テラーノベル
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――目を開けたとき、そこは病室だった。
白い天井、消毒液の匂い。
機械が規則正しく音を立て、私の命がまだ続いていることを知らせていた。
「加藤さん…落ち着いて聞いてください」
医師は、眼鏡の奥の目を真っ直ぐこちらに向けた。
「精密検査の結果…ステージ4の膵臓がんです。余命は…正直、半年ほどかと」
その瞬間、胸を締めつける悲しみよりも、静かな安堵が先にきた。
「やっと終われる」
そんな言葉が、頭の中でゆっくりと浮かび上がる。
長年背負ってきた重荷が、少しだけ肩から落ちた気がした。
朝から晩まで浴びせられる罵声、売れない責任を押し付けられる日々。
そして、あの日から消えない後悔と罪悪感。
全部、あと半年で消える。
私は薄く笑った。
医師は困惑した顔をしたが、構わなかった。
生き延びるための治療方針よりも、どうやって終わらせるかの方が、今の私には重要だった。
ベッド脇のテーブルには、病院に来た松田が置いたらしい、まだ温かい缶コーヒーがあった。
缶の裏には小さく「早く戻ってきてください」とマジックで書かれている。
その文字を見たとき、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
それは病気のせいではなかった。
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