「よく出来ました」
そう言って微笑んだかと思ったら。
そのままなぜか重なる唇。
!!!!!
えっ?私好きって言ったよね?
言わないとこうなるんじゃなかった?
なんで言ったのにこうなってんの??
だけど、重ねた唇も両頬を包まれてるこの掌からも、今の樹の想いが伝わって来て。
少しずつ私を求めるかのように力が入ってきて、言葉じゃなく、この唇からこの掌から好きだと伝えてくれているようで。
そんな樹を感じられて、結局は幸せな気持ちでしかなくて。
そんな樹に身を任せてその時間を受け入れる。
そして、ようやく唇が離れて、目の前で樹が嬉しそうに微笑む。
「好きって伝えたのに」
「だってそんなこと言われたら逆に気持ち抑えられないでしょ」
「なら、結局同じじゃん」
「透子が可愛すぎるのが悪い」
「は!!??」
何を言ってもこう返って来て、結局私は樹には適わない。
「まぁオレはどっちにしてもこうするつもりだったけどね」
そんな笑顔で言われても・・・。
「フフッ」
でもきっと私はこんな樹が好きなのだと感じて、思わず笑ってしまう。
「何笑ってんの?」
すると意外な反応をする私に樹が尋ねる。
「ん?やっぱり樹が好きだなーって実感してただけ」
自分の気持ちをちゃんと認めると、嘘みたいに自然にそんな言葉も戸惑わずに言える。
すると樹は手を下ろし、ようやく解放してくれた。
「あーやっぱ透子の方がずるいわ」
「何が?」
「オレが想像してないとこからそういうのブッコンでくるんだもん」
「何それ(笑)」
「オレが透子に迫って恥ずかしくしながらオレに気持ち伝えてくれるのももちろん嬉しいんだけどさ。そうやって何気なく自然にサラッと伝えてくれる透子もすげぇ好き」
「ごめんね。なかなか素直になれなくて」
「いや。だからこそオレの魅力で透子をどんどんハマらせていける楽しさがあるワケだし(笑)」
「そうだね(笑) 私も樹のせいでどんどん知らない自分引き出されて、自分でも初めて知る自分いるもん」
樹と一緒に過ごす時間が増えるほど、樹のことをどんどん好きになっていって。
そしてどんどん知らない自分が増えていく。
だけど、それは全部樹がいるからこそ出会えた新しい自分。
「オレのせいで・・?」
「ん?」
「オレのせいでじゃないでしょ?オレのおかげでしょ?」
そんなとこにこだわる可愛い樹。
「確かに。樹のおかげで今は自分を好きでいられる」
「オレも。透子のおかげでやっと自分を好きになれた」
お互い過去に縛られて、自分を好きになれなくて。
だけど、それは誤解だったり勘違いだったり、きっと想いは一つのはずなのに、どこかですれ違ってしまっていた過去。
皆が誰かを想っているからこそ、すれ違う想い。
だけど、その想いに気付くことが出来れば。
想ってもらえている幸せを受け止められた時。
きっと皆自分を好きになれる。
幸せだと想える自分をきっといつか好きになれる。
それはすべて樹に出会えたおかげ。
すべて樹が私を好きになってくれたおかげ。
「じゃあ。帰ろっか」
微笑みながら伝えてくれる樹に。
「うん」
私も微笑んで伝える。
「ん」
そう言いながら手を差し出してくれる樹。
私はまたそれを見て微笑んでその手に自分の手を重ねる。
今度は繋いだ手から伝わる想いと分け合う幸せ。
このままどこまでも歩いて行けそうなそんな幸せ。
「あっ、そうだ。オレ明日から一週間ほど大阪に出張になっちゃって」
「そうなんだ?向こうのブランドの方で?」
「そうそう。上手くいけば大阪の支店も視野にいれてて」
「へぇ~。もうそこまで計画出てるんだ」
「まぁね。ネットの方もどんどん力入れて店舗でもどちらでも求められるモノにしたいし」
「そっか」
「それの打合せも兼ねてだから、ちょっと長くなりそう」
「じゃあまた一週間会えなくなるのか~」
「寂しい?」
「そりゃね。前みたいに隣に住んでたら行く前もギリギリまで会えるし、帰って来てからもすぐ会えたのに」
やっと気持ちが通じ合って障害がなくなったのにな。
あれだけ近くにいた時は、なかなか会えなくて。
なのにようやく会えるようになったのに、今はまた遠くに行って。
なんか寂しいな。
「ホントあんなにずっと近くに住めてオレも幸せだった」
「なんで引っ越ししたの?」
結局そこも聞くことも出来ないまま、いつの間にか樹は隣からいなくなっていた。
「まぁケジメみたいなもんかな」
「ケジメ?」
「うん。やっぱり隣に透子がいるって思うとさ、ホントはそれだけで幸せで頑張れるのは確かなんだけど。でも、その分そんな近くにいると、どうしても会いたくなっちゃうから。あの時は透子と会っちゃうとオレの決意もブレちゃいそうで怖くてさ。ちゃんとやり切る自分になる為には、あの選択するしかなかった」
「そっか。そうだよね。私もまだ隣にいたら寂しくて会いたくなっちゃってただろうし。あの距離にいれることでやっぱり期待しすぎてしまって、もっと現状に苦しんでしまってたような気がする」
きっとあの時は、お互い離れたことでちゃんとお互いを見つめ直すことが出来て、その時の現実を受け入れて進むことが出来たように思う。
「でも今はオレもこの距離がもどかしいけどね」
「うん。今はどこに住んでるの?」
「ん?またそっちも落ち着いたら今度連れてくよ」
「うん。わかった」
今は樹も前と現状が変わって新居の方が便利で都合いいこともあるだろうし。
「でも今日はちゃんと家まで送り届けるから安心して」
「ごめんね、わざわざ」
「当たり前でしょ。透子そんな一人で危なくて帰らせられないし」
「危ないってそんな年齢じゃないから大丈夫だよ~(笑)」
「ダーメ。オレにとってはどんな時も透子が心配で守りたいの。ちゃんと透子はオレに守られといて」
「フフッ。わかった」
頼もしい彼氏。
「ってか、オレがギリギリまで透子と一緒にいたいっていうのもあるしね」
「私も。ギリギリまで一緒にいられて嬉しい」
「一週間またしばらく会えなくなっちゃうから、目一杯透子との時間味わっとかないと」
「うん。寂しくならないように、うーんとそれまで味わおう」
「出張から帰ったらすぐ一番に会いに行く」
「うん。待ってる」
やっぱりまだまだこの道もこの時間もあともう少し続いてほしい。
樹との時間をもう少し楽しめるように。
しばらく会えない分も埋められるように。
ちょうど気持ちいい夜風に包まれたまま、見上げると夜空にはちょうど綺麗な満月。
「見て。樹。すごい綺麗な満月」
「ホントだ。すげぇ」
愛する人と一緒に歩く夜道。
満月の光に照らされているようなそんな気がして、こんな何気ない時間も幸せだと感じられて特別な時間に思える不思議。
またこれも大切な二人の想い出になる。
手を繋いで二人で歩いた何気ない夜道も。
心地良い夜風に包まれながら一緒に見上げた満月も。
また幸せな想い出になる。
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