「オレなんて毎日投稿だぞ?今日だってゲームしてパソコンで動画編集して
投稿の準備整えてたら朝日が昇ってきて寝ようかとも考えたけど
今日の夜、飲みあるし、今日の夜できるかわからんから
その分の動画撮ってってからの1限目よ?そんな努力してる人間のチャンネルより
声が良い人間のチャンネルのほうが登録者多いなんて納得できない!!」
そう鹿島が話している途中でまたアナウンスが流れる。軽く地団駄を踏む鹿島に
「じゃあ、Vやればいいじゃん」
と軽く言ったところでピピッっと電子音が聞こえた気がした。
恐らく鹿島にとっての地雷だった。
「V?オレが?怜ちゃんマジの話?」
今までの鹿島の喋りのトーンではなかった。
「いや、マジで言ったわけじゃなくて
再生数がって話してたから再生数稼ぐならVやれば伸びるんじゃないって思っただけで
別に本気じゃないからな」
と言い訳を述べるように少し早口で伝える。
ここで話に出ている「V」とは「V Piper」のことだ。
「V Piper」とはMyPipeで可愛いキャラクターの3Dモデルで
主にゲーム実況を行う人たちの通称である。
元々は可愛いキャラクターの3Dモデルが歌っていたのが先駆けで
そこから短期間だけアニメやマンガ、2次元ブームが巻き起こり
その間に数多くのV Piperが出てきて
どのチャンネルも瞬く間に人気チャンネルになっているのである。
「なんでVやらないか聞いても良い?」
そう恐る恐る鹿島に聞くと
「怜ちゃん。オレささっきも言ったと思うけど努力してるのよ。MyPipeについては。
もちろんもっと努力してる人はいると思うよ?
でも自分の中では結構努力してるつもり。それで見てほしいのはプレイスキルなのよ?
自分で言うのもなんだけど普通の人よりはゲームうまいと思ってるのよ」
「うん。うまいと思う」
「んでさ?もしVなんてやってみ?想像しただけでわかるわ。
プレイスキルなんて見られない。ただただ「Vがカッコいい、可愛い」だけ。
それだけ。ただそれだけ今伸びてるVもそうだろ。ゲーム下手だろうが
トーク下手だろうが、声汚かろうが、現実の顔がブスだろうが
動いて喋ってるキャラがカッコよければ、可愛ければ再生される。マジでくだらねぇ」
「鹿島鹿島わかったわかった。ストップストップ」
と鬼のような毒舌を怒濤に吐くマシンの電源ボタンを探して止めようとする。
「Vのファンに聞かれたら殺されるぞ?」
「あ?そんなやつ返り討ちにしたるわ」
「バカマジやめろ。Vのファンて2次元のファンと同じよ?
オレの友達にアニメ、マンガヲタクがいるけど
アニメ、マンガのことになるとすごいのよ。
良い作品は褒める。好きじゃない作品は好きじゃないっていうけど好きなんだって。
意味不明だけど。それくらい、意味わからんくらい愛が深いのよ。
だからマジで敵の回さないほうがいい」
「別にオレ特定のVの名前出してないし」
「いやさっきの内容からしてV全体だろ」
鹿島の返事がわかった僕は鹿島の口を塞ぐ。
「答えないでいい。でも中にはちゃんとプレイスキルある人もいるでしょ。知らないけど」
そう、僕もV Piperについてはからっきしなのだ。
別に好きでもないし嫌いでもない。ただ見ていないというだけだ。
「いや、プレイスキルあるならそんなチヤホヤされるだけの仮面なんか被らずに
プレイスキルだけで勝負しろや。結局プレイスキルに自信ないから保険でVやってんだろ。
ほんとにスゲェ人はVなんてやってねぇ。
オレはその人の動画を参考に練習したりしてるし」
言葉に毒や怒りを込めてはいるがまるで無感情のようになんの抑揚もつけず
線で表したら真横線のように毒舌のレーザービームを放った。
僕はそのレーザービームが撃ち放たれるのをただ眺めることしかできなかった。
たぶん努力してるVの人もいるよと思うよ?
努力して実力もあるのに埋もれて伸びずにいたから
仕方なく、その人の努力や実力が正当に評価されるようにVをやってる人もいると思うよ?
たぶん伸び悩んでいるVの人だっていると思うよ?
そう言おうと思った反面、鹿島の返事も瞬時に想像できた。
最初の1歩の歩幅が違う。オレが100日かけて100本の動画を上げて
やっと1本の動画で100再生されたというオレの努力と
初投稿で100再生されてるのに再生数少ないって嘆いてるやつの努力。同じだと思うか?
鹿島っぽくない言い回しではあるが、きっと鹿島は似たことを返してくるはずだ。
いろんな可能性、いろんな人の気持ちを想像するとなにも言えなくなってしまう。
「ごめんごめん」
少し重くなった空気の入った風船に包まれているのが嫌で
その風船に穴を開けたくて謝った。
「別に怜ちゃんが謝る必要はないよ。ちょっと熱上げすぎた。オレもごめん」
「いや、鹿島こそ謝る必要ないし」
「あっ!そういえばさ!」
たぶん鹿島も重くなった空気が入った風船に包まれているのが嫌で
その風船を割りたくて少し無理にでもテンションを上げて切り込んできた。
「モンナンサンライズの最新映像見た!?」
鹿島はゲームの話をするとやっぱり生き生きするなぁ〜。
そう思ったら自然と顔も綻んだ。
「どれのこと?もしかしたら見たかもだし、見てないかもだわ」
「これこれ」
そう言って鹿島は自分のスマホを取り出し、MyPipeのアプリを開き
「モンナンサンライズ」と検索ワードを入れ検索する。
多く出てきた動画の中から、1つの動画をタップし左手に持ち替え
スマホを横にして鹿島と僕のちょうど中間で支えてくれる。
動画が始まるかと思いきや、サッカーゲームの広告が入った。
「このゲームは買う?」
と僕の左側にいる鹿島に尋ねると
「あぁ〜弟が買うかも」
「弟くんサッカー部?」とか「弟くんとするの?」とか聞きたかったが
広告が終わり本命の動画が始まったため一度飲み込んだ。
そこに映し出されたのは先日発表されたモンスターナンバーライズの続編
モンスターナンバーサンライズの新モンスター紹介動画だった。
「おぉ、モンスター発表されてたの?」
「そうそう、やっぱ見てなかったか」
「おぉ!あいつの希少種出るんだ!?え、新モンスターじゃん!強そぉ〜」
「な!アガるよな!」
と先程とは打って変わって嬉しそうにする鹿島がすぐ隣にいた。
鹿島の嬉しそうな顔が感染る。
「オレが考えるにぃ〜新モンスターは見た目とステージから考えると
水属性が効きそうなんだよね。ただ怒ったとき」
と言ってスマホを一度タップし、横向きの画面の下に出たバーで
さっき映った新モンスターの怒り状態の部分へジャンプさせる。
「ほら、ここ。今まで体に流れてたマグマの光が消えたじゃん?
たぶんだけど一定のダメージ入れないと
モンスター本体へのダメージが通らないんじゃないかなって。
あと見てこれ。弓に新しい攻撃方法が追加されるっぽい」
鹿島が活き活きしている。するとアナウンスが流れる。
いつの間にか急行が2本通過していたらしく、そろそろ各駅停車の電車が着くらしい。
「怜ちゃん、発売日にやろ」
「ダウンロード版ってこと?」
「そりゃそうでしょ?追加パッケージとしてサンライズを買って
ライズにダウンロードしないと損だよ?」
「あぁそうか」
鹿島がいつも通りになってホッっとしたのか、思考が働いていなかった。
「そういえばさ、サッカーゲームの話に戻るけど」
「うん」
「サッカーゲームに限らずだけど、弟くんとゲームしたりすんの?」
「あぁ、うん、やるよ。それこそモンナンもやる。
オレらの時代もそうだったけど、やっぱ学校でも男子の間で流行ってるらしくて
「武器作る素材集め手伝って」とかで
オレ強いからおんなじモンスター何周もやったりするよ?」
「優しいお兄ちゃんだ」
「んー、まぁ仲良いからねオレら」
鹿島は誰もいない左側を親指で指し
まるで左に弟がいますよという感じでドヤ顔をしながら自慢する。
「弟くん高校?」
「うん高校1年。だから今モンナンで活躍できれば、もう学校の人気者よ」
「なるほどね?まぁ意外に大事よな。ゲームでのコミュニケーションも」
「そうそう。今の時代は特にそうかもね。
まぁ男子には人気出るかもだけど、それで女子に人気出るかはわからんけどね?」
少し苦笑いのような顔をし、軽く肩を上げそう言う。
「いや、案外高校生くらいって人気イコールモテに繋がるみたいな年齢じゃない?」
「まぁ、言われてみれば。オレらのときもそうだったか。
だから今の子たちもカースト上位の人と付き合いたいって思ってそうよな。男子も女子」
「くだらねぇけどな?カースト上位だから付き合うとか」
「あれ?もしかして怜ちゃん「カースト」が地雷?」
そう少しおちゃらけているような、少しビビっているような雰囲気で聞いてくる。
「別に地雷ってわけじゃないけど、しょーもなくない?
どうせマウント取りたいだけでしょ?」
「あぁ。まぁたしかにね?」
「だってゲームでもあるじゃん?マウント」
「あるねぇ〜あれはオレも嫌い」「「ここまで進んだぁ〜」とか
「お前より強いぃ〜」とか「限定スキン持ってるぅ〜」とか」
鹿島の顔を見ながら指折り数えて言う。
「え、怜ちゃん、それオレのこと?」
少し戸惑う表情の鹿島を少し見て笑いながら
「違う違う。鹿島のことじゃないから安心せぇ。
鹿島は全然そんなことしないじゃん」
鹿島の不安そうな顔が面白くて笑いながらそう言うと
鹿島は少し安心した表情を見せた。
「マウントに限らず人の気持ちに寄り添うことをしないやつが多すぎる」
「まぁそうかもな」
2人でホームにいる人々を眺める。しばしの沈黙が訪れる。
他の人の話す声。自動販売機で飲み物のスイッチを押す電子音。飲み物が落ちる音。
取り出し口を開く音、閉じる音。車の音、スクーターの音、人々が歩く音。
そんな音をBGMに考える。この人たちの中には優しい人もいれば気を使えない人もいる。
人を殺したいほど憎んでいる人もいれば、結婚を考えている人もいるかもしれない。
会社が嫌いな人もいれば、好きな人もいる。学校が嫌いな人もいれば、好きな人もいる。
勉強が嫌いな人もいれば、好きな人もいる。
はたしてこの中に人の気持ちに寄り添える、寄り添おうとする人はどれだけいるのだろう。
全員がそうだったらいいのにな。
そんなことを思っていると踏み切りの音が鼓膜を揺らす。
ふと今までの思考からレーンチェンジして現実の思考に切り替える。
視界は変わっていないがなんとなく淡い色の世界から
鮮明な色の世界に飛び込んだような感覚になる。
そして現実の思考で踏み切りの音に気づくとホームでアナウンスが鳴り響く。
もうすぐ電車がホームに入ってくるらしい。
「怜ちゃん別世界行ってた?」
と口角を少し上げた鹿島が尋ねてくる。
「え?」
「いや人の気持ちの〜の話の後、パァ〜ッっと見回して怜ちゃんのこと見たら
ん~…なんていうんだろう?ボーッっとっていうか、ふぁ〜っと?
なんかオレとは見てるもの違うって感じだったよ」
「あぁ、いや別に異世界転生してないよ」
「うん、それはわかる。怜ちゃん生きてるし」
「あ、そっか」
「怜ちゃんたまに天然なとこあるよねぇ〜」
「おっ、特大ブーメラン投げて来た」
と言い鹿島の投げかけた言葉をかわすようにし
「あ、鹿島の胸に突き刺さった」
「ぐうっ…。オレもだったか」
と胸を抑え、ワザとらしい苦しそうな演技をする。
その鹿島を見て僕は笑い、その僕の様子を見て鹿島が笑った。
そんな暖かな空気に包まれた2人の前に、各駅停車の電車が姿を現した。
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