてから手首に香水を振りかける。いってきます、とミサキに一言伝えてから家の扉を開けると、むわっと熱を帯びた空気が肌に触れた。蝉の鳴き声が鳴り響いている。