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夜。ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はミノリ(吸血鬼)の作業部屋で綿を糸にする作業をしていた。
「……なあ、ミノリ」
「なあにー?」
「……これさ……めちゃくちゃ時間かかるんだけど」
「そうね。でも、あんたが言い出したのよ? 一から服を作りたいって」
「それは……まあ、そうだけど……」
というか、糸ができてもそのあとそれを布にする作業もあるんだよな?
あー、気が遠くなるな……。
ぱぱっと終わらせたいなー。
俺がそんなことを考えているとメイン(綿の精霊たちの女王)がやってきた。
「お兄ちゃん、何してるのー?」
「見ての通り糸作りだ。はぁ……あと何回やればいいんだろうな……」
「え? そんなの命令すればいいじゃん。綿たちよ! 糸になりなさい!」
いやいやいやいや、そんなことできるわけ……。
メインが綿たちに命令した直後、綿たちは自力で糸になった。
「ほらね、簡単でしょ?」
「お、俺の今までの苦労はいったい何だったんだ?」
俺は疲労と脱力感に襲われた。
その場で横になった俺の頭をミノリ(吸血鬼)は優しく撫でてくれた。
「あんたの苦労は無駄じゃないわよ。無人島で生きていくためには必要なスキルの一つよ」
「物作りのスキルか……。うーん、まあ、たしかにそうだな」
「ねえねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんって魔法使えるの?」
「残念ながら魔法は使えないな。似たようなものは使えるけど」
「へえ、そうなんだ」
メインはそう言うと、自分の右手の人差し指の先端を噛んで出血させた。
「ちょ、急にどうしたんだ? 血が出てるぞ?」
「そうしないとお兄ちゃんに綿の加護を与えられないから仕方ないよ。ということで、口開けてー」
「おい、ちょっと待て。お前、そんなあっさり俺に加護を与えて大丈夫なのか?」
メインはキョトンとしながら、その指を俺の口の前まで移動させた。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが悪用しない限り、体が破裂することはないよ」
「は? ちょ、破裂って。お前、なんてものを俺に飲ませようとしてるんだ!」
俺が逃げようとすると、ミノリ(吸血鬼)がそれを阻止した。
「おい! ミノリ! どうして俺を止めるんだよ! お前、俺が破裂してもいいのか!」
「あんたはちょっとやそっとじゃ死なないんだから、ありがたく受け取っておきなさいよ」
「冗談じゃない! そんな危険なもの飲めるかー!」
メインが人差し指を俺の口の中に突っ込む。
俺はしばらく呼吸を我慢しようとした。
しかし、メインが人差し指を喉の奥まで突っ込んだせいでメインの血が俺の体内に入ってしまった。
「これでお兄ちゃんは綿を自由に操れるよー。試しにやってみて」
「い、嫌だ! 俺は自分の力でなんとかするんだー!」
俺が綿の加護を使うのを嫌がっていると、メインが俺の耳元でこう囁《ささや》いた。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんの中にあるものや今までの経験がないとお兄ちゃんはこうして私と話すこともできない。つまり、自分という存在だけではみーんな何もできないんだよ。分かる?」
「つ、つまり、俺が今お前からもらった力はもう俺を構成する一つの力になってるから、俺の言う自力に該当するってことか?」
「うん、そうだよー。ということで、試しに使ってみてよ」
俺は少し躊躇《ためら》ったが、メインが使った時のように綿に命令をしてみた。
「わ、綿たちよ。糸になれ」
その直後、綿たちは自力で糸になった。
せ、成功だ。俺は綿の加護を得たんだ。
「良かったね、お兄ちゃん。これでいつでも私と一つになれるね」
「ああ、そうだな……って、お前今なんて言った?」
「え? いや、私は一応、綿の精霊たちの女王だからお兄ちゃんが命令すれば私はお兄ちゃんの言う通りになるから、いつでも私と交尾できるってことだよ」
「あー、そういうことか。なるほど、完全に理解した」
「じゃあ、さっそく」
「だが、俺はお前とそういうことはしない。理由はお前が俺のことを食う気満々だからだ」
「えー、そんなー。やろうよ、お兄ちゃん。きっと気持ちいいよー」
メインがしつこくナオトに付き纏《まと》っていたためミノリが止めに入る。
「はい! そこまで! メイン、あんたはしばらくナオトに近づかないで。ナオトの作業が進まないから」
「えー」
「えー、じゃない! 返事は?」
「はーい、言う通りにしまーす」
メインはそう言うと、部屋から出ていった。
「まったく、あの子は他の子よりグイグイ来るわね。ナオト、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ。ありがとう、ミノリ」
「どういたしまして。それじゃあ、作業再開するわよ」
「ああ」
それからしばらくの間、二人はせっせと服作りをしていた。