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私
自身について語るには、まず私が何者かを説明しなければならないだろう。
私は、人間ではない。
では何かといえば……そうだね、一言でいうならば『精霊』ということになるだろうか。
もっとも、普通の人間が思い浮かべるようなものとは違うけれどね。
私のことを簡単に説明するなら、『風の精霊』ということになるのかもしれない。
だがそれはあくまでも人間の世界での話であって、別の見方もあるのだ。
例えばそう――君は、こう考えたことはないかい? もし自分が死んだ時、魂というものが存在するのであれば、天国だとか地獄だとかにいくのではなくて、また新しい生を受けるのではないか、とね。
だがしかし、それではあまりにも味気ない。だってそうだろ? 仮にも一度は命を終えた身であるならば、もう一度くらい別の人生を歩んでみたいと思うのが人情じゃないか。
そこで、だ。
君にはぜひ、死んでもらいたい。
もちろん強制ではないよ。これはあくまで提案だからね。
さあどうだい? 君にとっても悪くはない話だと思うけれど……。
どうだろう、乗ってくれるかね? ふむ、了承してくれたようで嬉しいよ。では早速手続きに入ろうではないか。ああ、心配はいらないとも。これから行うことは全てこちら側で勝手に行うからね。ただ、多少痛かったり苦しかったりするかもしれないけど、そこは我慢して欲しいところだ。
うん、わかった。じゃあ始めるとしようか。
準備は良いかな? よし、それではお別れの時間だ。
達者で暮らせ。
***
「んー! 今日もいい天気ねぇ!」
カーテンを開きながら、わたしは大きく伸びをした。窓の外に見えるのは雲一つ無い青空で、太陽さんは元気いっぱいの笑顔を浮かべている。なんて清々しい朝なんでしょう! 思わずスキップしてしまいそうな気分だったわ。
「おはようございます、マスター」
キッチンの方から現れたのは、一人の女の子。綺麗な金色の髪と青い瞳を持つ可愛らしい子だった。
「…………」
彼女は何かを話しながら近づいてくるのだが、やはり僕には聞こえない。しかし彼女の表情を見る限り、きっと怒ってはいないと思う。
「あぁごめんね。さっきからずっと君の名前を呼んでたんだけど返事がなかったものだから勝手に入っちゃったよ」
僕の目の前までやってきたその子はそう言って少し困った顔をして笑っていた。僕は慌てて立ち上がり挨拶をする。
「あっ!ごめんなさい……」
そう言って僕は慌てて飛び退いた。
「あー、別に大丈夫だよ。」
彼女はそう言うと、僕から少し距離を取った。
「あのさぁ、もうちょっと離れてくれても……。」
「そっちこそもう少し離れてくれない?」
お互い顔を見合わせて笑いあったり、冗談を言い合ったりする間柄だった。
だが、その関係はいつからか変わっていった。
彼女のことを異性として意識し始めた時からだろうか。それとも彼女が俺のことを好きと言ってくれた時?あるいは告白された時にはすでに……
俺は彼女に恋をしていたのだ。
―――もうすぐ、あの日と同じ4月16日の金曜日が訪れる。
4月16日(土)
昨年よりも症状が強い気がするが、去年より薬を飲む量を減らしたせいかもしれない。鼻水が止まらないのでティッシュを大量に消費しているのだが、それでも足りずに何度も箱から取り出して使っているので、ゴミ袋の中を見ると結構な量のティッシュが入っていたりする。さすがにこれだけ大量に使っていれば、そろそろ無くなりそうだ。
今日は午前中に買い物に行った。花粉対策用の目薬を買い足したり、新しいマスクを買ったりしたのだけれど、やはりマスクを買う時に店員さんに「マスクお持ちですか?」と言われてしまった。「持ってないんですけど……」と言うと、「そうですよねー」と言われた。
ちなみに今日の外出の目的はドラッグストアだけなので、いつものように本屋には寄らなかった。ついでに言えばスーパーにも行かなかったしコンビニにも行ってないので、本当にただの散歩だったわけである。しかしこうやって改めて書いてみると、まるで自分が引きこもりみたいではないか。
夕方に少しだけ外に出てみた。近所の公園まで歩いて行くつもりだったのだけれど、途中で雨が降り出したので引き返してきた。今は小康状態になっているものの、風が強くなってきていて、傘を差していても飛ばされてしまいそうなくらいの勢いがあったからだ。
それでは、また明日。
今日もまた一日が終わった。昨日と同じようでいて微妙に違う日々が終わりを迎えようとしている。
夜になると耳鳴りが始まった。これが始まるともう眠るどころではなく、ずっと続く耳鳴りの中で布団の中に潜り込むようにして朝まで過ごすのだ。眠ろうとしても眠れない。横になっても聞こえ続ける耳鳴りのせいで頭が痛くなって吐き気がしてくる。そしてそのまま寝付けずに朝を迎えてしまい、起きてからもしばらくは頭痛に悩まされたものだ。しかしそれも一年くらい経つ頃にはすっかり慣れてしまったようで、今では何も気にせずに眠りにつくことが出来るようになった。
そんな毎日を過ごしてきた僕だが、最近になってからようやく仕事を見つけることが出来た。