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「ぇ……?」
アリヤが目を開けると、そこには特異な状況が広がっていた。
アリヤを守るようにアラカが〝襲撃者〟と相対していたのだ。
「君は誰かな」
鉄筋を片手に、アリヤを守護する騎士の様にアラカが相対する相手————まだ中学生ほどの少女は虚な瞳で声を発する。
「止められ、た。
弱者、かわいそう……私、1%の、力しか、出してない」
アラカはそこらで拾った鉄筋で日本刀を防いでいた。
義手と義足の状態で起こした神速の行動。
重心を崩して瞬歩を行い、
刹那の間に鉄筋を拾い、
下段から逆袈裟切りの要領で防ぐ。それだけで並大抵の技術ではなし得ない行動であった。
「こんばん、は。
怪異に、ございま、す」
日本刀をギリ…と、前へ押し倒す。
アラカの義足が軋みをあげる。それを涼しい顔で、平然と見る怪異はただただ異質であった。
「……ハッ」
「っ……」
シュパッ……と、鉄筋が日本刀に切断される。
あり得ない光景であった。
鉄筋と刀は触れ合っていたのだ。
触れ合っていた状態で鉄筋を切断できるほどの威力は出せない筈なのだ。
「(触れた状態でのからでの鉄筋切断…
異界の力の可能性が高い……)」
現実的に考えて不可能な現象…それは目の前の人間が異界の力を宿している可能性を限りなく高めた。
次の瞬間、姿が幽霊のように消失すると二、三メートル離れた場所に再び顕現する。
「軽度の、自己紹介、いた、しましょう」
黒いゴシックドレスを見に纏い、
赤い髪は長いツインテールで纏めて、
羊のような…悪魔めいた角を二つ覗かせた少女。
スカートの先を淑女然とした振る舞いで摘み、令嬢にようにお淑やかに礼をした。
「他の、怪異から、は〝死想〟と、呼ばれております。
是非、向こう岸で、ひろめてくださ、れば…光栄、にござ、います」
これにて自己紹介は終わり。とでも言うかの様に日本刀を再び手に持った。
「死にたいなあ、どうか、私を殺してくださ、いね。
————弱者の、おまえら」
丁寧なのか、見下しているのか分からない在り方の怪異は日本刀を天へ掲げてキョトン顔で問いかける。
「あなたに、これができます、か。弱者、のおまえ」
光剣。青白い魔力がビームサーベルのように顕現される。
しかし以上なのはその規模だ。光剣は天井さえ突き破る巨大さを誇り————轟音と共に振り下ろされる。
ドゴォォォン……舞い散る鉄粉と砂煙の中、死想の声ばかりが響く。
「弱者のおま、えら、生きて、ますか?
殺して、誇り、ある、死がほしーの、です」
首を壊れた人形の様に傾げている怪異。
————瞬間、怪異の瞳を鋭利な鉄筋が襲う。
「っ!」
一瞬で鉄筋を弾くと背後へ二歩三歩と後退し、攻撃してきた主を不快そうに眺める。
「弱者な、のに……面倒、やっぱ、り……英雄、なだけ、ある」
「防がれる前提の刺突に、そこまでの評価をされるのは少し困るね」
短くなった鉄筋を片手にそう呟く。
そう、怪異は人間とは比較にならない密度の身体能力を占めているのだ。
ゆえにこそ、弱々しくなったアラカの攻撃程度見切れないはずがない。
「威嚇…? 威嚇? 威嚇?
弱者が、威嚇……憐れ、可哀想……弱いの、可哀想」
「そう……弱いのが可哀想なんだ…」
覇気のない声でアラカは鉄筋を握る。
「アリヤ、逃げてくれると嬉しいな。
僕は出来て足止めか……ぐらいしか出来ないから」
警戒を弱めず、声だけで呼びかける。
「黒いの、出さない? の?」
「正直に言うと、黒いのは条件があるんだ。
だから君には使えない」
「そう……」
正直に明かすアラカに、若干の不信感を覚えるも。それさえどうでもいいと
「〝手紙ヲ貴方ニ送リマショウ〟」
そう呟くと周囲に多くの紙が散る。
それが集まり、散らばり、集合したかと思えば花吹雪の様に弾ける。
「じゃあ、弱者の、お前……可哀想、だから。もう、殺す、ね」
瞬間。全ての手紙に魔法陣が浮かび上がる。
花吹雪を構成する紙、その全てから浮かび上がる紋章はすなわち、この全てが攻撃手段だと表現していることに他ならず。
「(……まあ、ここまで、かな。
人生、いつ死んでもおかしくはないものな)」
諦めた様にアラカは瞳を閉じた。
「……じゃあ、ね。ざこ」
そして紙から弾け出す光剣、鎌鼬、殺人剣、雷光、あらゆる攻撃が放たれ————その全てが消滅した。
「!?」
困惑する怪異。それはこの現象が怪異には想定外のことであると意味する。
瞬間、アラカの胸が真紅の紋章を浮かび上がらせた。
「っ!?」
はじめのアラカが感じたのは熱さだ。自分の皮膚を焼き焦がさんと、まるで溶解液を肌に垂らしたかのような激痛が走る。
「これ、は…」
痛みに困惑し服の胸部を破いて曝け出す。
今すぐにでも、この胸の痛みを外気に晒したいと言う衝動に襲われるのだ。
「…魔法、陣。種類、は……転移…!?」
アラカの胸に真紅の輝きを放つ魔法陣が描かれていた。
そしてその魔法陣が瞬間的に強力なフラッシュを放ち。
「…………」
気が付けば相変わらず、何処か疲れ切った瞳を浮かべてそこにコードレスが来ていた。
「コードレス……」