テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
48
少しの間、二人でぼんやりと夜の海を眺めていた。
月の光が水面を照らして宝石みたいに輝かせる。あともう少しだけこの風景を見ていたい。夜の海を見たの初めてだなぁ。
「なぁ、ましろ。これ……受け取ってくれる?」
歩くんの浴衣の裾から出てきたのは小さな箱だった。
それを渡されて、まじまじと四角の箱を見つめる。手のひらサイズなのに結構ずしりとしている。
「開けて」
箱にされたリボンを解いて、ドキドキしながら蓋を開けてみる。
なんだろう。私、誕生日とかじゃないのにもらっちゃっていいのかな?
「え……」
箱を開けると中身は薔薇の絵が細かく繊細に彫られているオルゴールだった。
「わぁ!」
蓋を開けると溢れるように流れ出す優しい音色。
「昔、お母さんから貰ったオルゴールの話してたろ? その支えが今はもうないなら、今度は俺が支えを作る」
「っ」
胸の奥が熱くなっていく。
さっき歩くんは好きな人以外には優しくないなんて言っていたけど、嘘だよ。実里くんや武蔵先輩、みんなのこと気にしていていつも優しいじゃない。
「このオルゴールが少しでもましろの心の支えになればいいって思ってる」
今だってこうして私にこんなに素敵なプレゼントをくれた。オルゴールが嬉しいってだけじゃない。
私の話覚えてくれていて、支えを作るなんて言ってくれるの凄く嬉しいんだよ。
「元気なくなったときこれ聴いて少しでも励みになったらなって」
「歩くん……ありがとう」
にっこりと愛らしく微笑む歩くんにつられて私も微笑む。やっぱり歩くんは一緒にいると心が温かくなる人だ。
「ましろ、お前が助けてって言えば、俺はいつでも駆けつける」
歩くんの温かい手が私の頬に触れる。少し緊張したようにぎこちなく伸びてきた手。照れくさそうにほんのりと紅く染まる頬。
「誓うよ」
けれど、眼差しは真っすぐで吸込まれそうになる。月に照らされて光彩を放つ瞳が小波のようにキラキラと揺れていて見惚れてしまう。
「俺、見た目こんなんだし頼りねぇかもしれないけど、ましろが悩んでる時は傍にいる」
そんなことないと首を横に振る。
歩くんはいつだって頼もしい。ありがとうって言っても言い足りないほど感謝してる。
「ありがとう」
「ん」
満足そうに微笑んだ歩くんがハッと我に返ったように目を見開く。
「あ、えっと……悪いっ!」
顔を真っ赤に染めて慌てて手を引っ込めた歩くんは、照れくさそうに私から視線を逸らした。
その様子に私まで恥ずかしさが増していって、頬が熱くなっていく。
「そろそろ……帰るか」
「……うん」
なんだか目を合わせられなくなってしまい、俯きがちに頷いた。
波音の合間にぽろぽろとメロディを紡ぐオルゴールの音色が、甘く優しく夜空に溶けていった。