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Stop the bomber《爆弾魔を止めろ》.
夢を見る。私もあまり見たことはなかったが、俯瞰するタイプの夢だ。
富士見「そこの男ー!止まれー!」
莫「何でこんな夢、見てるんだ、俺ー!」
のぶどい声が響き渡る。それは私も言いたい。何故か莫くんが指名手配犯となって追われている。何とか逃げ切った彼。
ねむ「コードナンバーセブン。おやすみございます」
「おやすみございます」。彼女、ねむちゃんがする独特な言い回し。おそらく現実世界でいうところの「おはようございます」枠。
莫「ねむちゃん。おやすみ。ああそうか。今回の任務も…国民的スターの君を守ること…」
ねむ「貴方も大変ですね。眠ってる時までエージェントの仕事して」
華麗にスルーされている。薔薇の花まで出したのに(夢の中だからどこから出しているとかない)。そういえば…ねむちゃんはここが莫くんの夢だということを分かっている…?ねむちゃん曰《いわ》く分かっていて、そういう夢なのだと思って迫真の演技を心がけたのだとか。魔性の女じゃないか。
ねむ「というわけで…丸が3になりまして〜♪」
莫「はい!」
ねむ「3をはめるとはい、逮捕!」
手錠。逮捕されている。
ねむ「万津莫、逮捕します」
莫「何で逮捕しちゃうんだよ!」
ねむ「私は今…1日警察署長なんで!」
くるっと回ると婦警の衣装に変わる。瞬間、重々しい響きと共に謎の煙が少しずつなびいてきた。振り向いた先にいたのはこの前、見た化け物の同族だ。形は違うけど。
「全てを爆破する…」
この前、もらったアイテムの腕の筋力を増加させる力を利用して手錠は何とか外して改めてナイトメアの方を向く。
莫「Stop the bomber.それが俺のミッションだ。(アイテムを装填して)I’m on it《さあやろうか》…変身っ!」
筋力の増加能力を活かして掴み掛かる腕を押し返したり、夢の力でシャッターを閉めたり、敵の周辺の壁を利用したりして戦っていく。
「悪夢は止まらない!」
すると化け物も壁を利用してきた。莫くんの方の壁が迫ってきている。
富士見「おい!さっきの爆破は貴様の仕業か!確保ー!」
莫「違〜う!」
「幸呼奈さん!」
鼻をつままれて目を覚ます。この儚げなイケボは…。
芥川龍之介《あくたがわりゅうのすけ》「もう時間だよ」
幸呼奈「おはようございます…」
芥川龍之介。前回、サラッと紹介したが、ここ帝國図書館には文学の侵蝕に対策するために転生させた文豪がいる。彼、芥川龍之介もその1人だ。
幸呼奈「芥川先生に起こされるなんて…前代未聞ですよ…」
「ざっけんなよ、羨ましい!」
幸呼奈 芥川「太宰先生(くん)!」
太宰治《だざいおさむ》。彼も文豪だ。お察しのとおり、芥川先生のガチファンだ。
幸呼奈「どうかされましたか?」
太宰「公安の人たち来てるよ。怪物に会った時のこと話すって約束してたんだろ?」
完璧に思い出した。エントランスに行こう。これ見よがしの赤いカーペットが轢かれた正面階段を降りていく。顔が見えた。あの時の刑事さん御二方だ。
富士見「文月幸呼奈さんですね?」
幸呼奈「はいっ!幸呼奈ですっ!」
なすか「知ってます」
怪物の話の前に大事なことがあるという。万津莫のことを調べているので知っていることを聞きたいとのこと。今、怪事課は窓際を超えて窓外族と化してしまっていて、富士見さんに至っては自宅にも帰らず万津莫のことを調べているらしい。私は莫くんとは初対面だったので詳しいことは知らないこと、館内の何でも屋なので捜査の協力はすること、莫くんに会えたら知っていることを話すことを伝えた。そして私たちは莫くんが妹と暮らしているという万津家があるアパートへやってきた。
富士見「万津莫がナイトメアに会ったとしたら、凶悪犯罪を起こす危険性があるからな」
なすか「科学的根拠がありません」
幸呼奈「私もそんな人には見えませんでしたけど…」
富士見「根拠ならある。一昨日の事故の怪我は完治して、昨日退院した。」
なすか「え?」
富士見「これは紛れもなく不可解な事件…ブラックケースだ」
幸呼奈「あ、あそこ」
何かを隠し持っている。挙動不審すぎる。
富士見「シャーっ!」
莫「っ⁉︎」
なすか「せめてそこはにゃーでしょ…」
何とか莫くんを引き止めた私。
幸呼奈「こんにちは、莫くん。幸呼奈です」
莫「あ、貴方は…」
富士見「警視庁の富士見鉄也です」
なすか「同じく南雲です」
富士見「退院早々で悪いが、署までご同行願いたい」
莫「え?何でですか?」
幸呼奈「任意だから!ですよね?」
なすか「はい」
莫「これって正夢…逮捕…指名手配だ!」
なすか「逮捕でも指名手配でもありません」
富士見「君は何を隠し持っている…?」
莫「俺にも分かりませんよ…夢に出てきて…朝起きたら何故かあって…」
あの司令官からもらっていたベルトだ。
富士見「どんな夢か思い出せるか!」
莫「ねむちゃんに会って…」
富士見「ねむちゃん…どうでもいい!彼女は皆の夢に出てくるだろう!」
なすか「私もよく見ます」
莫「いやいや。それだけじゃなくて…突然、悪魔みたいなのも出てきて…」
幸呼奈「うん。あの化け物。ナイトメアってこの人たちは呼んでるんだけど」
富士見「君たちはナイトメアにあったのか!」
揃って頷いてしまう。
富士見「シャーっ!(ガッツポーズ)詳しく聞かせてくれ!どんな夢だった?」
莫「銃で襲われたり…」
幸呼奈「パトカーを爆破されたり?」
富士見「あ…ありえない…私が昨日見た夢と同じだ!」
莫「え!同じですか!」
富士見「ああ!」
莫「同じ?」
富士見「同じだ、同じだ!」
幸呼奈「同じだ〜」
散歩中に気の合う子が見つかった犬のようにじゃれあっている。なすかさんのストレスマッハが心配だが。だったら話は簡単。うちの図書館で話をしよう。彼らもこの事件を調べていたとは。どうやら予想以上に色々なことが絡みあっているらしい。図書館の司書室。つまり私の部屋に皆を呼んだ。内装は割と私の思い通りだ。皆が座れるような机椅子をセットする。
「失礼します」
誰かが色々と持ってやってきた。
幸呼奈「陶瑚。どうしたの?」
陶瑚「お茶菓子と紅茶用意したから…」
富士見「あ!君はあの時の!」
陶瑚「文月陶瑚…です。あの時はありがとうございました…」
莫「いやいや、こちらこそ!」
陶瑚「一応、看護師なので」
なすか「彼女は?」
幸呼奈「妹です。双子の。看護大学で寮生活してたんですけど、卒業してから戻ってきたんですよ。ああ陶瑚。これ(アフタヌーンティーセット)ありがとう」
陶瑚「いえいえ。もう戻るわね」
戻っていった。机にアフタヌーンティーのセットを並べて話を始める。それぞれ紅茶を飲んで食べたいものをつまみながら本題に入る。
幸呼奈「えっとつまり…御二方がナイトメアの事件を担当されてたんですね。私も最近、ブラックケースについて調べてて。まさかナイトメアなんてものが関わってるとは思いませんでしたけど(もぐもぐ)」
富士見「別々の人間が同じ夢を見る。これは不可解な事件。ブラックケースだ(もぐもぐ)」
なすか「(もぐもぐ)」
莫「ずっと気になってたんですけど、ブラックケースって?(もぐもぐ)」
富士見「我々、怪事課が取り扱っている、未だ解決されていない不可解な事件のことだ。それにナイトメアが関わっている」
莫「ナイトメアが⁉︎」
富士見「ああ。なすか。資料を」
なすか「守秘義務があるので無理です。それに科学的根拠が…」
富士見「いいから出せ!」
アフタヌーンティーのプレートをどかす。不服さを体全体で現しながら資料を机に叩きつけるなすかさん。
富士見「ナイトメアとは睡眠時に見る夢の中に現れる怪物のことだ」
幸呼奈「夢魔《むま》の1種だよ。私なりに調べた感じ」
莫「ナイトメアのことさえよく分かってないのに新しい単語、出さないでください…」
幸呼奈「そうだね…私たちがよく知ってる言い方でいうと…貴方がさっき例えで使ってたのと同じ…悪魔?」
莫 なすか「悪魔っ⁉︎」
幸呼奈「悪魔の中でも夢の世界にいるものの総称が夢魔で、その1種がナイトメアってこと」
出現の原因も目的も謎に包まれている。仮説は立てられなくもないが、仮説の域を出ない。分かっているのは眠っている者に悪夢を見せるということ。
なすか「そういう夢も見ることはあるかもしれませんけど、夢ですから」
富士見「ただの夢じゃない」
なすか「そういうのは都市伝説やオカルト雑誌が取り扱うもので、我々警察の使命は、現実で発生した事件の解明です!」
富士見「警察官は俺の夢だった。自分の職務を、怪事課の使命を信じたいんだ」
幸呼奈「もうとっくに普通の状況じゃなくなってるんですよ…」
茉津李「刑事さんたちにそんなことを言ったのか」
買い出しの帰り道の公園。下の兄の茉津李(以後:茉津李兄)に今日のことを話していた。
幸呼奈「だから茉津李兄に心療心理士の視点から意見を聞きたいなって」
茉津李「睡眠時に見る夢については未だに謎が多いが…よく言われる3つがあれだな。記憶の整理、これから起きる悪いことに耐性をつけるための予行練習。そして…」
通りかかった公園。茉津李兄の投げたボールが額に飛んできた。何とか受け取って投げ返す。ドッチボール、久しぶりだ。
幸呼奈「…本当の気持ち、深層心理の表れ?」
何であれ自分にしか見られない、自分だけの世界だ。何やら隣が騒がしい。見てみると…
美浪「だから言ったじゃん、そうなるって!」
莫「どうしよう…」
美浪「これ(莫が持ってあげていた荷物)もらって先帰っとくから!」
莫「何で帰るの?」
美浪「もうだから来ないで!」
さては莫くん、美浪ちゃんの荷物、持ってあげたらまた不幸になったね…?思いながらも茉津李兄と気づかないフリをして帰っていく。
午前3時。ふと気になることがあって2人の元へ向かい、ある場所に集まってもらった。
幸呼奈「茉津李兄ー。陶瑚ー。ちょっといい?」
茉津李 陶瑚「?」
実は莫くんと同じ夢を見たことがずっと気になっていた。病院でのあれは私が私に異能力を使ったからできたものなので爆弾魔の夢まで一緒に見たとなると話が変わってくる。でも現に私は見た。俯瞰していたという違いはあるが。可能性は1つしかない。
幸呼奈「特別な力を持つ者同士が引き合うと、その力が急に進化することがあるって噂知ってる?」
茉津李「ああ。あったな」
幸呼奈「それでやってみてほしいことがあって」
茉津李兄は光影の異能力者だ。影の異空間を作り出すことができる。だったら莫くんがドライバーを受け取ったあそこに繋がることができるかもしれない。
ゼロ「君たち!」
莫「どうしてここに?」
幸呼奈「帝國図書館には裏図書館っていう仮想の世界で作った極秘防衛機関(?)があって…その要領で潜入できないか、かくかくをしかじかして…今こうしてここにいる」
莫「説明雑…」
簡単に自己紹介を済ませた茉津李兄と陶瑚。
幸呼奈「じゃあ莫くんは?」
莫「ゼロにクローゼットを開けろって言われて中に入ったらここに繋がってたんだ」
ゼロ「ここは君のために用意した作戦室だ。君にはこれからエージェントとしてミッションを遂行してもらう」
どこから声が…?と思っていると飾ってあったバイクが変形し、私たちが初めて会ったゼロの姿になった。あくまでも遠隔で操っている姿らしいが。
莫「俺、本当にエージェントになったんですか!」
ゼロ「願い続ける限り、叶うんだよ。君のやるべきことは1つ。他人の夢へと潜入し、ナイトメアの悪夢を未然に防ぐこと」
陶瑚「私たちはどうすれば…?」
ゼロ「君たちには私と一緒に彼のサポートをしてほしい。いいかな?」
幸呼奈「あたぼーで草」
茉津李「こんな時でも順応が早い幸呼奈と陶瑚がすごい」
ゼロ「夢を叶える力が封じ込められたアイテムだ。回してみろ」
現れたガチャガチャのようなアイテム。私があの時見たのと同じようなアイテムが出てくる。カプセムというらしい。詳しい話を聞くとナイトメアに究極の悪夢を見せられた人はナイトメアに体を乗っ取られて暗闇に閉じ込められて2度と目を覚まさなくなってしまうという。なるほど。絶対に究極の悪夢を防ぎたい私たちと、絶対に世界を悪夢に導きたいナイトメアたちがいると。この戦いですと。そして今は富士見さんがナイトメアに狙われている。そうして爆弾魔を止めることになった私たちは再び富士見さんの夢の中に向かった。
再びナイトメアと対面。何者なんだコイツは。たった1つ分かることは私たちが探していたナイトメアがコイツで、今までのブラックケースはコイツらの仕業だということ。変身して奴をバイクで追いかける莫くん。私は例の竹枝。
茉津李「陶瑚。地面にシールドを張れ。円形の」
陶瑚「ええ」
陶瑚はシールドの異能力者。2人の足元にサーフィンやスケートボードのような形のシールドが貼られる。
茉津李「あとは俺の光の触手で…」
光影の異能力は光も操れる。手のひらから出た光の触手がナイトメアの乗っているトラックに絡みつく。茉津李兄の光の触手と陶瑚のシールドで完全にトラックと2人の足が固定された。地面をスノーボードのように火花を散らして滑っていく。まさかそれで行くつもりか。何とか追い詰めた私たち。ナイトメアに止めを刺そうとする莫くん。
莫「お前を倒せば…富士見さんは救えるんだな…」
その瞬間、誰かの手が肩に触れた。
「夢とは…夢主の深層心理…」
莫「誰だ!」
陶瑚「あそこよ(警察署の窓際を指差す)」
幸呼奈 茉津李「あ!」
すんげぇ高いところにいる。今まで聞こえていた謎の声の主はあの人だったのか。あの服なんだろう。白衣?白コート?いや待てと。この人、もっと近く…それこそ私たちの耳元で話しかけていなかったか…?何なら肩に手を触れて …もしかして高所平気症の方ですか?いや違う。関係ない。
「夢とは…現実世界で叶わぬ願いの隠れ家。 心の扉を開けた時、悪夢は始まる…」
莫「爆弾魔の悪夢を望んでいるのは…富士見さん自身なのか…何故だ…富士見さん…」
“それはいつ見たゆめかわからない
けれどもわたしはそのゆめのなかで
ふしぎなものを貰つた
小さくちかちか光つたもの
星に似たやうなもの
かたちのないもの
わたしのこころそのままなもの”
抜粋
室生犀星『星より来れる者‐ゆめ』