テラーノベル
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72
4,482
💛💙❤️によるお話。
⚠︎心理的ホラー要素有り
ハッピーエンド、バッドエンド、メリーバッドエンド
三者三様に読み取れる終わり方です。
ちょっとでも苦手だと思ったらback↪️推奨。
「執着のあるところに愛はなく、依存があるところには恐怖がある。」
/ジッドゥ・クリシュナムルティ
💙side.
ある日、照から突然別れを告げられた。
それは本当に青天の霹靂で。
上手くいってると思っていた。
オフが被ればなるべくふたりで出掛けたし、連絡もマメな照には最低でも1日1回はやり取りしていた。
身体の繋がりも照だから許せた。
男同士、しかもグループ内恋愛、思うところは多々あっても照の熱量に根負けしたのは俺だ。
そうしてちゃんと向き合って、ちゃんと好きになっていた。
むしろ今は俺の方が、照の事を好きなんじゃないかと思うほど。
だからここ最近の連絡の少なさも、仕事のせいだろうと思っていた。
のに、だ。
『ごめん、別れよう』
たったそれだけ。
勿論、納得できるわけもなく。
ただ電話をかけても、翌日に仕事で顔を合わせても、照が俺と話してくれることは無かった。
突然の別れと、話す余地すらも与えてもらえない状況。
何かしたなら謝りたかった。
俺に気に食わないところがあったなら直したかった。
だから仕事終わりに照を捕まえて話そうともしたが、振り払われた。
それが如何にショックだったか。
俺と照の交際は呆気ないほどに終わりを告げた。
「翔太、また泣いたでしょ」
コツンと冷たい缶ジュースを額に当てられた。
顔をあげると、幼なじみであり、グループの仲間でもある涼太が眉根を下げて俺を見ていた。
涼太はいつだって、変化に敏感だ。
それは俺に限らずメンバーの誰であったり、グループ内の空気には人一倍敏感で。
だから俺が照に振られた時も、一番に気付いたのは涼太だった。
「…お見通しだな」
「そりゃあね。何年見てると思ってんの」
「今日はちゃんと目冷やしてきたから腫れてないし、バレないと思ってた」
「どうせ、寝れてもないんでしょ。肌荒れてるよ」
「……ダメだな。考えないようにしても、顔合わせるとなると…キツくて…ッ」
ズッ、と鼻を啜った。床に向けた視界がじわりと滲んでいく。
女々しいのは重々分かっている。
でも、誰が納得できるだろうか。
好きだった相手から突然振られて、理由も聞けないまま無視されて、堪えないわけがない。
涼太の手のひらが、頭を優しく撫でた。
その優しさが余計に痛い。
やめろよ、なんて言いそうになったけれど、温かさに絆された。
俺が泣いているのを知らないフリして、涼太は自分が持っていた缶コーヒーを啜っていた。
俺と照が付き合っていたことはメンバー公認だった。
だから別れた事も自ずと知れ渡って、それでも皆は気を遣わずいつも通りしてくれていた。
照も皆の前では普通にしていて。
だけど俺と視線は絡み合わない。
話が振られても、一言二言交わせば上手い具合に摩り替えられて。
ファンが気付かない程度の絡み。
下手に避ければ不仲説やら色々すぐに騒がれる。
それはそれで面倒なことになることも理解してるからこその距離感。
収録や撮影では笑って。
終われば広がる冷たい距離。
楽屋へ戻る道中、何度もその背中に問いかけた。
ねぇ、なんで別れたの。
ねぇ、なんで話し合いもしてくれないの。
俺なにか怒らせたかなぁ。
それに気付かない俺に愛想を尽かした?
謝りたい。謝らせて欲しい。
話を聞いて。
好きだよ、照。
足が立ち止まって、涙が頬を伝う。
段々と背が丸まって、メンバーに気付かれないように廊下の端に隠れるようにうずくまった。
しゃくりあげて、嗚咽が漏れる。
たかが振られただけ。
女であれば大したことないのだろう。
だけど、長年苦楽を共にして、長年連れ添った相手だ。
情もあれど、本当に好きだった。
好きになっていた。
諦めることなんて出来なくて。
「翔太」
唐突に名前を呼ばれて、びくりと肩が跳ねた。
顔をあげると、また涼太が居て。
なんで、いつも駆けつけるのがお前なんだ。
そんな八つ当たりな思いまで込み上げてくる自分が嫌になる。
だけど、そんなこともコイツはお見通しなんだ。
「ごめん。照じゃなくて、俺で」
「いや…悪ぃ、みっともねぇとこ見せて」
「そんな事ないよ」
「…女々しいよな、いつまで経っても」
「まだそんなに日も経ってないし、無理もないよ。照と翔太の関係は皆が理解していた。…俺らも戸惑ってるよ」
俺から少しだけ視線を外して、苦しそうな顔で涼太が眉を寄せた。
いつも通りにしてくれているといっても、やはり内面では皆、戸惑いや距離感の難しさに悩んでいるのだろう。
申し訳なさで、ごめん、と呟くと涼太は首を横に振った。
それから、うずくまった俺に視線を合わせるようにしゃがみこんで、真っ直ぐに俺の顔を見た。
「…翔太は何にも悪くない。理由も言わず、話し合いもしない照に責任があると俺は思ってる。俺からも照に伝えておくよ。グループの空気を悪くしかねないからね」
「ほんと…ごめん。巻き込んで…」
「俺に出来ることはするよ。幼なじみが傷付いて泣いてるのを、感化出来ないだけだよ」
大丈夫、と涼太が笑うと、俺もフッと笑みが零れた。
それから勢いよく立ち上がった涼太が、飲みに行こう!と俺の手を引いた。
強引だったけど、今の俺にとってはありがたくて。
支えてくれている仲間がいる。
何かあっても裏切らないで付き添ってくれる仲間がいる。
俺が壊れないでいれるのは、涼太のおかげでもあり、メンバーのおかげでもあった。
「…飲みすぎないでよ」
「翔太がいつもみたいにストップかけてよ」
「しょうがねぇな」
「その前に、顔洗ってきな。楽屋戻ったら泣いてたことバレるぞ」
トン、と背中を押されて、振り返るといつものように眉根を下げて歯を見せて笑う涼太。
頷いて、涼太と別れてトイレへと駆け込んだ。
「じゃあ…乾杯」
「はい、乾杯」
グラス同士が重なり合う。
居酒屋のカウンターにふたりで並ぶのは、意外と初めてかもしれない。
いつも誰かしら居たし、照と付き合い始めてからは中々他のメンバーと遊びや飲みなどの機会も少なくなっていた。
ましてや涼太とふたりきりだなんて、妙に緊張した。
ちびちびと酒を進めながら、気まずさで視線を揺れる酒へと移す。
先に口を開いたのは涼太の方だった。
「……特にさ、何を聞きたいとか、そういう訳じゃないから」
「へ…?」
「人間誰しも、聞いて欲しくないことや、言っても理解できないこともある。相容れない時もそう。そういうのは、無理に引き出したり、むやみやたらに興味本位で聞けるようなものじゃないから」
「…あ、そ…」
俺のほうを見ずに口だけを動かして、目の前の大将に注文をする。
俺は酒を口に含みながら、こくりと喉に流し込んだ。
何かを聞かれると思っていたから、予想外だった。
昔からコイツはあまり感情を表に出さないから、何を考えてるかなんてよく分からなくて。
だけど仕草や癖、表情でなんとなく感じれることもあった。
でも今は、なんで俺を誘ったのか、それだけが心に引っかかった。
「なんで飲みに誘ったのって顔してる」
「ぁだっ…!」
考え事をしていた俺の眉間に、涼太が軽くデコピンをした。
皺が出来るよ、と余裕ぶった笑みを浮かべて、頬杖をついた涼太が言った。
ジンジンとする痛みを手で摩りながら、唇を尖らせる。
「図星でしょ。深い意味は無いって。ただ、翔太に少しでも笑って欲しかっただけ 」
「俺…そんなに笑えてない?」
「…プライベートでは、ね。仕事はふたりともちゃんとしてるし、そこはプロだなって思ってるよ」
笑ってるつもりで、やはりどうしたって表情には出るのだろう。
ため息をつくと、涼太がグラスを再びかち合わせてきた。
「こら。ここでため息は禁止。せっかく気分転換に来たんだから、今は照のこと忘れて飲もう。そういえばこないだの収録でさ───」
俺が照の事を思い出す暇もないくらい、それから涼太はたくさん話をしてくれた。
話すのが苦手な涼太なりに、たくさん考えてくれたのだろう。
その間だけは確かに笑えた。
久しぶりにちゃんと、心から笑った気がする。
そんな俺を見て涼太も笑っていて。
いい幼なじみを持ったと思えた。
「あ〜呑んだ!食った!照のことなんて、もう知らねえ〜!」
「あはは!翔太いいねぇ!」
「あーんな筋肉ばか、筋肉と一生付き合ってろ!」
「あっはは!あ〜おっかしぃ!翔太、呑みすぎ」
「いいの〜。俺はもう、照のこと…忘れたい…の」
覚束無い足取りで涼太とふたり、静かな夜道を歩く。
足が絡んでふらついた先、涼太が受け止めてくれた。
いつもと変わらない笑顔。
いつもと変わらない態度。
ほどよく回った酒が、寂しさを埋めるにはちょうど良くて。
肩に触れた涼太の手がじんわりと熱かった。
「……ありがとな、涼太」
「いいんだよ。俺は、翔太が少しでも俺を頼ってくれたら嬉しいから」
「ん…」
「ほら、帰ろう」
今度は俺がよろけないように、手を繋がれた。
小さい頃を思い出す。
昔は俺が引っ張る側だったのに、いつの間にか涼太の方が背も体格も良くなって。
引っ込み思案な涼太が、俺をリードするようになった。
グループでもそう。
俺の方が先に入所したのに、先輩なのに、涼太の方がグループを存続させるためにたくさん頑張ってくれていた。
それなのに俺は、たった一人の男にいつまでも執着して、メソメソと泣いて。
相手はもうなにも俺に執着なんてしてないはずなのに。
ゆっくりと瞬きをする。
もう元には戻れない関係に縋るのはやめよう。
メンバーにも迷惑をかけたくない。
俺がいつまでも暗い顔をしていたら、グループ内の空気も淀むだろう。
街灯に照らされた先の見えない夜道に目を向けて、ただ前を向いて歩いていくしかないのだと思った。
ぎゅっと涼太の手を握り返す。
涼太も何も言わず、俺の家に送り届けてくれるまで手を離さなかった。
それから俺の心境は日に日に変化していった。
照は俺と距離を取りたがるけど、普通に笑って接した。
無理に笑うんじゃない。
ちゃんと笑えてる。
楽しむようにしてる。
それが伝わってるからか、周りの雰囲気もちゃんと変わってきてる。
俺は終わらせた。ちゃんと終わらせた。
未だに未練がないかと言われればあるにきまってる。
照の事は変わらずに好き。
だけど、縋ることはもうしない。
照に嫌われてるかもしれないけれど、照の好きな俺のままで終わらせたかったから。
「翔太、行くよ」
「待てって、涼太」
それから涼太といることも増えた。
オフの日は友だちや他のメンバーと遊ぶようにしてたけれど、涼太と会う回数はあきらかに増えて。
俺を小さい頃から知ってる涼太だからこそ、なにを言わなくてもすぐ理解して先回りで動いてくれた。
今日だって、たまには実家に帰ろうかと思っていたタイミングで、涼太の方から実家に帰るつもりだが一緒に帰らないかと連絡が来た。
地元が一緒で、両親ともに仲もいい。
たまにはお互いの両親に顔を見せようよ、という涼太の案に乗っかった。
オフの日が被った今日、俺の車に涼太を乗せて決行となった。
「翔太のところのお父さんお母さん、元気なの?」
「元気も何も。帰ってくんなって言われるくらい」
「俺も久しぶりに会うからな。ふたりして帰ってくんなって言われるかも」
「逆に俺は、涼太のお父さんに呑みに連れてかれそう」
「ありえる。それで、母さんが怒るんだよね」
助手席に乗った涼太が、肩を揺らして笑う。
俺もハンドルを握りながら昔話に花を咲かせて。
住んでいるところからそう遠くは無い、慣れた道を進む。
後部座席には泊まり用の荷物がふたつ。
地方ロケに行った時の手土産を、互いの両親宛てに用意していた。
「先に翔太の家に挨拶済ませたら、 俺の家でしょ。親父に呑みに連れてかれないうちに実家戻る? 」
「いや、いいよ。昼まで俺の家居ようよ。それから涼太の家行こう。呑みに行くなら、涼太の家泊まる 」
「OK。じゃあそれで」
しばらく車を走らせて、俺の家に着く。
俺の背後から顔を覗かせた涼太に、俺の母親は笑いながら出迎えてくれた。
それから母と涼太が話すのを隣で聞きながら、少しの時間を俺の家で過ごして。
母が作ったご飯を食べながら時計を見る。
昼もすぎて、いい頃合いだと涼太に目を向ければ、察してくれたのか頷いて自然と母との会話を終わらせた。
最小限に荷物をまとめて、今度は涼太の家へ。
涼太の家でも同じように俺が背後から顔を出せば、喜んで招き入れてくれた。
そうして日が沈むくらいまで話していると、涼太のお父さんが帰ってきて、案の定呑みに誘われた。
涼太の言うとおり、涼太のお母さんは俺を連れて呑みに行くことに怒っていたけれど、俺が行きたいといえば飲みすぎないようにと送り出してくれて。
行きつけだという居酒屋で、何がきっかけだったか、突然に涼太とお父さんとの親子対決が始まった。
当然、ふたりとも酒豪であるがゆえに、俺がストップをかけるまでふたりは飲み続けていた。
そんなふたりをタクシーに押し込んで、涼太の家へと戻る。
不思議な感覚だった。
あれだけ照を縋っていたのに、時間というものは残酷だ。
時が経てば経つほど、想いは残るのに、気持ちはゆっくりと落ち着いていく。
本当なら今日みたいなオフの日は照の腕の中で抱かれていたりするのだろう。
もうそんな身体の寂しささえも、諦めがついてしまっている。
涼太と居て、涼太のお父さんと呑んで、涼太の家に帰る。
何をしてるんだろう、という気持ちと、涼太だから出来ていることだと実感する思い。
揺れる車内、寝息を立てるお父さんと違い、涼太はまどろみの中で夜の景色に目を向けていた。
家に着いて何とかお父さんを運んだあと、シャワーを借りて、交代で涼太もシャワーを終わらせてから、ふたりで涼太の部屋へと戻った。
どこか懐かしい匂いがした。
その匂いに、少しだけ肩の力が抜ける。
「翔太、疲れたでしょ。俺のベッド使って寝ていいよ」
「え!いいよ、涼太使えよ。俺、床でいいから」
「ダメ。身体壊すから」
「涼太もだろ。じゃあ、じゃんけん」
そう言って差し出した手を、涼太が止めた。
酔っているせいか、俺を見る視線はどこか熱を帯びていて。
どく、と心臓が鳴った。
「…りょう、た…?」
「翔太はさ、優しいから。いつでも自分の気持ちより他の人を優先させるよね。それは心もしんどくなると思うんだ。だから、俺の前ではゆっくり休んで欲しい」
「でも…」
「翔太」
握られた手がゆっくりと床に落ちる。
解けた指に、涼太の手が絡められた。
この手の意味を、温度を、俺は照で知っている。
次に言われる言葉の意味も。
あぁ、いつから変わってきていたんだろうか。
「翔太、照のことを忘れろとは言わない。でも、俺はいつでも傍に居るよ」
「涼太……」
「…酔っぱらいの戯言だと受け止める?」
真っ直ぐにぶつかる視線は真剣で。
とても酔ってるから出たという言葉ではなかった。
小さく首を横に振ると、涼太が静かに口角をあげた。
その顔は優しくて、そういう目で俺を見ていると分かった。
いつから、なんて聞けない。
涼太が俺をそういう目で見ているのを知らずに、俺はずっと照のことを支えてもらっていて。
傷付けてしまっていたかもしれないのに、優しかった。
こんなに優しいのに、それを嘘だと思うことはできなくて。
それ以上、涼太は何も言わなかった。
結局、涼太の言う通りに俺が布団で寝て、涼太は床に敷いた布団で俺が寝付くまでずっと俺を見てくれていた。
涼太とそういう関係になるのに時間はそうかからなかった。
どちらが何を言うでもなく。
まるでそうあったかのように、自然と繋がれた手から俺も応えるように繋がって。
涼太は何も言わず、ずっと俺の傍にいてくれた。
それが何より俺の心の支えとなっていた。
だから応えたくなった。
もう一度、誰かに愛されたかったのかもしれない。
照の事は忘れられない。
でも、それでも受け入れてくれる涼太に甘えたかったのかもしれない。
幼なじみからメンバーへ。
それから恋人へと変わる。
手を繋ぐことは出来てもキスは中々出来なくて。
それでもじっくりと時間をかけて受け入れられるようになって。
そうすれば身体への関係へと移行する。
俺の部屋で、照じゃない別の相手に抱かれる。
俺はそれを許してしまう。
もう戻れないのだと分かれば、自然と涙が溢れた。
「……キツい?」
「違…っ、ごめん…」
「やめる?」
「ううん…。久しぶりだから、ちょっと痛くて…」
「…愛してるよ、翔太」
何度も交わされたキス。
照と違う香り、照と違う感触、照と違う抱き方。
比べたらダメなのに、どうしても面影が消えてくれない。
最低だ。
こんなにも涼太は俺を愛してくれているのに、俺はそれを返しきれない。
時間が忘れさせてくれる。
いつかきっと、涼太だけを見ることが出来る。
そう言い聞かせて抱かれて。
照に抱かれていた身体は、当たり前のように久しぶりの快楽に悦んだ。
自分の心と相反して、気持ちよさで何度もイッて。
その度に心は重く、どうして照じゃないんだと訴える。
もう戻ることもないのに。
「泣かないで、翔太。俺が傍にいるよ」
行為中、何度もそう囁かれた。
まるで呪いのように。
何度も何度も、優しい声で。
俺が泣いている理由も、きっと涼太は気付いてる。
でもそれでも俺を責めない。
それが余計に涼太を傷付けていることも知っている。
涼太だってきっと、俺に手を出すのは戸惑ったはずだ。
メンバー内で、元恋人に抱かれた俺を抱く。
いくら好きな相手だからといって複雑だろう。
これがもし、顔も知らないような相手だったら、俺も涼太もこんなに互いを気遣って抱き合うこともないのだろう。
照だから。
同じメンバーだから。
涼太の背中に爪をたてる。
俺は涼太に抱かれた。
その事実だけが、虚しくもずっと身体を蝕んでいった。
身体を重ねた日から、涼太は何を思ってか、俺を求めてくることはなかった。
逆に俺の方が、しなくていいのかと尋ねるほどに。
泣いたから、抱きづらいのか。
もしくは俺とヤッたのが気持ちよくなかったのか。
また拒絶される恐怖。
涼太の服の裾を掴む手が震えていた。
「怖がらないで、翔太。俺は翔太と居られればそれでいいんだよ。一度抱かせてくれた。それだけで俺は凄く幸せなんだ。だから今度は、翔太が心から俺を求めてくれるようになったら、抱かせて欲しい」
「涼太…」
「まだ、翔太の心には照がいる。仕事上、どうしたって顔を見るんだ。辛くなるだろ。その辛さを忘れるくらい、俺のことを考えてくれるようになるまで、俺は待てるよ」
何年、待ったと思ってんの。
涼太の言葉に下唇を噛んだ。
枯れたはずの涙が、またポロポロと落ちてきて。
そんな俺に笑って、涼太が髪を撫でる。
この手のひらが落ち着くんだ。
それくらい、心は涼太に向かっている。
どこまでも優しい涼太に、ちゃんと向き合いたかった。
だから、この時初めて、自分から涼太にキスをした。
目を丸くした涼太が微笑むのが嬉しかった。
「涼太ぁ、寝室も掃除していいー?」
「床だけ拭いてくれたらいいよ」
「おっけー。任せて」
ドラマの撮影でしばらく家を空けていた涼太の家へ遊びに来たついでに、溜まっているであろう家事を手伝うことにした。
と言っても、俺が出来ることは限られているから、掃除機やシートを使って床を拭くくらいで。
途中から涼太は昼ごはんをと、キッチンでご飯を作り始めた。
俺はその間にも掃除を進めていった。
久しぶりに涼太の寝室へと入ると、相変わらずのローズの香りがした。
さっさと終わらせようと、掃除機をかけた後に床を拭いていく。
自分で言うのもなんだが、メンバー内でも俺は綺麗好きだと自負している。
だから夢中になって掃除をしていて、後ろのチェストに気付かず背中をぶつけてしまった。
「いって…」
背中を摩りながら立ち上がる。
ぶつかった衝撃か、少しだけチェストの引き出しが開いてしまって。
その中に、見覚えのない携帯が入っていた。
涼太のものではない。
伏せられた携帯に違和感を覚えて、手に取ろうとした。
「ダメだよ」
耳に届く、冷たく低い言葉。
俺の手に重ねられた涼太の手。
いつの間に後ろに居たのか。
足音も何もしなかった。
心臓がバクバクと脈を打って、冷や汗が額から滴り落ちた。
「涼太…」
「コレは、おばあちゃんがデビューの時に買ってくれた携帯なんだ。使うには勿体なくてね。大事に仕舞ってあるんだ。だから、翔太でも触っちゃダメ」
「そ…っか、ごめん…」
「ほら、ご飯できたよ。食べようか」
くるりと身体を回されて、涼太の方を向かされた。
いやに貼り付いたような笑顔が怖く思えた。
俺の肩を抱いたまま、涼太が軽く唇を触れ合わせる。
まるで何かを誤魔化すように。
「翔太、今日も愛してるよ」
そう言って腕の中に捕われる。
だらりと落ちた腕を、そっと涼太の背中へと回した。
ご飯を食べて、少し休憩してから再び軽く片付けをして。
帰ろうかとも思ったが、次の日が夕方からの仕事のみだったから、そのまま泊まることになった。
買い出しに出かけて、ふたりで夕食を作って、また食べて、風呂に入って、ゆっくり過ごす。
そろそろ寝ようか、という言葉に黙って従って、涼太が捲ったシーツの中に入って寝転がった。
俺の隣に、当たり前に涼太が寝そべる。
「おやすみ、翔太」
「…おやすみ」
お互いに体を向き合わせ、目を合わせる。
ジッと見つめると同じように涼太も見つめ返してきて。
いつだってそうだ。
涼太は俺より先に寝ることはない。
朝だってそう。
俺より先に起きている。
……そういえば、俺は涼太の寝顔を見たことがない。
ふと、そう思った。
俺は眠りが深い方だから、一度寝れば朝まで起きることは滅多にない。
なるべく夜も早めに寝るようにはしてるけれど、それでもだ。
酒を飲んだとしても、俺の前で涼太が寝たことはない。
どうして。たまたまなのか。
難しい顔をしていたからか、涼太が不思議そうに俺の眉間の皺を撫でてきた。
「…眠れない?」
「…ううん。ちょっと…」
「そう。大丈夫だよ、翔太。不安がることはないよ。───俺がずっと、傍にいるから」
「…うん。うん、分かってるよ、涼太──…」
そう、何も考えなければいいのだ。
ゆっくりと瞼を落としていく。
大丈夫。俺は愛されてる。
そして俺も、涼太を好きになる。
それでいい。それだけでいい。
涼太の温もりを感じながら、俺は深い眠りについた。
涼太との交際は順調だった。
照の事を考えることも薄れてきていた。
毎日は慌ただしく過ぎていく。
仕事もありがたいことにまた増えて、調子も良くなっていった。
今日は久しぶりにグループ全員でのスタジオ収録。
朝から集まって、ダンス練習にボイストレーニング。
空き時間で各々過ごして、夕方にはリハ。
収録をするのは日が落ちてからだった。
衣装に着替えて、バタバタと時間に追われる中マイクテストもやって。
そうして2時間ほどで収録を終えた。
スタッフさんたちに頭を下げて、挨拶をしてスタジオを出る。
楽屋へと戻って、それぞれ着替えて、メンバー同士軽く会話を交わす。
収録でよかった点、反省するべき点。
そんなことを少しだけお互いに言い合って、キリのいいところで帰っていく。
俺も荷物をまとめて、楽屋を出て誰もいない廊下を歩き出した。
「翔太!」
後ろから声をかけられて、振り向くと涼太がいた。
先に帰ったと思っていたから驚いたけど、まだ残っていたらしい。
「びっくりした」
「ちょっとスタッフさんと話してて。よかったら一緒に帰らない?」
「…もちろん」
「ふふ。今日もかわいいね、翔太は」
「え、ちょ…っ」
涼太の手が俺の手を掬いとって、指が絡み合う。
誰もいないといっても、誰かが来る可能性があるところで涼太から手を繋がれるなんて思ってもなくて。
繋いだ手に涼太が微笑む。
それから、驚いてる俺へとキスをして。
「りょ…ッ、ん、ふ…ッ、まっ、まって…!」
身を離そうとすれば涼太の腕が腰に回って俺を引き寄せる。
人前でなんて絶対にしてこなかった涼太からのキス。
もしかしたらメンバーだってまだいるかもしれないのに。
なんで突然キスなんか…。
そう思って、瞬きをする一瞬、視界の端に何かが見えた。
涼太の胸を腕で押して、その方向へと目を向ける。
息が止まった。
照。
目に映り込む、元恋人の姿がそこにあって。
呆然と俺と涼太を見て、それから嘲笑うように口角をあげた。
「……好きなやつって、舘さんかよ…。違うグループなら、って思ってたけど、同じグループだなんてな」
小さく零された言葉。
その言葉に、頭が真っ白になった。
それから照が踵を返す。
思わず涼太を突き飛ばして、照の背中を捕まえていた。
「待って!待って照!!」
「離せよ…ッ」
「違う…!好きなやつって何…!?俺、そんなこと言ってない…!」
「はぁ!?お前が突然好きなやつ出来たから別れたいって言ったんだろ!それなのに、次の日には話がしたいとか縋ってきて…マジで…どういう神経してんの…」
「違う…言ってない…言ってないよ……。ほら、これ…俺の履歴…っ」
慌てて携帯を取り出して、あの日送られてきた照のメッセージを見せた。
確かに俺の携帯には照の方から別れたいと送られてきている。
照が口元を手で覆って、違う、と呟いた。
それから照もまた、携帯を取り出して俺との履歴を見せてくれた。
そこには俺の方から別れを告げていて。
「な、にこれ…なんで…」
「俺は、翔太に寂しい思いさせてたかもしんないし、もちろんその好きなやつぶん殴りたいっても思ってた。でも…翔太のこと好きだったから…ちゃんと幸せになってくれるんなら、俺が縋ったらダメだと思って…」
照からの本音に、涙が伝う。
嫌われたわけじゃなかった。
照も俺を想って距離を取っていた。
でも、なんで。
「じゃあ…コレは一体、誰が…」
「翔太。ちょっと電話かけるよ」
照が通話のボタンを押す。
本来ならかかるのは俺の携帯なのに、俺の画面は一切変わらない。
コールが鳴る。
どこかで籠るようなバイブ音が聞こえた。
息が上がっていく。
心臓がバカみたいに速く、強く、胸を叩く。
俺の後ろから、鮮明な音へと変わって。
「……やっぱり、照は行動が早いね」
振り返った先、俺と照を笑いながら見つめる涼太がパチパチと拍手をした。
冷静で、落ち着いたトーンで口を紡ぐ。
その手には鞄から取り出したのだろう、あの日チェストの中に仕舞われていた携帯が握られていた。
ガタガタと全身が震え出す。
初めて、涼太という存在が分からなくなった。
「な…んで、涼太…」
「なんで…って?翔太は元から俺のでしょ?小さい頃から翔太を知っているのは俺で、ずっと傍にいたのは俺なんだから」
「何言って…」
コツ、コツ、とヒールの音を鳴らして、涼太が近づいてくる。
息ができなくて、血の気が引いていくのが分かった。
足が動かない。
今、目の前にいるのは本当に涼太なのだろうか。
そう思っていると、ふいに後ろから腕を引かれて、照に抱き締められた。
久しぶりに鼻腔をつく、照の香り。
優しく、でも力強い腕の力が俺を包む。
「…宮ちゃん」
「久しぶりだね、そう呼んでくれるの」
「何でこんな事…」
「俺は男だから、翔太を見ているだけでよかったんだ。翔太に合う女の人と幸せになってくれればそれでいい。幸せにできない分、傍で支えようと思っていたんだけどね。でも、照がそれを奪ったんじゃないか 」
「……それは、踏み出さなかった宮ちゃんの弱さだろ。俺は、俺が翔太を幸せにしたかったから動いた。それだけだ」
照の腕が更に強まった。
その腕を俺は掴めないでいる。
だって俺は、涼太に甘えてしまった。
涼太を許してしまった。
その現実が残酷に突きつけられる。
「でも、翔太は俺の元に還るんだ。照が今さら手放したものを返す気にはならないからね 」
「それは俺の意思でも、翔太の意思でもねぇだろ」
「ふふ…そうかな。翔太が照を選ぶなら返してもいいよ。でも……翔太はもう俺に抱かれた」
「やめろ!!!」
涼太の声に思わず耳を塞いだ。
やめてくれ。
言わないでくれ。
照の顔が見れない。
向き合いたいと思っていた涼太の顔が見えない。
俺は今、誰にどうしてほしいのか。
分からなくなる。
照の腕が、少しだけ緩んだ。
それはきっと、俺を拒絶したから。
いやでもそう感じてしまって、心が痛んだ。
「…照は一度手を出されたものに触れられないでしょ?それに、きっと取り戻したところで翔太を抱けない。俺に抱かれた翔太を思い出すから。翔太もそうだ。照に抱かれても頭の中には俺が残る」
「やめろ…!!やめて、もう…やめて、涼太…ッ」
「それでもふたりが戻れると言うなら、それがふたりの愛の形として、俺は身を引くよ。でも……翔太はきっと、俺の元へと還ってくる 」
涙がぼろぼろと伝う俺の頬を、愛おしそうに涼太が手のひらで撫でた。
その手を、照が払い除ける。
怒りと悲しみを混じえたような顔で、涼太を睨みつけて。
まだ、俺のために抵抗しようとしてくれている。
ちゃんとまだ、俺のことを守ろうとしてくれている。
なのに俺は裏切った。
それが互いのせいでないとしても、俺は照を諦めて涼太に甘えた。
優しさを受け入れた。
俺の弱さのせいだ。
「俺は…宮ちゃんを許さない…。ッ、翔太は、俺のもんだ」
「…ひかる……」
「照、執着っていうものはね、愛に勝るんだ。翔太はもう、お前の元には帰れない。そうだろ、翔太」
照が例えもう一度、俺を許してくれたとしても。
涼太が俺を諦めてくれたとしても。
俺はきっともう、初めから答えが出ていたんだと思う。
この始まりが起きる前からきっと、どこかでいつかこういう事になっていた。
ただきっかけが、照だっただけ。
俺は人を愛せない。
愛してはいけない。
いつだって俺が弱いせいで、色んな人を巻き込んで。
誰も幸せになんてなれやしないんだ。
「在るべきところへ還るだけ。人生の輪廻はそうやって上手く回っている。誰も悪くないんだよ、照」
そう言って、涼太は俺と照を置いて帰って行った。
涼太がここで手を繋いだのも、キスをしたのも、きっと照がいることを分かっていたから。
バレたくなかったはずなのに、バレるようにしたのはなぜなのか。
俺と照を試すためか。
はたまた、完全に俺を自分のものにするためか。
その答えは分からないけれど、涼太が去った後、照は俺に向き合って強く抱き締めてくれた。
その背中に俺は手を回せなくて。
欠けた月が朧気に光を放って、薄暗い道を仄かに照らす。
雨の降ったあとの道は少し湿っていて、サンダルから出た爪先に泥が跳ねた。
先の見えない暗闇を、好きだった歌を小さく口ずさみながら歩いていく。
「…らら、ら……ら…」
歩く足音はひとつだけ。
呆然と歩いて辿り着いた先、重たい指先がゆっくりとインターフォンを鳴らす。
もう戻れない。
この仕切りを跨いだ先、俺は振り返ることも許されない。
自分の罪を背負って、俺は愛という名の執着に縋って生きていく。
人というものは恐ろしい。
執着というものは、美しい棘を持つ薔薇のようなものだろう。
その毒牙は、いつから俺に刺さって抜けなくなっていたのだろうか。
ドアが開く。
分かっていたかのような顔で、涼太が優しく微笑んだ。
「おかえり、翔太」
さようなら、照。
さようなら、大好きな人。
「……ただいま、涼太」
END.
過去一長いんじゃないかな…
読んでいただきありがとうございました。
こちらは❤️が出演する「火喰鳥を、喰う」を観て書きたいと思って書いたものです。
北斗のキャラが大好きで大好物で……
構成もなしに書きたいように書いてたら13000字を超えました( ᐛ )笑
💛にとっては好きな人を取り戻せなかったバッドエンド
💙にとっては愛してくれる人はいるけど好きな人の元に戻れなかったメリーバッドエンド
❤️にとっては好きな人を手に入れたハッピーエンド
という感じです。
また、全てを知って最初から読み直すと色んな視点で物事を捉えたり考えたり
❤️の台詞に狂気すら感じれるようにしてみました。
ぜひ読み直して色々受け取ってもらえると嬉しいです(◜𖥦◝ )
コメント
29件
りょた❤️狂っちょる😱 好きです。
愛する2人は、困難を乗り越えないの〜😭 (💛💙オタの叫び😱)
はわわ……。めっちゃ好きです……。 ❤の狂愛が刺さりまくる……っ!!😭 またまた映画の世界に引き込まれたようだ……!! リピートしてきます……!!🎬✨