アカネは疲労困憊(ひろうこんぱい)であった。
鍛え抜かれた四肢を持ち上げる事すら出来ない様子であった。
彼女は言った。
「森を抜けた先に有ったのは魔界、そう言うしか形容できない池、でした……」
と。
急激に真面目な表情になったナッキと幹部達が聞かされた話は怖ろしげな物である。
曰く、
「森の先に有った池? 沼ですかね? そこには我々のようなカエルや魚の類ではなく、もっとこうオドロオドロしい生き物が生息していたのです! 化け物、いいえ悪魔をこの目で見ました! 嘘ではないですっ!」
だそうだ……
ナッキはアカネを落ち着かせる事も忘れて聞く。
「アカネ、そいつ等って二足歩行の巨体だったんだね、そうか…… 森の先にヤツラ、『ニンゲン』が生息していたのか…… 戦うのは無謀だろう…… 折角作り上げた池を手放すのは惜しいけど、命には代えられないな、良しっ! 皆、大急ぎで避難の準備を――――」
「いえいえ、ナッキ様、二足歩行じゃ有りませんよ、カエルと同じ四本足と、もう一種類は八本足に二つの切れ味鋭そうな武器を装備していましたっ!」
「えっ! 四本足はまだしも…… 八本足、それに二つ武器を持って、って――――」
「因(ちな)みに双方とも全身石の様に硬そうな体でしたーっ、ナッキ様の鱗に似ていなくも無かったですっ!」
ナッキとアカネのやり取りを聞いていたメンバーの内、ヒットとオーリがナッキに近付いて言う。
「中々に化け物じみてるじゃないか…… あ、いや、ナッキがって意味じゃないぞ」
「ねえ、怖いわ! ねえナッキ、『ニンゲン』じゃあ無さそうだけど念の為避難した方が良いんじゃないかしら? そうしましょうよ」
ナッキは『ニンゲン』ではなかった事に安堵したのか、冷静さを取り戻して言う。
「う~ん、そうだなぁ…… ねえアカネ、大きさや数は? どれ位だったのかな」
「か、数や大きさ、ですか…… そうですね、ふむ……」
多少パニック気味だったアカネは、間違えてはいけないと考えた事によって、いつものクレバーさを取り戻したようであった。
|僅《わず》かな思索の後、落ち着いた声で答える。
「四本足は一匹だけ、但し大きかったですね、ヒット様とナッキ様の間位でしょうか、全身が黒々とした丸い石の様でした、八本足に武器を着けた方も大きかったですね、体長はブルと同じ位で太さは半分ほど、茶褐色のこいつ等は十数匹でしたが、見た目が似ていて真っ赤なもの、大きさは小さくてメダカの子供位でしたがこいつらは沼を埋め尽くしていて、一体どれ程居たのか見当も付きませんでした」
ナッキは意外そうな表情を浮かべながらアカネに言う。
「ん? 大きい黒い石みたいなのが一匹で、ブル位のが十数匹でしょ? んまあ小さくは無いけど、言うほどの脅威にはならないんじゃないかなぁ? 赤いのもちっちゃいんだよね?」
この言葉を受けて、アカガエルのアカネは、頬の色をいつも以上に茜色に染めて恥ずかしそうに返す。
「た、確かにそうですね、いやぁ、彼奴等の奇怪な姿形につい狼狽えてしまいました、面目ありません」
「でしょ♪」
ナッキの明るい声を聞いた一同も、緊張を解きいつも通りのムードに戻った、一匹を除いてだ。
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