莉愛
「ここの食事は美味だね。あとでシェフに褒美をあげるよう、言付けておこ」
さっさと隣に腰を下ろし、食事を進める莉愛。そんなマイペースな様子に、菜乃葉は思わずため息をついた。
美音
「ぁ、あのですね、莉愛さん。さっきから食堂中の注目集めちゃってて…」
莉愛
「他者の視線など瑣末(さまつ)なこと。だけど……ま、君の時間をいたずらに浪費するのも本意ではないし。そろそろ本題に移るよ」
優雅な仕草で口元を拭ってから、莉愛は威厳すら感じさせる口調で続けた。
莉愛
「念のために確認しておくね。君達が『菜乃葉』と『美音』と『夏菜』と『瑞夏』で、間違いないよね?」
菜乃葉
「違います。人違いです」
美音
「はいっ!そ、そうですよ!!」
夏菜
「知らないですそんな人」
瑞夏
「……」
菜乃葉は真顔で即答し、美音は正直に返答し、夏菜は死んだ魚のような目で即答。瑞夏は菜乃葉の背に避難した。莉愛は無言の圧力で菜乃葉達を見つめている。
莉愛
「……君達でしょ、嘘つくの辞めなよ」
菜乃葉
「…そうですが」
莉愛
「どうして嘘ついたの?今嘘ついて、なんか意味あった?」
夏菜
「いや、なんか面倒くさそうだし」
莉愛
「面倒くさッ……ふーん…」
菜乃葉は再び大きなため息をついた。食堂中の注目を集めてしまっている、と言ったのは誇張でもなんでもなく、ただの事実だ。特に特選クラスの席の方からは、苦々しい視線が突き刺さっている。可能な限り早く話を切り上げてしまいたいところだった。
菜乃葉
「それで?その『菜乃葉・美音・夏菜・瑞夏』に何の用ですか?」
莉愛
「ずいぶんと太々しいね、ま、いい。入学試験の様子、私も見た。特に夏菜さん、貴方には素晴らしい魔法の才能がある」
やっぱりか、と夏菜は心の中で舌打ちした。夏菜が王女に目をつけられる心当たりは、入学試験での一件くらいしかなかった。
夏菜
「……あれは事故ですけど。ただのガス爆発です」
莉愛
「私達の目を誤魔化せると思う?ガス爆発なんてなくても、あれは素晴らしい魔法だよ」
美音
「うんうん、本当にすごかったですよね!」
莉愛は軽く頷き返し、言葉を続ける。
莉愛
「その才能を見込んで、君に素晴らしい提案があるの。もちろん、素敵な魔法を所持している菜乃葉さんや瑞夏さん、美音さんにも。私と一緒に選挙管理委員会に入らない?」
夏菜
「えっ、嫌」
菜乃葉
「…断然拒否」
莉愛
「そうそう、そうだよね。こんな名誉あるお誘い、感極まって声も出ない……えっ、今なんて?」
美音
「ぇ〜と…嫌です。謹んでお断り申し上げます!!」
莉愛
「……まじ…?」
全く予想だにしていなかった答えに、莉愛は激しく混乱した。
莉愛
「どうして?名門ハリコルオン魔法学校の選挙管理委員会ともなれば、在籍出来るだけでも、ものすごく名誉あることだよ?それだけじゃない。魔法界上層部の覚えも良いから、卒業後の進路も思いのまま。入るだけで地位も名誉も財産も、バラ色の未来が約束されるようなもの。それを断るなんて、とても考えれない」
莉愛は机を叩き、力強く菜乃葉達に問いかける。
莉愛
「……もう一度聞く。選挙管理委員会、入りたいよね?」
菜乃葉
「いや、全然。少しも入りたくないです」
なおも即答で否定する菜乃葉や、全力で首を上下させ菜乃葉に同意する瑞夏に、莉愛は唖然とした。
莉愛
「…なんで?」
夏菜
「地位とか名誉とか財産とか、そういうの興味ないので」
別に、菜乃葉達が特別無欲、というわけではない。菜乃葉の場合、目立ちたくないのに目立ってしまい、ストレスが溜まりまくるからだ。選挙管理委員会に入るとなれば、学校上層部や学外からも注目され、身元を洗われる可能性が出てくる。そのため、はじめから莉愛の勧誘にのる選択肢はなかった。
莉愛
「地位も名誉も財産もいらないって……じゃあ一体、君達は何を望む?」
菜乃葉
「なにって……とりあえず、普通の学生生活?」
美音
「え〜…まぁそれが1番だけど…」
夏菜
「普通、がいいよなぁ…」
莉愛
「普通、の……それだけ……?」
莉愛はそう言ったきり、くつくつと笑いこんだ。少しだけ笑いが込み上げた彼女は、全く理解できない菜乃葉の答えを聞いて、とうとう王女なのに笑い声をあげた。
美音
「おーい!莉愛さーん、笑い過ぎじゃないですか〜?」
夏菜
「ダメだよ美音、こういう場合はほっとくんだよ」
菜乃葉
「いつか笑いが収まるでしょ」
菜乃葉は苦笑しながら、美音と夏菜と瑞夏を促す。
菜乃葉
「…部活見学に行かないと。早くしないと、そろそろ始まっちゃう」
瑞夏
「…あっ」
笑い過ぎている莉愛をその場に残し、4人は慌ただしく食堂を後にした。
莉愛
「……Nakamu、選挙管理委員会に入れることは無理だったよ。これでまた、作戦練り返しだね。んふッ」
「何笑ってんの?!?!」
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ネタなし案件多発中