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「あっ、ゆき……」
電話の相手はあの生徒なのか?
昼間、行人に庇われるようにして学校へ戻っていった背の高い儚げな美少女。
なぜ、こんな時間に教師に電話をかけてくるのだ。
そもそも、教師が一生徒に携帯番号を教えるものなのだろうか。
だが、そんな問いを口にする暇はなかった。
スマートフォンを耳にあてると、行人は彼女に背を向けてしまったから。
何をしゃべってるのかな──湿った感情がジワリと鎌首をもたげる。
この距離では何と言ってるかまでは聞き取れないし、聞いてはいけないのも分かっている。
右手首の星のブレスレットが警告のように小さな音をたてたが、星歌の足はジリジリと前に進んでいた。
「──そこにいて。すぐに行くから」
行人の声がいつになく固く聞こえたのは、きっと自分と彼の距離のせいだと星歌は悟る。
ねぇ、どこに行くの──そう問うと、通話を切った行人の肩が驚いたように強張った。
「……ちょっと、緊急事態で」
いつになく凄みを感じさせる星歌の声に驚いたのだろう。
行人の口調はどこか言い訳がましく聞こえた。
ゴクリと喉を鳴らしたのは星歌である。
砂を食んだように、口中は乾いていた。
ジワジワと胸を蝕む激情そのままに、行人に向かって手を伸ばす。
「ダ、ダメなんだよ? 生徒とこんな時間に会ったりしたら。コンプライアンスがアレなんだよ」
抗議するにも、己の語彙の乏しさが恨めしい。
結局、口より先に手が出る。
気付けば星歌の右手は、義弟のスマートフォンをひったくっていた。
タイミングよく再び点滅しだした画面には『石野谷』の文字。
水風船が割れるように、感情が爆発した。
滴り落ちる負の感情。
液晶を叩き割る勢いで着信拒否をおすと、そのまま右手を振り上げる。
「ちょっ、嘘だろ! やめろよ、姉ちゃん!」
投げ捨てられては敵わないとばかり、行人が彼女の腕に取りすがる。
「放せっ!」
「どうしたんだよ、姉ちゃん?」
「うるさいっ、姉ちゃんって呼ぶな!」
叫んだ拍子に、手からスマートフォンが滑り落ちた。
「あっ!」
恐怖の波が押し寄せる。