「そ、それで、コユキ殿、小生に用事なのであろ? 何?」
誤魔化すように言った善悪だったが、コユキもこの空気は嫌だったので、話を変える事に否は無い。
「う、うん…… あのさ、善悪、嘘じゃないから、ちゃんと聞いてくれるかな?」
いつになく真剣な表情で、と言っても脂肪に覆われた顔は、いつもとあまり変わり無い様に見える。
しかし、コユキは真剣であったし、善悪にはどうやら僅か(わずか)な表情の違いが判るらしい。
さすが幼馴染である。
コユキは鼻息も呼吸も荒く唾液(飛沫)を座卓に飛ばしながら、ほんの数時間前に自身と家族に起きた惨劇を一息に語った。
お巡りさんとのやりとりは敢えて黙っている事にしていた。
「――――という訳なんだけど…… ふぅ、善悪、取り敢えず○ルピスおかわり」
――――話したら少し落ち着いたような気がしたけれど、本当に善悪に話してなんとかなるのかな? そもそもこんな突拍子もない話、いくら善悪でも信じてくれるかどうかぁ……
と、善悪の顔を見るコユキ。
善悪は目をつぶり、先程痛めた顎の前に手を掲げ真剣に考えている様子だった。
「ふむふむふむふむ、ね…… まあ、そろそろだと思っていたので、ござる……」
コユキは善悪の言った言葉の意味がよく分からなかったのと、おかわりのカ○ピスを軽く無視されたことにイラッとしていた。
だが、善悪はそのまま話し続ける。
「コユキ殿は『カタストロフィー』というものをご存知かな?」
「へ? ……かたす ……ナニ?」
コユキは思考がまったく追いつかない。
「一斉に溢れ出すのさ、闇が…… 暴風を伴った闇が、ね……」
かたすなんちゃらや闇云々(うんぬん)はともかく、善悪のキメ顔にイラッとするコユキだった。
喉も渇いたし、またお腹も空いてきた。
そんな自分にもイライラした。
しかし、どうやら大事な話らしいし、家族の命に関わる事であろうから、珍しくコユキは、善悪にその苛立ちをぶつけることを我慢していた。
「……何なのよ? それって……」
「悪魔だよ」
「あ・く・ま?」
確かに、コユキも悪魔っぽいとは思っていた。
「コユキ殿の言う『ヤギ頭』は『バフォメット』でござる(適当)」
「ばふぉめっと?」
先程からただオウム返しのコユキである。
話の内容より、『こんな時に』と思いつつも、自身の空きっ腹がどうしても気になるのである。
我慢は無限にできるが、時間は有限だ。
この世に生きとし生けるもの全てに平等なのが時間である。
その限られた時間の中、コユキは常に何か食べていたいし、胃袋に少しでもスペースができれば、その隙間を即座に埋め、満腹状態にしたいのだ。
一方の善悪は善悪で幼少期から悪魔と言う存在が身近に存在していた事実を思い出し、その事でコユキの空腹具合にまで気が回っていなかったのである。
実の所、少年時代から寺の内外で彼には友達と呼べる四体の悪魔達が、確かに存在していたのである。
時に優しく声を掛けてくれ、時に小さな冒険を共にしてきた半透明の彼らは、善悪曰くパパン、清濁(キヨオミ)が寺を離れた後、突然消え去ってしまい、以来声や気配すら感じさせてくれてはいなかった。
長い事会っていない四体の悪魔を思い出し、おセンチになってしまいそうな気持ちを振り払う様に首を左右に振って、目の前の幼馴染が持ち込んだ悪魔っぽい話に集中する事に決めた善悪は、会話を続けるのであった。
「天使と悪魔…… 聖邪の争い…… コユキ殿は旧約聖書はご存知かな?」
「……それくらい分かるわよ ……仮面ライダ○とショッカ○みたいな?」
よく分かっていない様である。
「うむ、まぁ、言ってみればコユキ殿が仮面○イダーで、群がる敵、即ち悪魔共が○ョッカーってところでござるな(適当)」
「……はぁ?」
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