テラーノベル
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今でも時々、思い出す
首筋まで塗られた白粉の香り
唇、目尻の艶やかな紅
幼さを残しつつも
どこか妖艶で、どこまでも人を魅了する
あの伏し目がちな眼差しを――――
指の先までしなやかな舞に感嘆し
時も忘れて見惚れていたのは俺だけじゃなかった
何度見ても美しいひと
前に家族で見に来てくれた時
佐久間くんの女形を見て「抱ける」と評した父さんは、その後、母さんに睨まれていたっけ
その感想は大いに分かる
流石は親子
まぁ、俺はね
女形の姿じゃなくても“抱ける”んだけど
これは言えないね
伝統行事のように
ずっと続くと思っていた舞台
そこを目標に頑張っていたJr.もいただろうに
帝国を築き上げた張本人の過去が
全てを壊すきっかけとなった
入った当初からそんな噂はあったが
どんな極悪人にも良い面、悪い面はあるもので…
彼の死後明らかになった数々の愚行を
今まで知らん顔をしていたメディアたちが全てを悪として責立て、所属タレントを排除するような動きにまで発展した
あの出来事で俺たちは色んな物を失った
番組の打ち切りに突然の降板
混乱する中で、尊敬する先輩方も次々に抜けていく
もう一度、と望んでも
今の形のまま、前のように同じ演目であの舞台に立つことはないだろう
それを思うと寂しいが……
スマホ画面の中のさく姫は、今も変わらず美しく微笑んでいる
「蓮?」
不意に感じた視線に目を向けると
いつの間にか隣に来た佐久間くんが
テーブルについた手の上に顔を乗せてる状態で、じーっとこちらを見つめてる
佐久間くんはメンバーが揃うと
どこか1ヵ所に留まっている事がまずない
皆を構いたいし、構ってほしいのだろう
あっちこっちで笑いあっていたが
隅っこの椅子に座って
ずっとスマホの画面を見つめて
会話にろくに参加していなかった俺が気になったのかも
きゅるきゅるの可愛いお目目に見つめられて、内心「うっ」となる俺
上目遣い…可愛い…
画面の中より
幾分ふっくらした頬をツンツンしたい
「さっきからニヤニヤして何見てんの?」
「え?俺、ニヤニヤしてた?」
「うん。なんか真面目な顔してるなぁ~と思ったら急にニヤニヤし出して…すげぇ気になる」
おかしいなぁ
ポーカーフェイスのつもりだったのに
無理に覗き込もうとしないで、許可待ち状態の佐久間くん
なんか『待て』をしている犬みたい
手を出したら『お手』もしてくれるかな(笑)
焦らすつもりもなかったんだけど
これ…許可取ってないんだよね
佐久間くんのさく姫があまりにも綺麗で、つい――――撮ってしまった一枚
言わば盗撮
佐久間くんなら笑って許してくれそうだけど、引かれないかな?
どうしようか迷っていると
「あれ、これ佐久間じゃない?」
背後から阿部ちゃんの声
セルフのコーヒーを取りにいった帰りなのか手には紙コップ
コーヒーの良い香りが漂う
「阿部ちゃんダメじゃん。勝手に見ちゃ、プライバシー違反!!」
俺はちゃんと我慢したのに、と顔に書いてある
「アハ、ごめんごめん。通る時に見えちゃって。懐かしいからつい。めめもごめんね」
ポンッと俺の肩に手を置いて、小首を傾げつつ謝る阿部ちゃんに
「おい、あざといぞ!逮捕するぞ!!」と楽しげな佐久間くんだが、俺は冷や汗もん
だって阿部ちゃん…目が笑ってない…
「もう!!ズルいズルい」
『待て』をしていたのにすぐに許可がおりず、通りすがりの阿部ちゃんに先を越された事で、ぷんぷんする佐久間くん
可愛いな
こっちの方が逮捕案件だろ
「もういい!俺も見る!!」
さっきまでは大人しく『待て』が出来ていたのに、ぷんぷんしながらスマホと俺の間に顔を入れてくる
近い近い近い!
コーヒーとはまた別の良い匂いもするし…もう!!
ピンク色の後頭部すら可愛いと思えるのは既に末期だからかな?
そして、思った事を全て見透かされてるみたいで、阿部ちゃんの顔が見れません
肩に置かれた阿部ちゃんの手が、ぎゅっと力を入れて掴んでいるんですけど…
「佐久間は佐久間だけど、さく姫ってとこがまたね…」
「うわ、懐かしい」
「ね~いっぱい練習したよね?」
「したした」
“男と女の舞”で俺の相手は阿部ちゃん
佐久間くんの相手は翔太くんだった
金さん銀さんでも近い距離にいたから…正直、翔太くんには嫉妬してました
それは阿部ちゃんも同じだったようで
『ごめんね。相手が俺で――――
でも俺だって翔太のポジションが良かったんだよ』
この時、俺たちはお互いの佐久間くんに対する想いを知ったんだ
長い片想いをこじらせているのは同じ
同病相憐れむって言葉の意味を教わりました
「ねぇ、めめ
この画像俺にも頂戴よ」
同士なんだから、良いよね?
なんて、心の声が聞こえてくる
こうなったら渋るつもりはなかったんだけど、安全策なのか
「照も欲しいよね?さく姫の画―――」
「欲しい」
岩本くんを巻き込む作戦に出た模様
で
岩本くん…食い気味-w-w
実は最初っから聞いてました?ってツッコミを入れたくなる速さに思わず吹き出した
昔から佐久間くんとは仲良しの岩本くん
見た目は一見怖そうななのに…
可愛いもの好きな岩本くんが佐久間くんを好きなのは最早必然なんだよね
てか、マジで佐久間くんのルックス好きだもんなぁ
阿部ちゃんが大きな声で言うから
「何、何?」と
皆が俺のまわりに集まり出すし…
俺のスマホを覗き込んでは、一頻りさく姫の美貌を褒め称えたあと
「俺も欲しい」「いや、俺も」と要求される
当のさく姫こと佐久間くんは、
降って湧いた過去の自分の人気にもう照れ照れで、どこまでも愛らしい
「分かった!分かりました!!」
結局、俺のさく姫画像はメンバー全員のスマホの中へ
そして、思い出の1ページに触れて
当時の楽しかった事
辛かった事で盛り上がる面々
「また、皆でやりたいね
今度はさ、俺たちで企画して
伝統行事化してさ」
なんて
ラウールが言い出すものだから、また夢が膨らんでしまう
いつかまた
今度は新しい形で
色んな事を乗り越えてきた俺たちだから
その時は、きっと――――
当時よりももっと
もっと最高の舞台になるだろう
9人でいると、本当に夢が尽きない
どこまでも突き進んでいける
そんな気がする
一枚の画像から大いに盛り上がるのを見て、何だか嬉しくなっていると、ちょいちょいっと肩を叩かれた
顔を向けるとにぃっと笑った佐久間くんが、俺の耳元に顔を寄せてくる
「俺の画像残してくれててありがとね」
にひひっと嬉しそう
「今度は俺が見せてあげる…蓮の隠し撮り写真」
少しはにかむような照れくさそうなその顔は、俺が初めてこの恋を自覚した時と同じ顔で――――
ぶぁっと胸の中で花が咲いた
ひらり、ひらりと舞い散りながら
それでも枯れる事のない恋の花
あの舞台のあの桜のように
それは今も、鮮やかな色で輝いている
✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱
さく姫様に生でお会いしたかった。°(°´ω`°)°。
と、滝沢歌舞伎の円盤を見る度に思う
あの美しさは罪だと思うのです
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