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食べ終わった後の、静かな時間。
焦げたチーズの匂いが、まだ少し残っている。
「……はぁ」
満たされたのか、疲れたのか。
どちらともつかない息を吐く。
足元が少しふらつく。
「……来い」
短く言われる。
抵抗する気もなく、そのまま支えられる。
ベッドまで運ばれて、ゆっくりと横になる。
「……世話焼きだな」
ぼそっと言う。
返事はない。
ただ、離れようとしたその時――
「……待て」
無意識だった。
腕を掴んでいた。
「……」
ノスフェラトゥが止まる。
視線が、落ちる。
その手に。
「……」
離すつもりだった。
でも、離れない。
理由は分からない。
ただ――
「……」
顔が、近い。
どちらからともなく。
距離が、消える。
触れる。
唇が。
「……っ」
一瞬、思考が止まる。
以前、噛まれた場所。
そこが、じんと痺れる。
痛みの名残。
でも、それだけじゃない。
力が抜ける。
顎に、力が入らない。
逃げる気も、起きない。
「……」
ノスフェラトゥは、すぐには離れない。
むしろ――
確かめるように。
ゆっくりと。
深く。
触れてくる。
急がない。
奪うようでも、優しくもない。
ただ、“味わう”みたいに。
「……」
分からない。
これは――
食欲なのか。
それとも、別の何かか。
考える余裕もない。
ただ、近い。
「……」
やがて。
ノスフェラトゥの指が、頬に触れる。
軽く添えられて。
そのまま――
ゆっくりと、下へ。
首元へ。
柔らかい場所。
脈が、すぐ下にある。
「……」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
爪が、わずかに立つ。
――境界。
越えれば、戻れない。
「……」
止まる。
そして。
離れる。
唇も、指も。
すべて。
「……今日は、もう休め」
低く言う。
いつもの声に戻っている。
「……」
答えはない。
ただ、呼吸だけが残る。
「……」
ノスフェラトゥは背を向ける。
そのまま、部屋を出ていく。
扉が、静かに閉まる。
残された静寂。
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「……」
天井を見つめる。
心臓の音が、まだ速い。
唇に、感触が残っている。
首元にも。
「……なんだよ、これ」
小さく呟く。
答えは出ない。
ただ一つだけ、分かる。
さっきのは――
ただの“餌”の関係じゃない。