テラーノベル
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エリオットの指には、まだネクタイが巻かれている。
でも。
さっきから。
チャンスの軽いキス。
頬。
こめかみ。
耳の近く。
そのたびに、エリオットの肩が小さく揺れる。
「……」
ネクタイを握る指。
ほんの少しだけ緩む。
チャンスはそれを見逃さない。
「エリオット」
低い声。
エリオットは視線を逸らす。
「なに」
チャンスが言う。
「さっきより弱い」
エリオットがすぐに返す。
「弱くない」
そう言いながら、ネクタイを引く。
くい。
でも。
前ほど強くない。
チャンスが少しだけ笑う。
そして。
また顔を近づける。
エリオットの耳のすぐ横。
静かな声。
「離すなら」
少し間。
「今だぞ」
エリオットの指が止まる。
ネクタイを握る手。
少し震える。
耳は赤い。
呼吸も少し速い。
それでも。
エリオットは小さく笑う。
「……チャンス」
「何だ」
エリオットはネクタイをもう一度握り直そうとする。
でも。
指がほんの少し滑る。
ネクタイが少しだけほどける。
チャンスの目がわずかに細くなる。
「ほら」
静かな声。
「もう離れそうだ」
エリオットは慌てて握り直す。
でも。
さっきより指に力が入らない。
くい。
引く。
弱い。
チャンスが言う。
「どうする」
エリオットは数秒黙る。
ネクタイを見て。
それからチャンスを見る。
そして小さく笑う。
「……まだ」
息を吐く。
「離さない」
でも。
その指先は。
本当に。
もう少しで離れそうだった。
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