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すると。
お店に入って来る一人の男性。
「親父来た」
樹のその言葉と共にその姿を確認する。
直接会ったことはなかなか少なくても、自分の会社の社長の顔はもちろん知っているワケで。
社長として認識していたその姿が、本当の樹のお父さんなのだと、この瞬間ようやく一致する。
その存在感とオーラに、いざその姿を目の前にして、思ってた以上に緊張してくる自分も感じ始める。
「待たせたか?」
「いや。オレ達もさっき来たとこだから」
「あっ、悪いな。立たせて。座ってくれ」
「あぁ、うん」
姿を見た瞬間、その場で立って迎えた私たちに気を遣って声をかけてくれる。
そしてまた改めて席に座り直す。
「親父。こちらがオレの今お付き合いをしている人」
すると早速樹が紹介してくれる。
「望月 透子です。実は樹さんと同じ会社で・・・」
「プロジェクトで樹と頑張ってくれたそうで」
「あっ、はい・・」
自分の紹介をしようとすると、社長の方からそう声をかけてくれる。
「活躍は秘書の神崎の方からも聞きました。かなり優秀だとも聞いてますよ」
あっ、神崎さんが・・・。
「いえ・・とんでもない。プロジェクトでは本当に樹さんに助けてもらって」
「途中でオレは抜けることになって申し訳なかったけど」
「でも樹さんのサポートがあったからこそ、成功出来たプロジェクトです」
樹がそんな風に申し訳なさそうに言う必要ない。
樹がいてくれた時も抜けてからも、ずっと樹が力になってくれていたからこそ。
「これからもかなりの即戦力になって頂けると上司からも報告受けてますよ」
「親父・・仕事の話はもうそれくらいでいいんじゃない・・?」
「いや、それほどの方が樹を選んだのが少し不思議でね」
「それは・・何が言いたいワケ?」
なぜか少しずつ雰囲気が重くなり始める。
そっか、こういう感じのやり取りなんだ・・・。
社長は何か言いたいことを隠しつつ、少しずつ遠回しに核心に迫っていく感じで。
だけど樹はきっとそんな社長の気持ちを理解する前に核心に迫るタイプで。
昔からこういう関係なのかもしれない。
まだ社長が言おうとする意図はわからなくて。
批判的なのかどうかもまだわからない。
「お待たせしました」
するとその時、個室である部屋の扉が開いて声がした。
その声がする方を見ると、やっぱりどこにいても華やかでオーラがあるREIKA社長の姿が。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
「いや。こっちこそ、ごめん。母さん。忙しい中時間作ってもらって」
「予定開けてたんだけど急遽仕事入っちゃって」
「親父もさっき来たとこだし」
「あら、そう。・・・お久しぶりです」
「あぁ・・・」
REIKA社長は、樹と何気なく会話を交わしつつ、隣の席の社長に余所余所しく挨拶をする。
私的にはこの二人が目の前にいるってことがなんか不思議な感じで。
普段関わることのないある意味違う世界の上にいる二人。
「この前は創立パーティー来て頂いてありがとう」
するとREIKA社長が、向かい合わせに座り、私に気付いて声をかけてくれた。
「いえ。あの時はまさかお話させて頂けると思わなくて本当に光栄でした」
「えっと・・お名前なんだったかしら?」
「あっ、すいません!申し遅れました。望月透子と申します」
「あっ、そうそう。望月さんだったわね」
「あの時はまだ樹さんともお付き合いする前で、仕事のパートナーとして樹さんにご招待して頂いてご挨拶させて頂いただけなので・・」
「そうでしたね。あの時いろいろお話伺えて私も嬉しかったわ」
「まさか樹さんのお母様だとは存じ上げてなかったので、ただの一ファンとしてお話してしまってすいませんでした」
今思い返せば、その時は初めて憧れのREIKA社長と会えてお話出来たことで舞い上がっていて。
後からいろいろわかったことが多すぎて、正直鮮明に憶えていない気がする。
私、失礼なかっただろうか・・・。
「透子。大丈夫。それはちゃんとオレが事前に話してたから」
「ええ。樹にあの日は大切に想っている人を紹介したいって言われて。その彼女が私のブランドのファンだともお聞きして、私もあの時はお会い出来るの楽しみにしてたの」
「すごく光栄です。あの日はずっと憧れていた方にお会い出来て、その上お話もさせて頂けるなんて思ってもいなくて・・。まさか樹さんがそんな風に伝えてくれてたなんて知らなかったです」
「まだ透子には母親だって伝えていなかったしね」
「うん。後から聞いてホントにビックリした」
「今日もいろいろお話聞かせて頂けるかしら?」
「はい。ぜひ」
パーティーでお会いした時にも感じたけれど、REIKA社長ってすごい方なのに、実際お話すると気さくに話してくださる印象で、更に素敵な方だと実感する。
「樹?料理はもうお願いしてもらってるの?」
「あぁ。もうシェフにすでに伝えてある。皆揃ったから用意し始めてると思う。あっ、ワインも二人の好きないつものやつ、ちゃんと頼んであるから」
「ありがとう」
樹のこのスマートな事前準備もこの雰囲気も、ホントに3人で会うのが数年ぶりとは思えないくらいで。
このお店を皆それぞれで来てたと樹は言ってたけれど、二人が好きなワインをわかっているところとか、樹が細かに見ていなければ気付かないこと。
きっと本来一緒に来ていた樹の年齢ではまだ幼くて、そんな意識もなかったはずだから。
「親父もそれで大丈夫?」
「あぁ。今日はお前に任せてある」
「わかった。ならそれで」
社長と樹。
二人はホントに樹がそんなに反抗したくなるほどの関係性だったのだろうか。
私が見る限り、お互いが気にかけながら、お互いを尊重している家族に思える。
しっかり今のこの3人で家族のカタチが感じられる。
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