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同日 05:10 東京区西新宿1丁目
天空のオーロラが空に溶け込む時間帯、朝日を浴びた死のカーテンは揺らめき、エメラルドグリーンとスカーレットの発光を繰り返しながら、ベビーブルーの悲しげな空と同化していく。
街中に人影はなく、我が物顔の土鳩と、物知り顔のカラスの群れが路上のゴミを漁っていた。
湿気を帯びた風が、絢香の髪を撫でている。
走りながら交差点まで辿り着くと、消防車の陰から昇る白煙が見えた。
鼻をつく異臭と煙。
絢香を追いかけて来た大野と亀山の足音が近付く。
背後のふたりを構うこともなく、絢香はフラフラと交差点を歩はじめた。
代々木の宿舎で寝付けないまま朝を迎えた彼女は、忘れもののふくろうの御守りを取りに特捜本部へと向かった。
そこで磯海の話を聞いたのだ。
「蕎麦屋が…って言いながら走って出てったけど」
呑気に話す大野の言葉をうけて窓辺に目をやると、飲み屋街の方向に立ち昇る白煙と、消防車の赤色灯が絢香の背筋を冷たくさせた。
胸さわぎがした。
ポケットの中のふくろうの御守りは、祖母の形見だった。
そんな大事な宝物を置き去りにした自分を呪った。
「お願いお願いお願い!おねがいします…」
絢香は、磯海とゆり野の身を案じ続けた。
「おねがいおねがい!」
消防隊員の姿は、水面の煌めきのように絢香の視界を彷徨う。
赤色灯と消防車の紅色の脇に止まるパトカーの無線は、モスキート音と変わらない波長で漂っては消えていく。
鼻をかすめる木片の焦げた匂い。
その中から人の痕跡を探し出そうともがいても、胸が締め付けられるだけだと絢香は思った。
そう自然に感じているー。
背後から聞こえる大野と亀山の声が虚しい。
アスファルトの凹凸。
足元の汚泥の黒と、白くて霞んだチリが舞う。
人の痕跡は見つからない。
震えているだけの自分の足に懺悔する。
消防車の隙間に、黒ずんだ骨組みが見えた。
パキパキと乾いた音と、ゆらゆらと上る白煙。
僅かに焼け残った屋根から流れ落ちる水の音。
ひとりの隊員が近付いてくる。
顔がうまく認識できない。
絢香は泣き叫んだ。
「イソッチ!!ゆりちゃん!!」
隊員は何かを話ししている。
しかし、絢香には聞こえてはいなかった。
骨組みの隙間から見える黒い塊。
まるで胎児の様な格好をして転がっている。
絢香の足が止まった。
両脇を抑えられて、動けないでいたのだ。
それでも胎児を抱きしめたかった。
「離せ離せ!!離せ!!離せ!」
絢香は、行く手を遮る消防隊員の胸ぐらを掴んだ。
「特捜だ!!前を通せ!!前に行かせろ!!」
「出来ません!」
「行かせろ!ダチかもなんだって!!ダチだって!!行かせろ!」
絢香は膝まづいた。
アスファルトに手をついて泣いた。
その時、消防隊員の足元に光るものが見えた。
痙攣する指先を無視しながら、絢香はそっと手を伸ばした。
あの時の声が聞こえる。
「これやるよ」
「何だこりゃ?」
「何処ぞの神社で買った。あたしにゃ必要ないからやるよ」
声にならない声で、絢香はひたすらに泣いた。
#ファンタジー
なつみかん
かきまぜたまご