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雨が降る日

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雨が降る日

3 - 第3話 半年

♥

30

2025年08月11日

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――目を開けたとき、そこは病室だった。

白い天井、消毒液の匂い。

機械が規則正しく音を立て、私の命がまだ続いていることを知らせていた。


「加藤さん…落ち着いて聞いてください」

医師は、眼鏡の奥の目を真っ直ぐこちらに向けた。

「精密検査の結果…ステージ4の膵臓がんです。余命は…正直、半年ほどかと」


その瞬間、胸を締めつける悲しみよりも、静かな安堵が先にきた。

「やっと終われる」

そんな言葉が、頭の中でゆっくりと浮かび上がる。


長年背負ってきた重荷が、少しだけ肩から落ちた気がした。

朝から晩まで浴びせられる罵声、売れない責任を押し付けられる日々。

そして、あの日から消えない後悔と罪悪感。

全部、あと半年で消える。


私は薄く笑った。

医師は困惑した顔をしたが、構わなかった。

生き延びるための治療方針よりも、どうやって終わらせるかの方が、今の私には重要だった。


ベッド脇のテーブルには、病院に来た松田が置いたらしい、まだ温かい缶コーヒーがあった。

缶の裏には小さく「早く戻ってきてください」とマジックで書かれている。

その文字を見たとき、ほんの少しだけ胸が痛んだ。

それは病気のせいではなかった。


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