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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第13話 〚黙る理由〛(澪視点)
その日の帰り道、
一人で歩きながら、ふと思った。
——湊、
ああいう時、前もそうだった。
言葉が、急に止まる。
目を逸らして、頷くだけになる。
「……あ」
足が、自然と止まった。
胸の奥が、
ドクン、と鳴る。
未来じゃない。
記憶だ。
小学生の頃の、
放課後の教室。
騒いでいる子たちの中で、
湊は隅の席に座っていた。
誰かが話しかけると、
黙る。
笑わない。
否定もしない。
でも——
私とえまの前では、違った。
「それ、絶対おかしいでしょ」
急に、
はっきり喋る。
冗談も言う。
ボケる。
周りが驚くくらい、
普通に。
その時、
えまが言っていた。
「湊ってさ、信用してない人の前だと
一気に静かになるよね」
「変に思われるの、嫌なんだって」
——変人扱いされたくない。
——ちゃんと知ってからじゃないと、
——自分を出せない。
(……そうだ)
湊は、
信頼していない人の前では、
“黙る”。
自分を守るために。
逆に言えば——
喋るのは、
「この人は友達だ」って
心の中で決めた時だけ。
昨日の放課後。
湊は、
私には喋っていた。
でも、
海翔の前では、黙った。
(信用してない、わけじゃない)
ただ——
まだ、判断していない。
この人は、
どこまで入れていい人か。
胸に手を当てる。
心臓は、
静かだ。
でも、
拒否していない。
(湊は、変わってない)
変わったのは、
私の周りの関係だけ。
過去を知る人。
今を守る人。
湊は、
その両方を、
慎重に見ているだけ。
「……大丈夫」
誰に言うでもなく、
小さく呟いた。
いつか、
湊が海翔の前でも
普通に喋る日が来る。
それはきっと、
悪い意味じゃない。
私は、
その日を急がせない。
だって——
黙る理由を、
私はちゃんと知っているから。