テラーノベル
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週半ばという事もあり、比較的すいており、奥まった席にふたりは座り注文を済ますと、麻耶は友梨佳の視線に気づいた。
「それで?どうしてそんな顔してるの?」
「そんなに顔に出てる?」
「おもいっきりね」
苦笑しつつ笑みを漏らした友梨佳に、麻耶もため息をついた。
「そっか……そんなに顔に出やすいんだ。私」
運ばれてきたビールの水滴をなぞる様にして、一口くちにすると麻耶は顔をしかめた。
「顔もだけど、なんでビールなんて頼んだの?いつも頼まないのに。飲みたい気分なの?」
「うん……まあ」
「彼氏と何かあった?」
「ああ、そうだ。うんあった。別れた」
麻耶はその事をいつのまにか忘れていた自分に気づいた。
「はあ?いつ?」
驚いた友梨佳に笑顔を見せながら、
「年が明けてすぐかな。もう2か月・3ヶ月前ぐらい前。実質ただの同居だったからね」
「まあ、すれ違ってたもんね。原因は?」
「……向こうに好きな子ができた」
「はっきり言われたの?」
「家に帰ったら、女の子がいた……」
ため息をついた麻耶に、「それはなかなか……」そう言って麻耶の皿にサラダを取り、コトリと置いた。
「え?ちょっと待って?今どこにいるの?女がいたら、もう家に帰れないじゃない。なんですぐに言わなかったのよ?」
「ありがとう。しばらく置いてって頼もうと思ってたんだよ」
そこで麻耶は言葉を探した。さすがに社長の名前を出すわけにはいかない。
いくら信用している友人でも、相手は自分たちの会社の社長だ。
自分から話すわけにはいかないなと麻耶は思い、知り合いと言葉を濁した。
「でも、たまたまその日にちょっと知ってた人と会って、部屋があいてるからうちにおいでって言ってくれてお世話になってる」
(うちにおいでなんて優しい言葉じゃなかったけどね)
麻耶は内心苦笑しつつ、友梨佳を見た。
「ねえ、それってオトコでしょ?」
わざとゆっくりと友梨佳は言うと、麻耶をジッと見た。
「うん……」
「そして、その人と今度は何かあるって訳だ」
ポイっと口にアヒージョのキノコを入れると、友梨佳はニヤリと笑った。
「何かって!そんなんじゃないよ。何もない……ただ……」
「ただ?」
「少し……気になってるだけ」
「ふーん、告白しないの?」
「できない。一番初めに惚れるなって言われたし、すごくモテるだろうし。私なんて全く相手にされないよ」
自嘲気味に笑った麻耶に、「そっか」それだけ言うと、エリカはじっと考えるような仕草をした。
「まあ、誰とかは深くは聞かないけど、苦しくなったら話聞くからちゃんと言ってよ?」
友梨佳の優しさに、麻耶もホッとしたが、頭の中に芳也とアイリが楽しそうに食事をする姿が浮かび、ビールを流し込んだ。
3時間後、麻耶は完全に酔っていた。
「麻耶、もうやめなよ。飲めないお酒そんなに飲んで……」
トロンとした瞳で、友梨佳を見て、
「だって、ひどいんだよ。彼ったら。思わせぶりな事ばかりするんだよ」
「はいはい。ほらお水」
ずっと、同居している人の愚痴を麻耶はいっていた。
友梨佳はタクシーを呼んで麻耶を送っていくか……そう思ってカバンから携帯を取り出そうとした。
「あれ?麻耶!麻耶!携帯なってない?」
自分ではない携帯の音に、麻耶の肩を軽くゆすると、麻耶はへにゃと笑い、
「もしもーし」
とご機嫌で電話に出た。
「え?なーに?どこって?わかんなーい」
完全に相手は困っているだろうとわかる麻耶の話し方に、「麻耶、その相手の人どこにいるか聞いてるんでしょ?ちょっと貸して?」
その言葉に、麻耶はズイっと友梨佳に携帯を差し出すと、自分は机に顔を埋めた。
友梨佳は小さくため息をつくと、
「もしもし?お電話変わりました。麻耶の友人の橋本といいます」
『今どこですか?』
低音の響く声がして、この人が麻耶の同居の相手だと友梨佳は確信した。
「駅前の「エル・ソル」っていうバルにいます。麻耶は……」
そこで言葉を止めると、
『酔っぱらっているんですよね?』
「はい。今タクシーに乗せようか考えていた所です」
『まだ眠っていませんか?』
その言葉に、よく麻耶の酔っぱらっているところを見ているのだろうと友梨佳は思った。
「ギリギリってところです」
少し、無言の時間のあと、電話の向こうで小さくため息をつくのがわかった。
『10分で行くのでそれまで、一緒にいてもらえますか?』
その言葉に友梨佳は驚いて目を見開いた。
「はい。もちろん」
『じゃあ、後ほど』
紳士的な言葉遣いで、きちんとした人だという事が解った。
まさか迎えに来るなんて……。
「麻耶!麻耶!今の電話の人が迎えに来てくれるって!寝ちゃダメ!」
そう声を掛けると、
「なんでぇ?なんで迎えにくるの?」
顔を歪めた麻耶に、
「麻耶が酔っぱらったからでしょ?帰れるの?」
「帰れる!帰る!」
なぜか意地になって一人で帰ろうとする麻耶を、友梨佳は腕を掴んで椅子に座らせた。
「麻耶!一人じゃ無理でしょ……」
そう声を掛けた所に、明らかにむこうからオーラを放った人が歩いてきた。
黒のパンツに、グレーのTシャツを着ているだけだったが、それだけでも絵になるその人。
「社長……」
つい呟くように言った友梨佳にニコリと笑いかけて、
「橋本さんありがとう」
そう言うと、芳也は麻耶に声を掛けた。
「オイ!寝るな!帰るぞ!」
その言葉使いに呆然と芳也を見ていたが、ふと我に返って麻耶を見た。
「うるさいです!なんで来たんですかぁ?」
「お前のほうがうるさい!なんでこんなに飲んだんだ!」
怒ったその口調にめげることもなく、麻耶は言い返した。
「なんでもいいでしょ……飲みたかったの。芳也さんのバカぁ」
「はあ?お前、迎えに来てもらってその言い草は何だよ?」
友梨佳はそんな2人をハラハラして見ていた。
どうしてあの社長と麻耶がこんな風に言い合いをしているのかも、会社とは別人のような社長も……疑問に思う事はありすぎたが、麻耶が芳也の家にいる事だけはわかった。
そして、麻耶の言い方にいつか怒るのではないか……そんな心配をしていると、
「橋本さん、この事は内密によろしくね」
芳也はそう言ってにこやかに微笑んだと思ったら、
「こいつのカバンお願いできる?」
そう言うと、「仕方ない奴だな」と呟きながら優しい顔で麻耶を抱き上げた。
「は……ハイ!」
慌てて自分のカバンと麻耶のカバンを持つと、友梨佳は先を歩き出した芳也を追いかけた。
麻耶はと言うと、芳也の腕に安心したのかギュッと芳也の首に腕を回すと、頭を胸に埋めてまだ芳也に文句を言っているようだった。
そんな麻耶の言葉に、芳也も麻耶の耳元で何かを言って、麻耶が芳也の背中を叩いていた。
(どうなってるの?これ……)
ぼんやりとそんなふたりを見ながらレジの前を通って、友梨佳は声を上げた。
「あっ。お会計!」
「もう支払ってあるから大丈夫だよ」
前から聞こえてきた声に、慌てて頭を下げた。
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芙月みひろ
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#虐げられヒロイン