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「リンデルという名だった」
「彼はとても優秀だった。彼の方が団長になったほうがいいんじゃないかと何度も考えていた」
「だが俺は彼や他の部下を頼りにしすぎた。そのせいで彼奴等を戦場で死なせてしまった」
「言われたんだ。俺は仲間に恵まれているからもっと周りを頼れって」
「自分でも分かっている。皆、俺の誇れる部下だ。でもまた彼奴等みたいになってしまうなら俺一人で抱え込んでいたほうがマシだと思ってしまうんだ 」
横で星空を眺めながら話を聞いていた迅は思った。この人は誰よりも仲間思いで、誰よりも怖がりだと。
「…本当は、君を助けたのは君がリンデルに似ていたからだ」
「また目の前で失いたくなかったから」
「…馬鹿馬鹿しいだろ?」
そう言ってシヴェルは笑った、前髪で隠れていてよく見えなかったがその時のシヴェルの顔は迅には、嘲笑うかのような笑顔に見えた。
「…だから戦場で自分を後方に回したんですか?」
「…ああ」
迅は座っていた岩から立ち上がりシヴェルの前に立った。
「シヴェルさん、自分は貴方が思ってるよりも強いと思います。だから約束します」
「自分は絶対にシヴェルさんを悲しませるなんてことはしません。でも、貴方の背中を守らせてください。一緒に戦わせてください」
「シヴェルさんは前に進んでください、でも覚えていてください。その後ろには俺が居ます」
「自分は貴方と一緒に何かを背負える人になりたいです」
迅のその決意で染まった瞳は真っ直ぐシヴェルを見つめていた。シヴェルは分かっていた、一人で抱え込むのは無理だと。今までも一人で抱え込んでいたわけじゃない。でも今回は一人で何とかしなければいけないと、そう思っていた。迅の言葉は今のシヴェルからしたら光だった。一人じゃないとそんな気分になれた。
「…分かった。俺も約束しよう。君の背中を守り、君達を勝利へ導こう」
その言葉を聞いた迅は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!あっでも、貴方の後ろに居るのは自分だけじゃないですよ。騎士団の皆さんも居るんですから」
「ちゃんと頼ってあげてください」
「ああ分かった」
シヴェルの顔はもう自分を嘲笑うような笑顔ではなく、柔らかな笑顔になっていた。
「こんな話を聞いてくれてありがとう、良かったらまた、聞いてくれるか」
「…はいっ!シヴェルさんの頼みなら!」
「俺はそろそろ寝る。また明日、迅」
シヴェルはそう言い部屋に戻っていった。
シヴェルが次の日起きた頃には反乱軍の兵士達はほぼ皆目立った傷が無かった。一日中ファルシオやノアが治療に回っていたのだろう。
シヴェルは本拠地を歩いて回っていると、ノアに会った。
「あっ、あのシヴェルさん昨日はすみませんでした…」
ノアは深く頭を下げて謝った。
「…頭を上げてくれ、俺の方こそすまなかった」
「今度からは君達をもっと頼りにする。その時は宜しく頼む」
そう言ってシヴェルはノアの頭を優しく撫でた。 ノアが頭を上げた時のシヴェルの顔は微笑みを浮かべていた。
「では、また」
シヴェルはその場を去った。ノアは撫でられた頭に手を置きながらシヴェルの背中を見ていた。
「何かいいことあったのかなぁ…」
ノアはそうぽつりと呟いた。その場でぼーっと立っていると影尉が走ってきた。
「おい!そこの坊や!シヴェルさん見なかったか?」
随分と焦っているようだ。息切れが酷く、遠くから走ってきたのだろう。
「シヴェルさんならさっきあっちの方 に…」
ノアはシヴェルが行った方を指差した。
「あぁ、ありがとう」
影尉は急いで走っていった。
「おっいたいた!シヴェルさん!」
「影尉殿、どうかしましたか」
影尉は息を整えて喋りだした。
「遥々都から軍引き連れて来やがったよ。都の最高権限者、六華城 尊様があんたと話し合いたいだってさ…」
「…分かりました今すぐ向かいます」