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田所さんと会うのは久しぶり。
あの一件があってから竜之介くんが私と彼を近付けさせなかったから。
だから私も彼を前にするとつい警戒してしまい、それが表情に表れていたのか、
「そんなに警戒しないでください。何もしませんよ」
警戒している事が伝わったようでそう指摘される。
「旦那様と奥様に言われたのでしょう? 竜之介様の事は諦めるようにと」
「…………」
「言わなくても分かりますよ、貴方のその表情を見れば」
「…………」
「まあ、私が何を言ったところで意味が無いのでしょうけれど、一つだけ。これ以上竜之介様の事を好きになる前に、身を引いた方がお互いの為ですよ。貴方と竜之介様が好き合っている事は分かりますが、旦那様と奥様は一度決めた事は曲げない性格ゆえ、何があろうと二人の結婚を認める事はなさらない。貴方がたが一緒になるのなら、全てを捨てる覚悟を決めるしか無いのですから。それじゃあ、失礼します」
田所さんはそれだけ言うと、私の元から去って行く。
やっぱり、私と竜之介くんが一緒になれる未来は無いのだろうか。
どうすれば分からず途方に暮れていると、
「亜子さん!」
どこかの部屋で待っていた竜之介くんが私の元へ駆けてきてくれた。
「竜之介くん……」
「大丈夫だった? 親父に何か言われたんじゃない?」
「ううん、大丈夫。その、分かってはもらえなかったけど……」
「そっか。ごめんね、嫌な思いさせて。後は俺が何としても説得するから! 今日はもう帰ろう。凜も待ってるだろうしさ」
「うん……」
竜之介くんは私の言葉にどこか煮え切らない様子を見せたもののこの場でする話ではないと悟ったのかそれ以上追求しては来ない。
私たちは保育園で待ってる凜を迎えに行く事にして話を終えた。
翌日、竜之介くんは約束通り、凜を楽しませる為に子供向けの遊園地へ連れてきてくれた。
「ゆーえんち! わーい!!」
行き先を内緒にされていた凜は遊園地に着くなり瞳を輝かせながら喜んでいた。
「凜が昨日良い子で保育園行ったからな、今日は沢山遊ぼう」
「うん!!」
昨日、あれからどうしてもいつも通りになれなかった私は凜を竜之介くんに任せて早めに部屋へ篭ってしまった。
母親失格だなと思ったけれど、どうしても一人になりたかった。
竜之介くんは『気にしないで』『凜の事は俺に任せてよ』と言ってくれたので安心して預けられた。
今だって、こんなにも竜之介くんと凜は楽しそうにしているのに、二人は血の繋がりの無い他人同士。
血を分けた親子だったらどんなに良かったか。
そんな事を考えても意味が無いのは分かっているのに、何度も頭を駆け巡っては消えていく。
「亜子さん?」
「え?」
「大丈夫? やっぱり体調悪い……?」
「あ、ううん、そんな事ないよ」
「そう? ならいいけど……少しでもしんどかったら言ってね?」
「うん、ありがとう」
「ママ、おにーちゃん、はやく!」
ぼんやりしている私を気に掛けてくれる竜之介くんに、早く入りたい凜が急かしてくる。
(いけない、今は楽しまないと)
こういう楽しい場所で暗い気持ちになるのは違うと気持ちを切り替えた私は笑顔を作る。
「行こう、亜子さんも、今日は楽しもうね」
「うん」
凜を抱き上げた竜之介くんが『楽しもう』と言いながら手を差し出してくれたので、その手を取りながら私は頷き、私たちは中へと入って行った。