夕焼けに染まった教室を見渡す。誰も居ない教室。そこは、普段のうるささからは考えられない程の静けさに包まれていた。
「…これで、今日で、終われるのかな、」
1人呟いた言葉は静かに溶けて、余韻を残した。それがやけに寂しく感じられて、悲しく思えてしまって。すぐにここから離れてしまおうと、足を進めた。
扉を開けば、そこは最期の舞台───屋上。
1歩1歩足を進め、柵に手をかける。そこから見える景色は、全て夕焼けに支配されていた。
柵に登ろうとしたところで、背後のドアが開いた音がした。
「あれ、先客が居たのかぁ」
そこに居たのは、
「…なんで、天音(あまね)が…」
私の親友───天音だった。
「なんでって、そりゃぁ、…飛び降りようかな〜って」
「…同じなんだね、私たちは、結局……」
「まさか伊都(いと)が居るなんてな〜、どうりで探しても居ない訳だわ」
2人、手を繋ぐ。柵に登って、下を見下ろして。
「案外怖いね」
なんて言ってみたり。
「なんか青春っぽいわ〜」
とか、
「馬鹿じゃない?何処に屋上から笑って手繋いで飛び降りる青春があるってのよ」
「ここにあるでしょ」
なんて、いつものように、馬鹿みたいに、くだらないことを話す。
「…考えてる事は似てるのに、伊都と私って全部正反対だよね」
「確かにね。お互い無いものねだりして、お互いがお互いを羨んで…」
勉強ができた私。世渡り上手で友達の多い天音。
どんなに頑張っても人間関係で悩んだ私。どんなに努力しても勉強が苦手で、どこにも進学出来ないと言われた天音。
「まぁ、お互い精一杯頑張ったのは同じだけど」
「…でも私たち、もう1つ同じところあるじゃん」
「なんかあったっけ?」
「人間関係で悩んでも、勉強出来なくても、上手く生きてくことは出来ないでしょ?どっちにしろ、2人とも生きるのが下手だったじゃない」
「…そっか」
「まぁ、私たちが巡り会えたのが不幸中の幸いってことで」
段々と日が落ち始めた。辺りが暗くなり始め、1番星も輝いている。
「来世のお願いでもしとく?」
「天音は勉強出来ますようにって願うの?」
「いやいや、もっとお願いしたいことあるからさ」
少し驚いた。勉強でものすごく悩んでた天音なら、勉強ができるように願うと思っていたから。
「そういう伊都は?コミュ力お化けになれますようにって?」
「なにもお化けまでいかなくていいよ。というより、それはお願いしないかな。」
「えー!意外!」
私はもう、決まってる。ずっと、ずっと、決めている。そんなの、一択しかなかった。
「せーので言う?」
「おっけー」
「せーのっ」
『来世も天音/伊都と親友になれますように』
「やっぱ天音とは考えてる事同じだね」
「もうこれには神様もびっくりだよ」
「それは言い過ぎ」
なんだかんだ言っていれば、もう夜空は星でいっぱいだった。地上も同じように点々と光が広がり、綺麗な夜景を作っていた。
「そろそろ、行こうか」
「夕焼けも夜空も夜景も見れて大満足だわ」
「隣に親友がいるところも含めて、最高の終わりになったわ」
「じゃあ、最期は笑って」
『さようなら』
夜に溶けた2人の少女。正反対なのに、一心同体でそっくりな2人。お互いがお互いを羨み、支え合い、儚く散った。それでも、来世は報われることを願うのではなく、来世も一緒に居ることを願った2人。誰よりも互いを思いあった2人の願いは──────。
「ねぇ、こんなとこに1人で居るの、寂しくないの?」
1人の幼い少女が話しかける。
「…誰?」
話しかけられた少女は冷たく返す。それでもなお、少女は声をかけた。
「私、蒼空(そら)!あなたは?」
「私は、紡(つむぎ)…」
青空の下、2人の少女の物語は紡がれ、再び動き出した──────。
コメント
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余談ですが、 伊都→糸 紡→紡ぐ 糸+紡ぐ=糸を紡ぐ 天音→「天」が着く 蒼空→空 天≒空 頑張って名前に関係性を持たせました✌️ と、言ってもほぼ即興なので適当でs(((
一次創作ガチ上手いやん 涙出すぎて海できちゃうよ(?)
なんか雰囲気で押し切ったところもあるけど許して(((