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「じゃあさ。最後に質問。
俺がみどりを好きだって言ったら、嬉しい?」
「は、はぁ……? なにそれ」
「答えて。これが一番大事だから」
北畑くんはいつになく真剣だ。
私は……正直頭がパニックでぜんぜんわからない。
たしかに好きだと言われて……イヤではなかった。
けど嬉しいかと言われたら―――。
「わ、わからないよ。
もしほかの人と付き合ってるのとかみると、すっごくムカつくとは思うけど……」
「……ムカつく……。
そっか、わかった。じゃあさ、俺と付き合おう?」
「はっ?」
「俺、みどりが好きって言ってくれるように頑張るから」
「ちょ、ちょっと。どうしてそうなるのよ!」
勝手に話を進めて自己完結した北畑くんに、私はあっけにとられてしまう。
「だってそうじゃん。俺がほかの子と付き合うとムカつくんでしょ?」
「そ、それと私たちが付き合うは別でしょ!」
「別じゃないよ。
でもすぐにってわけでもない。みどりがいいって言ってくれるまでは待つから」
「いやいや、そういう問題じゃなくて……」
どんどん話を進める北畑くんに、相変わらずついていけない。
っていうか、私、怒ってるんだけど!
北畑くん、ちゃんとそのへんわかってない気がする……!
「あ、あの、私怒ってるの!」
「うん。ごめん。本当にごめん。
だから……これからみどりにいろいろ償うよ」
「償うって?」
「みどりのこと大事にして、許してもらえるよう努力するから」
「ええ……」
「だからさ、もう一度俺にチャンスくれない?」
そんなふうに言って、じっと見つめられると、すごく返事に困ってしまう。
北畑くんが本心で言ってるのがわかるから、なんだか体が熱くなってくるし……。
「ね、ねぇ」
「ん?」
「そ、その。本気なの?」
「もちろん。嘘でこんなこと言わない。真剣だよ」
「そ、そうなんだ……」
真剣って、私と付き合うってことに真剣ってこと? 償うこと?
もうだんだんわからなくなってきた……。
「……わかった。
とりあえず、出会ってすぐ付き合ってって言ってたことを、北畑くんが悪いと思ってるのはわかった。
だから……今日はこれで帰る。疲れた」
「えっ、この話の流れで帰るの!?
……みどりがそういうなら……俺も一緒に帰るけど……」
「い、いや。ひとりで帰りたい」
「……それって俺といるのがイヤってこと?」
北畑くんは悲しそうな目で私を見る。
い、いや。
そういうわけじゃなくて、ほんとにひとりになりたいっていうか―――。
「一緒にいると、落ち着かないの。だからイヤなの……!」
北畑くんは私が彼を好きだとか言うけど、自分じゃもう好きなのか嫌いなのかわからない。
わけがわからないせいで、思ったより声が大きくなってしまった私に、北畑くんは少しして噴き出した。
「落ち着かないって……それさっきから言ってるけど、みどり俺が好きって言ってるのと変わんないよ」
「だ、だから!
それは北畑くんの受け取り方がおかしいよ。私はそんなこと言ってない」
「言ってないけど、まぁ……そういうことだって」
言って、北畑くんは私の手をぎゅっと握った。
「ちょ、ちょっと!」
「とりあえず走って逃げられるとかは困るから、手だけはつながせて。
本当は俺のこと好きって自覚してほしいからキスがしたいけど……。それは我慢するからさ」
「は、はぁー!?
やっ、やめてよ。そういうことしないでって言ったじゃない」
私はつながれた手をぶんぶんふって暴れた。
しまった、なんでこんなふうに簡単に捕まるの。
忘れかけてたけど、北畑くんは不意打ちでキスとかしてくる人だったのに……!
私が逃げようとすると、北畑くんは逃がさないとばかりにつないだ手にぎゅっと力を入れる。
「うん。だからキスは……ちゃんと付き合ってくれてからにするよ。
あ、一応言っておくけど、ほかの子にも、もちろん智香ちゃんにもこういうことしないから、安心してね」
私を見てにっこり笑う北畑くんは、やっぱり邪気がなくて……あやうく懐柔されそうになる。
「いやいや、安心できるわけないじゃん。
北畑くんなんかずれてるよ……!」
「いや、みどりほどじゃないよ。ほんとツンデレっていうかさ……。
でもそういうとこが好きだから、俺はぜんぜんいいんだけど」
「いや、意味わかんないってば!
じゃあさ、そこまで言うなら絶対だれにもキスとかしないでね。そういうの見たら一生口きかないから」
それだけ言うと、私はとなりに並んだ北畑くんを見ないようにして、ずんずん前を歩いた。
「あー、もうみどりはかわいいなー。
そういうのがツンデレって言うんだよ。まじでいいよね、そういうの」
「だから……そういう北畑くんこそ意味がわかんないってば!」
かわいいとかツンデレとか、いったいなんなの?
さっきまでしゅんとしていた北畑くんはもう復活してるし、心なしかウキウキもしてる気がする。
「あっそうだ、みどり。今から打ち上げ行かない?
約束したじゃん。体育祭が終わったらって」
「打ち上げって……。いやいや、私もう帰るんだってば」
私、疲れたから帰るって言ったよね?
体はそんなに疲れないけど、精神的にはほんとに疲れてるんだってば。
「ちょっとでいいからさ。なにか好きなものおごるし。
今日イヤな気持ちにさせておわびでさ」
「ええ……」
私は後ろを振り返り、ちらりと北畑くんを見る。
すると「ね?」と微笑まれて、意地張っている私がバカらしくなってきた。
「ほんとにおごってくれるの? ……なんでも?」
「うん。なんでも。
だからみどりの好きなもの食べに行こうよ」
私は返事をせずに、しばらく前を向いて歩く。
それから少ししたところで、後ろを向かずにぼそっとつぶやいた。
「じゃあ……私疲れたから甘いものが食べたい。アイスとか……」
「えっ、ほんと!? ほんとにいいの!?」
嬉しそうな声に思わず足を止めると、北畑くんは私を追い抜いて、私の前に立って―――。
「ほんとにって……だって北畑くんがそう言ったんじゃ―――」
むくれつつ目をそらそうとした時、、北畑くんは嬉しそうに笑うと、ぎゅっと私を抱きしめた。
「わっ、ちょ―――」
「……俺、みどりのことが好きだよ。
今日はアイスだけでいいから、今度はちゃんと付き合ってくれるように、俺とのことちゃんと考えてくれるよう、頑張るね」
耳元で声がして、一気に体が熱くなって、体が動かなくなる。
でも往来の真ん中で抱きしめられてるっていう状況にはっとした私は、慌てて北畑くんを押し返した。
「ち、ちょっと!
こういうのはなしだって言ったよね……!?」
「あ、ごめんごめん。みどりがかわいいから、つい。
みどりもイヤがらなかったし」
「いやいや、イヤがったよ。
今おもいっきり押したじゃない!」
「それは照れてるだけじゃん?
俺のことが好きって言ってくれる日も近いかもー。頑張ろーっと」
「も、もう!
なんでそうなるのよ……!」
たしかに一緒にいると少しドキドキするかもしれない。
でもこれってただ振り回されてるだけな気もするし、恋なのかどうかはわからない。
だけど好きって言われるとやっぱりイヤじゃなくて、なぜかちょっとだけ嬉しくて。
……あぁ、やっぱり好きか嫌いかよくわかんないや。
じゃあこの気持ちがなにか確信するまで……一緒にいようかな。
そんなふうに思いつつ、私は北畑くんに手を引かれて、夕焼けが赤く照らす駅への道を歩く。
つながれた手をすこしだけ握り返そうかと思ったのは、私しかしらないヒミツだ。
『きみが付き合ってくれるまで』 -完-