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「おっしゃる通りだと思います。ですが、それでも私は……竜之介くんの事が、大切です。決して中途半端な気持ちでお付き合いをしている訳では無いです。それだけは知っておいていただきたいです」
この場で全てを分かってもらえるなんて思ってない。
簡単な問題じゃないからこそ、時間をかけて分かってもらうしかないと思うから、今日は私たちの気持ちが本気である事を知ってもらえたらそれで十分。
そんな思いで私は竜之介くんのご両親に話を続けていたのだけど突然、
「――話は分かった。竜之介、お前は少し席を外してくれ」
「何で!」
竜之介くん抜きで話したいと言われ、この展開を予想していなかった私の身体は少しだけ震えていたけど、ここで逃げては何もならない。
「竜之介くん、私なら大丈夫だから、お父様のおっしゃる通りにして」
「亜子さん……。分かった」
渋る竜之介くんに『大丈夫』と伝えると、納得いかなさそうな表情を浮かべた彼は部屋を出て行った。
それから少しして、何故かお母様までもが席を立って部屋を出て行ってしまう。
「さてと、ここからが本題だ。八吹さん、君が竜之介を想ってくれている事は有り難い事だ。しかしな、何を言われても、私が首を縦に振る事は無い」
「……それは、私に離婚歴があるからですか?」
「それも有るが、やはり竜之介にはきちんとした家柄の良いお嬢さんを相手に選びたい。それは親としては当然の考えだと思わないかな?」
「……おっしゃる通りです」
「それに、万が一君と竜之介の結婚を認めたとして、君と竜之介の間に生まれた子供は名雪家にとって可愛い孫になるから愛情も注げるが、竜之介と血の繋がりの無い君の子供の事は愛せないし可愛いとも思えない」
「……っ」
「その事を、君の子供はどう思うだろうか? そこを考えた事はあるかな? 竜之介は可愛がっているみたいだが、私や妻は、竜之介と同じように可愛がる事は出来ないだろう。酷い人間だと思うかもしれないが、そういう考えの人間もいるという事だ。悪く思わないでもらいたい」
確かに、お父様の話は最もだと思う。
竜之介くんは凜の事を大切に思ってくれるけれど、それはきっと竜之介くんだから。
私は凜の事が大切だと言いながら、結局は自分の事しか考えていなかったのだと思い知らされた。
「その事を踏まえて、もう一度よく考えてみるといい」
話を終えたタイミングで部屋を出て行ったお母様が戻って来る。
「私も貴方と同じ母親の立場として一言言わせてもらいますけど、母親ならば、自分の幸せよりも子供の幸せを優先すべきです。子供が辛い思いをするなんて、貴方も辛いでしょう? 竜之介は貴方の事が好きで一緒になりたいと思っているから本来ならばそれを叶えてやるのが一番良いのかもしれませんけど、竜之介の幸せを考えたら、貴方と一緒になる事が本当の幸せとは思えないのです」
「…………」
「今は良くても、|名雪《うち》のような者と一緒になるには綺麗事だけでは務まりません。恋愛感情だけで一緒になったところで、いつかきっと、後悔する日が来ますよ。そうなった時、一番辛いのは他でもない貴方です」
「…………」
「私たちの話を聞いた上で、子供の事を一番に、竜之介に相談せずに一人でよく考えて、答えを出して欲しいの。それでも竜之介と居る事を選ぶと言うのならば、私たちは竜之介に名雪家から出て行ってもらうつもりです。そして二度と、名雪の名を名乗る事もさせないつもりです」
「そんな……」
「それくらいの覚悟を持って、考えて貰わなければ困るのよ」
「…………」
「竜之介には将来があるの。貴方が竜之介の事を想っていてくれるのならば、竜之介の将来も考え欲しいわ。考えが固まったら、ここに書いてある連絡先に電話をくださいね」
お母様はそれだけ言うと手にしていた封筒を差し出してきたので、それを受け取った私は「今日はお時間をくださってありがとうございました、失礼致します」と立ち上がって頭を下げて部屋を後にした。
悲しかった。
どんなに私が訴えかけたところで、私たちの未来を認めてもらえない事が分かってしまったから。
私が竜之介くんと一緒に居る事を選んでしまえば、彼は二度と名雪家には戻れなくなる。
きっと、竜之介くんにその事を話せば、彼はそれでも構わないと言って私を選んでくれるかもしれない。
だけど、本当にそれで良いのだろうか?
私のせいで、彼の将来を台無しにしてしまう気がしてならない。
「……どうしよう……どうしたらいいの?」
決意が揺らいでしまう。
何があっても竜之介くんと一緒に居ると決めた決意が。
さっきの話を彼にするべきか、それとも言われた通り一人で考えるべきか迷っていると、
「あ……田所さん……」
すぐ側の部屋から田所さんが出て来て、鉢合わせてしまった。