テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
蓮美は束の間黙った後話した。
「お茶にしませんか?」
豊は自分の知っている料亭に招待したかった。
しかし、蓮美はいざ逢える、と考えた時に、少しずつ知り合って行きたいと感じたのかもしれない。
「ええ、良いですよ、蓮美さん。ではカフェでお茶しましょうか」
「はい」
蓮美は都心から少し離れた街に住んでいると言う。自分はZ市だと豊が打ち明けると、驚く事に、蓮美は同じ市内に住んでいると判明。
「じゃあ、喫茶オリエンタル・オルゴールはいかがですか。あそこは落ち着いたムードで良い」
「あ、あたし、知っています。オリエンタル・オルゴール。あそこのブレンドコーヒーが大好きなの」
「そうなんですね!」
初デートは早速、明後日土曜日の10時にお店で待ち合わせ、と決まった。
豊の休日は(土)(日)(祝)だ。
「嬉しいわ、豊さん。少し恥ずかしいけれど……」
豊は蓮美から漂うセクシーでいて儚げなムードにやられている。
――――蓮美の声を初めて聴き、うっとりとした夜、そしてその翌日は、素敵な蓮美の妄想から逃れられず熱に浮かされたようにしていたから、豊は(あ、もう明日がデートなのか)と前夜、時間の感覚が狂っているのかと不思議を感じたほどだ。
帰宅時、オフィスから駅へ向かう際に通った大きな公園で、日暮れ後も蝉しぐれが聞こえており、豊のおでこの汗を更に滲ませた。
――――やって来たデート当日。
豊は少しゆるっとした黒のカットソーにライトグレーのアンクルパンツを合わせ、こなれ感を演出した。
(蓮美さんにカッコイイ男だと思われたい!)
『喫茶オリエンタル・オルゴール』は豊の自宅から車でほんの数分だ。
はりきり過ぎた豊は、9時35分には喫茶のテーブルに腰掛けていた。
蓮美を待つ時間すら楽しい。
ソワソワと落ち着かず、扉の辺りをずっと見ていた。
9時55分。見目麗しいレディーが店内に入って来て、すぐにキョロキョロし始めた。
(蓮美さんだ!)
豊はスマホで何度も何度も蓮美の写真を見つめていたものだから、すっかり顔を憶えていた。しかし、写真をはるかに上回るいい女だ。
束の間、扉の所にて人を探す風で動かぬその女性。
豊は奥の4人掛けテーブルから立ち上がり手を上げた。
「あ!」と蓮美は微笑し、足早にテーブルへ急いだ。
「蓮美さんですね」
立ち上がったままの豊がにこやかに声を掛けた。
「はい、蓮美です。豊さん?」
「ええ、そうですよ。オレ、城木豊です」
力が抜けたように蓮美は「良かった、間に合って。バスで来たのですけど、途中ノロノロ運転だったの」
愛らしい妖精のような蓮美が話す内容よりも、目の前の美に圧倒されている豊。
「す、座りましょう。蓮美さん、外は暑かったでしょう」
「あ、はい。バスはエアコンが効いていたけど、バス停から走って来ました、ウフ」
ウエスト近くまである緑の黒髪。クリームイエローの爽やかなロングのワンピース。スカート部はシアー素材で豊をドギマギとさせる脚線美が目映い。足元は紺色のヒールが低めのパンプス。なるほど、走れる訳だ。
微笑むとなくなるみたいに細くなる目、普段は黒目がちで澄んでいる。
蓮美はまるで上品な猫のようだ。
店内は、休日のレジャー客が多いのだろうか賑わっている。
「蓮美さん、飲み物を注文しましょう。おなかがすいたらなんでもごちそうしますからね」
豊は内心必死だが、表面スマートにリードする。
一瞬にして表情の曇る蓮美。
「お飲み物だけで良いわ……」
自分のリードの仕方が強引だったのだろうかと気にし、豊は少し口ごもる。そして言った。
「あの、オレ、蓮美さんを喜ばせたいんです。だから、甘えて下さいね」
「はい、ありがとう」
ニッコリと涼風のように笑む蓮美。
窓の外は動かぬ油絵のように分厚い熱気を帯びている。
喫茶店の窓硝子から、道行く人々のしかめっ面、サラリーマンのカッターシャツの背中の大きなシミ、ぎらつく陽射しから感じ得る事が出来る。
――――しばらくすると注文の品が二人のテーブルにやって来た。
豊はアイスコーヒーを、蓮美はアイスミルクティーを頼んだのだった。
*
「蓮美さんがまさか、オレと同じZ市民だなんて驚きです」
「ンフ、そうね」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#食