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「やば……」
ここ、どこだ?
どんぐり飴を食べた途端、意識がフッと霞んだ。
次の瞬間いたのは……。
「公園?」
大阪では有名な商業施設の入った公園、通称『てんしば』の入口に立っていた。
ゴールデンウィーク初日の公園は人で溢れかえっている。
下を向くと白のスニーカーにロングスカートのようなパンツを履いていた。
間違いない。鏡で見たわけではないが杏子に入れ替わったのだろう。
すぐ横には後ろに自転車用チャイルドシートが着いている自転車が置いてあった。
これは午前中見かけたあの自転車だ。
ということは子供は?
辺りを見回すが、あの子がいない。
ここは遊具があるような公園ではない。入り口にはカフェやテラスで食べられるようなレストランがあり、公園の奥には美術館や動物園がある大規模な公園だ。
子供を遊ばせるような所もないのに、一体何をしているんだ?
ピコン
「メッセージ……?」
斜めがけにしたスマホホルダーから杏子のスマホを取り出す。
ロック画面はあの女の子だ。
そしてロック画面に浮かんだメッセージ通知。
予想通り、タップすると画面に飛んだ。
顔認証で開いたということは、今の俺は杏子だということだ。
『あと10分くらいで出るよ』
メッセージの送り主は……大輝?
ひょっとして旦那の名前か? 子供は旦那と一緒にいるのか?
10分ならちょうど元に戻る頃か。過去二回の入れ替わりは10分前後だった。
間に合う? 俺はどうしたらいいんだ? 二人がここへ来たら、俺は……。
すると、持っていたスマホが振動し音が流れた。着信音だ。
画面には見覚えのある数字の羅列…………俺の携帯番号⁉
恐る恐る、電話に出てみた。
「は、はい……?」
「鷹也!?」
「……杏子?」
「もうっ! どうしてどんぐり飴食べたのよ!?」
「は?」
「甘いもの嫌いなくせに、どんぐり飴食べないでよ!」
「な、なんでそんなことを……」
「それより、今一人!?」
「あ、ああ。いや、今は一人だけど、あと10分で出るってメッセージが――」
「10分……。ここからじゃ間に合うかどうか……」
「来るのか!? こっちに!?」
「当たり前でしょ! ここ駅上だし、地下鉄で二駅。ギリギリ間に合うかも」
「でも、10分後なら元…………いや、待ってる」
「そこ動かないでよ!」
プツッと電話が途切れた。
そうだ。杏子がここに来たら俺は杏子に会えるのじゃないか?
そんな思いがとっさに浮かび「10分後なら元に戻っているのではないか?」という言葉は呑み込んだ。
ドキドキする。
杏子が(俺の体が)ここに来る。
久しぶりに杏子と会えるんだ!
でもそれとは別に、杏子の家族を見ることになるのだろう。
複雑な気持ちではあるが、それよりも会える期待の方が勝っていた。
どちらが先に到着するだろうか。
ソワソワしながら待つこと10分。
まだどちらも到着していない。
ふと今の電話を思い返してみる。
どんぐり飴……?
過去の入れ替わりの時、杏子はどんぐり飴を食べていた。
今回は俺がどんぐり飴を食べた時に入れ替わった。
ということはどんぐり飴が入れ替わりアイテムってことか?
入れ替わり時間が10分前後というのも、飴が口の中にある時間だと思えば説明がつく。
なんでまたどんぐり飴!?
そこではたと気づいた。
どんぐり飴が原因なら、どんぐり飴を口から出したり噛んで早く溶かせば、入れ替わり時間は短縮されるのではないのか?
実際、1回目は俺が噛んだから入れ替わり時間が短かったよな?
2回目は気が動転していて噛まなかった……。
それだ! 俺は早速杏子に知らせようとスマホを手にした。しかし――。
「ママー!」
「え」
やばい。子供の方が先に来てしまった。
この方向だと動物園から出てきたのか。
杏子の娘、ひながこちらに向かって駆けてきて、足元に抱きついた。
ひなだよな? ひなこか? ちゃんとした名前を聞いておけばよかった。
「ひ、ひな?」
「ママー! かみきった?」
「か、髪?」
「こらー! ひなー? 突然走り出したらダメだろう」
ひなが一人で走り出したのだろうか。男があとを追いかけて走ってきた。
「えっと……だ、だいき?」
こいつが杏子の旦那の大輝……。
切れ長の目がやけに色っぽい。男にしては綺麗な顔。やっぱりかなりのイケメンだ。
「美容室でゆっくりできたのか? そんなに切ってないよな?」
「ああ……いや、うん」
「どうした?」
「ママー、ひなね―、かばと、きりんさんと、れっさーぱんだとー、らいおんをみたの。おっとせいのショーもみたんだよー!」
「そ、そう」
「あとねー、だだにソフトクリームかってもらったー」
「甘いものはソフトクリームだけにしたからな。ママに怒られるもんな?」
「だだとちーちゃんもたべたよー」
『だだ』……ダディのことか? 随分と洒落た呼び方をしているんだな。
ちーちゃんは誰だ?