テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#いわなべ
おその★
3,327
#ご本人様には関係ありません
みら

195
おその★
21,778
おその★
17,874
コメント
1件
お疲れさまです、寺島あおいです🌷 第2話、読み終えました。診察から帰宅後の謝罪シーン、とても良かったです。目黒さんが「ごめん」と震える声で話すところ、あの日の記憶がフラッシュバックしたんだな……と胸が締め付けられました。でも阿部さんもちゃんと「俺もごめん」って言えて、お互いを思いやる空気がじんわり伝わってきて。最後の「おかえり」「ただいま」のやり取り、それだけで涙腺が緩みそうになりました。 仲間たちが次々に割れない食器を届けてくれるのも、優しさの形が違ってそれぞれに心がこもっていて。「過保護」って笑い合える関係性、本当に素敵だなと思います。二人の距離が少しずつ戻っていく過程が丁寧に描かれていて、続きが気になります。
診察室。
医師は阿部の手首の傷をもう一度丁寧に確認していた。
「傷口はきれいに縫えています。」
「ただ、ガラスで切った傷は見た目より深くなりやすいので、しばらくは右手をあまり使わないでください。」
阿部は小さく頷く。
「はい。」
「数日は自宅で安静に過ごしてください。」
「無理に家事をしたり、重い物を持ったりするのは避けましょう。」
「傷が開く可能性があります。」
「分かりました。」
診察を終えた阿部は、目黒と一緒に病院を後にした。
___________
帰りの車内。
病室での騒動もあり、二人ともほとんど言葉を交わさなかった。
静かな車内。
阿部はシートへ身体を預ける。
「なんか……。」
「今日一日でどっと疲れた。」
目黒は運転しながら、小さく笑った。
「俺も。」
「今までで一番長い一日だったかもしれない。」
阿部も苦笑する。
「確かに。」
その安心感からか、緊張の糸が切れたように瞼が重くなる。
「めめ……。」
「眠かったら寝てていいよ。」
「家に着いたら起こすから。」
「……うん。」
阿部は安心したように目を閉じた。
数分もしないうちに、穏やかな寝息が聞こえ始める。
目黒は赤信号で車を止めるたび、眠る阿部へ視線を向けた。
その寝顔を見て、ようやく肩の力が少しだけ抜けていく。
___________
「あべちゃん。」
「着いたよ。」
優しく肩を揺らされ、阿部はゆっくり目を開ける。
「……着いた?」
「うん。」
「帰ろう。」
目黒は阿部の荷物を持ち、怪我をしていない方の手をそっと支えながら家へ入った。
玄関で靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
二人ともソファへ腰を下ろした。
しばらく沈黙が流れる。
先に口を開いたのは目黒だった。
「あべちゃん。」
「……ごめん。」
阿部が目黒を見る。
目黒は俯いたまま、両手を強く握っていた。
「今日。」
「あべちゃんの血を見た瞬間。」
「頭の中が真っ白になった。」
声が少し震えている。
「あの日のことを思い出した。」
阿部は静かに耳を傾けた。
「誘拐事件の時。」
「車のドアを開けたら。」
「あべちゃんが足から血を流して。」
「翔太くんを守るように抱きしめてて。」
目黒は苦しそうに目を閉じる。
「あの光景が、一瞬で頭に浮かんだ。」
「だから。」
「何も考えられなかった。」
「あべちゃんの話も聞かずに。」
「勝手に決めつけて。」
「本当にごめん。」
静かな部屋に、目黒の謝罪だけが響いた。
阿部は少しだけ目を潤ませながら笑う。
「俺も。」
「ごめん。」
目黒が顔を上げる。
「ちゃんと説明できなかった。」
「『グラスで切った』って最後まで言えなかった。」
「もっと大きな声で言えばよかったのに。」
「めめがあんなに必死だったから。」
「俺も焦っちゃって。」
目黒は苦笑する。
「今日は。」
「二人とも冷静じゃなかったね。」
「うん。」
阿部も笑う。
「でも。」
「めめがあんなに慌てたのって。」
「俺のこと、大切だからだよね。」
目黒は迷わず頷いた。
「もちろん。」
「もう二度と。」
「あべちゃんを失うかもしれないって思いたくない。」
その言葉に、阿部は怪我をしていない左手を伸ばし、そっと目黒の手を握る。
「大丈夫。」
「俺はここにいる。」
「ちゃんと帰ってきた。」
目黒もその手を握り返した。
「うん。」
「おかえり。」
阿部は優しく微笑む。
「ただいま。」
その何気ない二つの言葉だけで、張り詰めていた心は少しずつほどけていった。
誘拐事件の傷は、まだ完全には癒えていない。
それでも二人は、あの日より少しだけ前を向いて歩き始めていた。
___________
家に帰って少し落ち着いた頃。
目黒はキッチンへ向かい、シンクの中を静かに見つめていた。
床には、割れたグラスの破片がまだ残っている。
「片付けないと。」
そう呟き、ほうきとちりとりを持ってくる。
ソファに座っていた阿部も立ち上がった。
「めめ、俺も手伝うよ。」
そう言ってキッチンへ歩こうとする。
しかし、その瞬間。
「だめ。」
目黒が優しく、でもはっきりと言った。
阿部は足を止める。
「でも……。」
「今日は何もしなくていい。」
目黒は阿部の前まで来ると、怪我をしていない手をそっと握った。
「先生にも安静って言われたでしょ。」
「それに。」
少し照れたように笑う。
「しばらくは、あべちゃんのこといっぱいお世話してあげたい。」
阿部は少し目を丸くする。
「お世話?」
「うん。」
「家事もしなくていい。」
「重い物も持たなくていい。」
「困ったことがあったら、何でも俺に言って。」
「全部俺がやるから。」
阿部は思わず笑ってしまう。
「そんなに甘えていいの?」
「もちろん。」
目黒は迷いなく頷いた。
「いっぱい甘えて。」
「……ありがとう。」
阿部は嬉しそうに微笑み、再びソファへ腰を下ろした。
その間に目黒は丁寧にガラスの破片を拾い集め、最後に掃除機までかける。
念入りに床を確認してから、ようやく安心したように息をついた。
___________
片付けが終わると、目黒は阿部の隣へ座った。
「何かしたいことある?」
阿部は少し考えてから、小さく笑う。
「今日はもう。」
「シャワー浴びて寝たい。」
「分かった。」
目黒は優しく頷く。
「左手は濡らさないようにしよう。」
「俺が手伝う。」
___________
浴室では、目黒が傷口に水がかからないよう防水カバーを丁寧に巻いていく。
「きつくない?」
「うん、大丈夫。」
「痛かったらすぐ言って。」
「分かった。」
目黒はいつも以上に慎重だった。
髪を洗う時も、身体を流す時も、左手に負担がかからないよう細心の注意を払う。
阿部はそんな目黒を見ながら、小さく笑う。
「めめ。」
「ん?」
「看護師さんみたい。」
目黒も少し笑った。
「今日は専属看護師だから。」
「じゃあ。」
「退院するまでお願いしようかな。」
「退院しても。」
「必要なら続けるよ。」
その返事に、阿部は照れくさそうに笑った。
___________
シャワーを終え、寝室へ向かう。
目黒は阿部がベッドへ入りやすいよう掛け布団を整える。
「はい。」
「おやすみの準備完了。」
阿部はゆっくりベッドへ横になった。
一日中緊張していた身体が、ようやく柔らかい布団に沈む。
目黒も反対側からベッドへ入る。
部屋の明かりを消すと、静かな夜が訪れた。
しばらく天井を見つめていた阿部が、小さな声で呼ぶ。
「……めめ。」
「ん?」
「今日は。」
少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「抱きしめて、一緒にいてほしい。」
その言葉に、目黒は優しく微笑んだ。
「もちろん。」
そっと阿部を胸へ引き寄せる。
怪我をしていない方へ気を遣いながら、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「あべちゃん。」
「今日は本当にごめんね。」
阿部は目黒の胸へ頬を寄せながら、小さく首を振る。
「もう謝らなくていい。」
「俺も謝ったし。」
「お互い様。」
目黒は阿部の髪をゆっくり撫でる。
「うん。」
「でも今日は。」
「こうして、あべちゃんが隣にいてくれるだけで十分。」
阿部は安心したように目を閉じた。
「俺も。」
「めめが隣にいてくれるだけで安心する。」
二人は何も言わず、そのまま寄り添う。
規則正しい鼓動が伝わるたび、お互いがここにいることを確かめるように。
あの日失いかけた何気ない日常を、二人は静かに抱きしめながら眠りについた。
___________
翌日の午前中。
昨日の疲れもあり、目黒と阿部は少し遅めの朝食を食べていた。
「左手、痛まない?」
目黒が心配そうに聞く。
阿部は包帯の巻かれた左手首を見て、小さく笑った。
「昨日より全然いいよ。」
「でも今日は安静。」
目黒が念を押す。
「分かってます、専属看護師さん。」
阿部が冗談交じりに言うと、目黒もくすっと笑った。
そんな穏やかな時間を過ごしていると――。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「誰だろ。」
目黒が玄関へ向かうと、そこには佐久間が立っていた。
「よっ!」
「佐久間?」
佐久間は紙袋を差し出す。
「はい、お見舞い。」
阿部が受け取る。
「ありがとう。」
「開けていい?」
「もちろん!」
中から出てきたのは、シンプルなステンレス製のコップだった。
阿部が首を傾げる。
「コップ?」
佐久間はニヤッと笑う。
「あべちゃんはおっちょこだから。」
「もう割れないやつ使え!」
目黒が思わず吹き出す。
「確かに。」
「めめまで!」
阿部が頬を膨らませると、佐久間は大笑いした。
「じゃ!」
「俺これから仕事だから!」
「また来る!」
「ありがとう!」
佐久間は元気よく手を振り、そのまま仕事へ向かって行った。
___________
玄関を閉めた直後。
再びインターホンが鳴る。
「今日は来客多いね。」
ドアを開けると、今度は康二とラウールだった。
「あべちゃん!」
「お見舞い!」
康二が大きな袋を差し出す。
「何これ?」
「ラウとお店で見つけてん!」
「めっちゃ可愛かったから!」
袋の中には、淡い色合いのプラスチック製のお皿が五枚。
丸いものや花の形をしたものなど、どれも可愛らしいデザインだった。
ラウールが笑う。
「プラスチックなら割れないし。」
「あべちゃん向きかなって。」
阿部は思わず笑ってしまう。
「俺、そんなに信用ない?」
「あるよ!」
康二が即答する。
「でもおっちょこやん!」
「否定できない……。」
阿部が苦笑すると、四人で笑い合った。
「俺ら仕事あるから!」
「またゆっくり遊ぼ!」
「ありがとう!」
二人も手を振りながら帰って行った。
___________
昼過ぎ。
目黒のスマホが鳴る。
画面には『岩本くん』の文字。
「もしもし。」
『めめ。』
岩本の声が聞こえる。
『今日の夕方、家いる?』
「います。」
『じゃあ行く。』
「分かりました。」
目黒が返事をすると、岩本は続けた。
『あと。』
『今日の晩ご飯は作るな。』
「え?」
『買って行くから。』
『何もしなくていい。』
そう言って電話は切れた。
目黒は苦笑しながら阿部を見る。
「今日の夕飯、岩本くんたちが持ってきてくれるって。」
「え?」
「なんか大事になってない?」
阿部は少し不安そうに笑った。
___________
夕方。
ピンポーン。
今日三度目のインターホンが鳴る。
ドアを開けると、そこには岩本、深澤、宮舘、渡辺の四人。
「お邪魔します。」
宮舘が微笑む。
岩本は両手いっぱいにオードブルを持ち、渡辺は寿司、深澤と宮舘は飲み物や紙袋を抱えていた。
そして。
岩本の足元には、大きな段ボール箱が一つ。
「これも運ぶぞ。」
「え?」
目黒も手伝いながら、みんなで荷物をリビングへ運ぶ。
テーブルの上には豪華な料理が並んだ。
「すご……。」
阿部が目を丸くする。
「こんなに?」
深澤が笑う。
「今日は料理禁止。」
「照が命令した。」
岩本は少し照れながら咳払いをする。
「昨日安静って言われたんだから。」
「今日くらい休め。」
「ありがとう。」
阿部は嬉しそうに頭を下げた。
すると宮舘が段ボールを指差す。
「それも開けてみて。」
「これ?」
阿部と目黒は一緒に箱を開ける。
中には新聞紙で丁寧に包まれた食器がぎっしり入っていた。
一つずつ取り出していく。
軽くて丈夫なお皿。
深皿。
茶碗。
スープカップ。
サラダボウル。
マグカップ。
どれも落ち着いた色合いで、おしゃれな割れにくい素材でできていた。
阿部は呆然と箱の中を見つめる。
「……こんなに?」
渡辺が少し照れくさそうに笑う。
「みんなで選んだ。」
「割れないやつ。」
深澤も笑う。
「これなら安心。」
宮舘が優しく付け加える。
「毎日使えるように、一式そろえたよ。」
岩本は腕を組みながら頷く。
「これで少しは安心して生活できるだろ。」
阿部は食器を見つめたまま、小さく笑った。
それから、みんなを見渡して言う。
「……みんな。」
「過保護。」
一瞬静まり返ったあと。
「あははは!」
部屋中に笑い声が響いた。
佐久間のステンレスのコップ。
康二とラウールのプラスチックのお皿。
そして四人が選んでくれた割れにくい食器たち。
どれも心配の形は違う。
けれど、そのすべてに「あべちゃんに元気でいてほしい」という優しさが詰まっていた。
阿部は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、小さく微笑んだ。
「ありがとう。」
その一言に、みんなも優しく笑い返した。