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今日は爽やかな秋風が吹いていて、過ごしやすい気候だ。 夕日に染まるビル群を眺め、一樹はバルコニーに置いてある、ガーデンテーブルセットに腰を掛け、紅茶を飲んでいた。

本八幡にあるこのマンションは、一樹が専門学生時代に一人暮らしを始めた時から住んでいる。もちろん当時、家賃とかは実家からの援助で住んでいたが、水道光熱費は、パチンコ屋やバーとかでバイトをし、自分で払っていた。

実家はすごい金持ちとかではないが、それなりに、やや裕福な方だと思っている。

当時、学生だった頃、由明香にこんなことを言われたことがある。

「学生で、しかも高級住宅街に2LDKのマンションに住めるなんて羨ましすぎるよ」

と、由明香たちが来た時に言われた。

「親が金持ちだといいよねぇ」

と、友人たちに言われ、その時、親のありがたみを思い知ったのだ。

もうすぐ卓也からLINEがくる約束の時間だ。今日は卓也と逢える日だと思うと、胸がドクドクと鼓動が走る感じが、体じゅうに伝わる。俺は最近、卓也からの連絡を、家で主人の帰りを待つ犬のように待ってしまうのだ。そんなくだらない事を考え、チェアに体操座りをし、腕を抱えながら外の夕日を眺めるのだった。

約束の時間から十五分過ぎても、通知が来ない。一樹は冷めた紅茶を飲み干し、室内に入った。 一樹は無類の紅茶好きだ。それは茶葉や茶器にまでこだわりを持っているくらい好きで、なかでもキーマンという、中国の安徽省祁門県で獲れる茶葉を好んで飲むのだ。

それにロンドンのアンティークショップで集めた、ブース社のリアルオールドウィローのティーセットで飲み、読書や音楽鑑賞をするのがいいのだ。

卓也からLINEがきたのは、約束の時間から、一時間たってからだった。

「ごめん、今日会うの難しくなったからリスケしていい?」

と、の内容だった。

「わかった」

と、だけ返信し、俺はひどく落胆し、寝室のベッドに寝転ぶように倒れ込んだ。あんまりだこんな仕打ちは、向こうから会いたいと言いっといて、当日にドタキャンなんて…。

普通なら怒ってもいい案件だが、これは惚れたものの弱みだろうか、自分が嫌だと思う事を相手に言えず、相手の欠点を見ないふりをし、自分を押し殺し、結局は相手に伝えることができず、自分で自分の首を絞めてしまうのだ…。

恋とは無謀だ、それをわかっていてもやめられず、人々は恋に溺れるのだ。恋は、恋に落ちた人を罠にはめ、ひたすら飼い殺しにするような、恐ろしい媚薬の副作用的なものだと、最近つくづく思う…。

一樹はベッドに横に大の字になり、目を瞑った。その時、LINEの通知の振動音が聞こえ、卓也からかと思い、起き上がり、サイドチェストの上に置いてある、スマホをとった。

ゲイ友達の、航平さんからだった。

「今日、仕事忙しくなかったら、今夜一緒に飲まない?」

と、航平さんからメッセージがきた。

「うん、いいですよ」

俺は即返信をし、メッセージを返したのだ。そう、気晴らしに少し飲みたい気分だったから、本当に即返信だった。

航平さんは、渋谷の代官山でアパレルショップを営んでいる。それに、ジムで鍛えた筋肉質な体で、スペインカールのヘアスタイル、ダンディなラウンド髭を生やし、ファッションセンスもよく、たぐい稀な容姿をしており、どこかエロティックな三十代半ばの俳優のような雰囲気をした、大人の男性的なホルモンを醸し出しているような人だ。そう、航平さんは俺の目標にしたい人の、憧れの一人だ。

実際、航平さんの年齢は四十一だ。初めて会ったとき、実年齢を聞いた時は、目が飛び出るくらい衝撃を覚えた。まさにイケオジと言うのは、航平さんの為にあるような言葉だと思う。

俺は急いで支度をし、髪をグリースでセットし、無地の白Tシャツ、ワイドタイプのジーンズを履き、黒っぽいアウターを羽織って駅に向かう。

新宿三丁目駅に到着したのは、夜の十九時半だった。約束通り、航平さんに指定された、二丁目の仲通り沿いにある、シャインマートという名前の個人経営のコンビニに向かった。

シャインマートにつくと、航平さんは喫煙所の前に立っていた。ベージュの秋物のロングコートを羽織り、トレーナーとジーンズに、キャップを被り、ローファーを履き、薄い青色をしたサングラスをかけ、煙草をふかせていた。

「よっ、久しぶり」

と、手を軽く上げ、iQOSを吸いながら言う。

「おまたせ」

「さて…、どこ行こうか」

と、相変わらずダンディな低い声で航平さんは言う。

少し考えたように、航平さんは、

「とりあえず、腹ごしらえできる所行く?」

と、吸い終わったiQOSを灰皿に捨て言う。

「うん、少しお腹に入れたいな」

「なら三丁目の方に安くてちょうどいいバルがあるから、そこに行こうよ」

と、言い、航平さんはスタスタと歩きはじめた。

二丁目を出て、道路の反対側にある三丁目の飲み屋街に入る。

航平さんは慣れたように、飲み屋街を進み、目的のお店まで連れっていってくれたのだ。

「ここだよ」

航平さんは微笑むように言うのだ。

「あぁ、ここ前に来たことあるかも、スペインバルでしょ?」

記憶が曖昧だが、なんとなく覚えている場所だった。

「なんだ、行ったことあるのか」

と、航平さんは少し笑うように言う。

「前に、でも酔って入ったから記憶が曖昧なの」

と、恥ずかしそうに俺は言う。

「なら、ちょうどいいや、ここの店は一樹くんが好きそうな料理もあるから、今日はちゃんと堪能するといいよ」

と、航平さんは笑顔で言い、店の中に入っていった。店員に案内されるがまま、俺たちは窓際の座席に座った。

「一樹くんは何が食いたいの?」

と、航平さんがメニューを開きながら言う。

「そうだねぇ、このチョリソーとほうれん草のパエリアなんか美味しそうじゃない?」

俺はメニューを、指でさしながら言った。

「いいねぇ、じゃ、これも頼もうか」

と、航平さが言う。

「他はいいの?」

航平さんが、首をかしげ言うから、

「うん、俺そんなに食えないの」

と、言うと、

「そっか…、でも、食べないと大きくなれないぞ?」

と、航平さんがニヤけながら言った。

「何それ、高校生とかじゃあるまし」

と、俺は笑いながら言った。

航平さんは笑いながら、

「でも俺からしたら高校生に見えるよ」

と、航平さんが揶揄うように言うから、

「そう言われるのは、お世辞でも嬉しいけど、アラサーの仲間入りした人を揶揄うのは悪趣味だよ?」

「はははっ、何言ってるの、一樹くんは俺からしたら本当にそのぐらい年齢に見えるよ」

と、笑いながら言う。

「ひどいこと言うんだから、この人たらしが」

と、俺も笑いながら言う。

とりあえず俺たちは食事と食前酒を注文し、会話に花を開かせた。

航平さんは、ギムレットを飲みながら言った。

「こうして会うのいつぶり?」

「そうだねぇ、五ヶ月ぶりかなぁ」

と、言い、俺はマティーニを口に含んだ。

「そんなに会ってなかったんたんだねぇ」

航平さんは、ギムレットを飲み、考えるように言う。

「まぁ、お互い仕事も忙しかったし仕方ないよ」

と言い、俺は店内の黒板に書かれた、アルコールメニューを見ながら言う。

「そっか、なら今夜は久しぶりに飲みまくらないとな」

と、航平さんは、パエリアを食べ、お酒を口に流した後に言う。

「じゃあ今日はじゃんじゃん飲んじゃおうかな?」

と、言い、俺はマティーニを飲み干し、グラスに入っているオリーブを口い入れ、転がすように食べた。

「おっ、いい飲みっぷりだね」

と、航平さんが微笑んだように言い、ギムレットを優雅に飲む。

「もう一杯だけ飲んでいい?」

「うん、次はどれ頼む?」

航平さんがアルコールメニューを渡してくれた。

「そうだね、次はこれにしようかな?」

俺はマルガリータを指でさした。

「おぉ、けっこう攻めるね」

航平さんは、少しニヤけたように言った。

「まだまだ序の口」

俺は店員を呼び、注文をし、空いたグラスとお皿を下げるようお願いした。

「俺はこれ頼むけど、航平さんは?」

「じゃあ、サイドカーにしようかな」

と、航平さんが言い、俺は店員にサイドカーも注文した。酒を待っているあいだも俺たちは最近の流行、仕事、恋の悩み、少し下ネタを話していた。

「そういえば、卓也ボーイとはどうなんだい?」

航平さんがニヤニヤしながら聞いてきた。

「そうだねぇ…」

と、俺が呟くように言うと、店員がお酒を運んできた。店員が去ったタイミングで俺はマルガリータを一口飲み、

「現在も変わらずかな…」

と、俺はにごすように言った。

「そうか、じゃあお互いまだフレンドって感じか」

と、航平さんが言い、くすっと笑った。

「良く言えばね」

俺はグラスに縁にソルティングされた塩を舐め、言った。

「でも五年も続くって相当すごい事だよ」

と、航平さんはカクテルグラスを揺らしながら言った。 俺は、グラスを持ち、ゆっくり眺めるように考えた。卓也と、今のままの関係で本当に良いのか?、と…。

「これ、飲み終わったら次の店に行く?」

と、航平さんが言う。

「早く飲んじゃわないと」

と、俺は言い、残り少しとなったマルガリータを飲み干し、喉が少し、焼ける感覚が残った。俺たちは速やかに会計を終え、店を出た。

外はさらに暗くなり、人通りも増え、酔っ払いの声が外まで聞こえるほどだ。俺たちは三丁目と二丁目を繋ぐ横断歩道まで来たところで、

「さて、三途の川を渡っちゃう?」

と航平さんが言い、

「渡りにいこうか」

と、俺は言い、二丁目に突入した。

二丁目は相変わらず人がわんさか行き交っており、オカマ、ドラッグクイーンの人達が、ボードを持ち、客を呼びこんでいた。

「今日はどうする?」

航平さんが、シャインマートの前で止まり言う。

「どこでもいいよ、てか、いつもの所はどう?」

俺はあたりを見渡しながら言う。

「それもいいけど、俺がよく行く場所があるんだけど、そこはどう?」

航平さんがスマホを見ながら言う。

「うん、じゃあそこ行こうよ」

と、俺は言い、航平さんに案内されるがまま、二丁目のメインストリートである仲通りを進んだ。航平さんは古びた雑居ビルが並ぶ、細い道に入り、指をさした。

「ここだよ」

と、航平さんが言い、ビルに入り、エレベータに乗った。エレベータは五階で停まり、扉が開き、扉が開いて、すぐ目の前に重く銀色のドアが目の前に開いたのだ。

扉には、「登竜門」と書かれたボードがかかっていた。

航平さんは扉を開け、店内に入り、俺も航平さんに続くように入った…。

店内は青いネオンに光に包まれ、お酒が並んでいる棚はライトアップされており、カウンターには、マッチョな色黒な男前のお兄さんが立っていた。

「いらっしゃい」

と、色黒マッチョなお兄さんが言い、カウンターに案内した。俺たち二人は色黒マッチョなお兄さんに案内され、おしぼりが置かれたカウンターに腰をかけた。

「あらぁ、航平ちゃん、お久しぶり」

と、色黒マッチョなお兄さんが言う。

「おぅ、優太さん、元気?」

と、航平さんが言い、色黒マッチョな兄さんと色々話しているのだった。

「ボトルキープまだ残ってる」

と、航平さんが言い、色黒マッチョな兄さんはボトルを取り出し、自分たちの前に、航平さんがキープしてある焼酎のボトルを出した。

「まだ全然残ってるわよ、航平ちゃん最近ちっとも来てくれないんだもん」

と、色黒マッチョなお兄さんが、拗ねたように言う。

「これこれ」

と、航平さんが言うと、

色黒マッチョなお兄さんが、

「割りものは?水、ジャスミン茶、緑茶、レモンティー、ミルクティー?」

と、聞いた。

航平さんは、

「俺は緑茶」

と、言う。

色黒マッチョなお兄さんは俺に、

「あなたは?」

と、聞いてきたから、

「ジャスミン茶で」

と言い、

「ジャスね!」

と、言い、さっそくお酒を割って、作り、目の前のカウンターにコースターを置き、割られたお酒を提供し、お通しのスナック菓子を出してくれた。

「あっ、ご紹介遅れました、チーママの優太です」

と、俺に名札を見せ、優太さんは言う。

「はじめまして」

と、俺は少し緊張しながら言った。

「なんてお呼びしたらいいですか?」

と、優太さんが言う。

「一樹と申します」

「一樹くんというのね!よろしくお願いします」

と、優太さんが言い、優太さんが航平さんに、

「ねぇ、航平ちゃん、こんな若い子どこで捕まえたのよ」

と、ニヤニヤしながら航平さんに聞いた。

「すぐ向こうの〇〇というバーで、前に知り合ったんだよ」

と、航平さんが言った。

「そうなの、じゃあもう結構知り合って長い感じ?」

「そうだね、もう二年ぐらい?」

と、俺と航平さんはお互いの顔を見ながら言った。

「あらぁ、じゃあけっこう長い関係なのね」

と、優太さんが言い、続けて、

「一樹くんは、航平ちゃんはイケる?イケないの?」

と、急にぶっこんだ話しをしてきたから、航平さんも俺も、お酒を咽せさせた。

「ちょ、何いってるんですか!」

と、俺は思わずホゲた口調で、優太さんに言った。

「そうだよ、一樹くんが困ってるから揶揄わないでくれよ」

と、航平さんは爆笑しながら言った。

「あら、私ったらついつい余計なことを言ってしまったかしら?」

と、勇太さんは頬っぺたを両手で押さえながら言う。

「でも、航平ちゃんいい男でしょ?長いこと彼氏いないけど、性格も文句無し、いい物件じゃないかしら?」

と、優太さんはきゃっきゃっ言いながら言った。

「人を事故物件みたに言わないでよ」

と、航平さんは大笑いしながら、勇太さんの肩を叩いた。

「きゃー!痛いわ」

と、優太さんが言う。

「それなら、チーママさんが航平さんの彼氏になってあげたらどうですか?」

と、俺はニヤりとしながら優太さんに言った。

「いゃあね、私こんなにホゲてるけど、一応タチなのよ、だからお断りよ!」

と、優太さんが手をホゲさせながら言う。

「俺も、こんなやかましいくそババアはお断りだね」

と、航平さんは優太さんをイジるように言った。

「誰がババアなのよ!おだまりなさい!」

と、優太さんが手を口で押さえながら言う。俺は二人のやりとりを笑いながら見ながら、お酒を飲んでいた。気がつくとグラスが空になり、優太さんがすぐ氷を入れ、お酒を注ぎ、ジャスミン茶で割ってくれた。

「一樹くんは絶対、呑兵衛のんべえよね」

と、優太さんが言う。

「えっ?どこがですか?」

と、俺は驚いたように言った。

「だって飲み方が男らしく豪快だもの、それに美味しそうに飲んでくれる」

優太さんは手を口で隠し、微笑むように言う。

「確かに一樹はいつも美味しそうに飲むな」

航平さんは、カウンターに肘をつきながら言った。

「そう?」

と、だけ俺は言い、煙草に火をつけ、吸った。

「その煙草の吸い方も哀愁感漂っていていいわよねぇー」

優太さんが目を細くして言う。

「失礼しちゃうよ」

と、呆れながら言う。

「でも、その年齢で哀愁感あって、ふとした時に見せる色気のある表情は出したくても、中々出せる物じゃないわよ?」

と、IQOSの煙をふかせ、グラスに薄く割られた焼酎を一口飲んだ後に優太さんが言った。

「…」

俺は少し考えるように間を置き、

「そういうもんなのかなぁ?」

と、苦笑いをしながら言い、グラスの水滴を指で拭き、お酒を一口流し込んだ。

「確かに年齢の割には落ち着いてるから、おじさま受けは良さそうだよね」と航平さんがクスッと笑いながら言った。

「この年齢でおじさんにモテても嬉しくないんですけど!!」

と、俺は笑いながら言った。

「じゃあ何歳ぐらいの人までなら平気なの?」

と、優太さんが聞いてきた。

「えぇー…、答えるのが難しいけど、理想は同年代から三十半ばぐらいまでかな?」

俺は腕を組みながら言った。

「わかる!私も一樹君ぐらいの年頃の時そうだったし、三十代の人達ってなんか大人のエロさがムンムンで、目の保養がてら電車の中のスーツリーマンをよく観察してた!」

と、口元に手を当てながら優太さんはテンション高く言った。

「それ、ただの不審者だから」

と、航平さんが軽く笑いながらツッコミをいれた。

「だってスーツごしでもわかる大胸筋や腕、キュっと引き締まったお尻とかエロくない?ゲイならガン見しちゃうもんでしょ?」

と、優太さんが笑いながら言った。

「あー、なんとなく分かるかも。特にそういうリーマンって自信満々に満ち溢れているから余計にエロいよね」

と、俺はニヤけながら言った。

「そうそう、あのナルシスト感がまたいいのよねぇ」

と、優太さんが言った。

店内でしょうもない会話に花を咲かせているうちに、俺たちの酔いはかなり回っていた。次第にカラオケまではじめ、一樹は喉がガラガラになり、少しぐったりしていた。

「もうこんな時間だ…」

と、航平さんは言った。

俺たちはお会計を済まし、店を出た。優太さんは俺たちをエレベータまで見送り、笑顔で見送ってくれた。

雑居ビルを出た瞬間、顔に冷たい風があたり少し酔いが覚めた感覚に戻った。二人はシャインマート前まで向かい、煙草を吸い、一服したのだった。

「電車はまだある?」

と、航平さんがぽつりと聞いた。

「うん、今から向かえば全然間に合うよ」

「そうか」

と、航平さんは何かを考えるように言った。

「明日は仕事?」

と、航平さんは煙草を吸い、仲通りをぼんやりと見つめながら言うのだ。

「うん…、昼頃に仕事の打ち合わせがある予定」

「そうか…」

とだけ航平さんが言った。

「どうしたの?」

と、俺は少し笑いながら言った。

「この後どう?」

と、航平さんが真剣な顔をしながら言ったので、俺は少しドキッとした。

「えっ?それはどういう意味?」

と、俺は聞いた。

「もう一軒どう?ってこと」

と、航平さんが笑いながら言ったのだ。

「あぁ…、そう言う事ね」

俺は別の意味かと思い、やましい事を想像してしまった自分が恥ずかしかった。

そう、航平さんとはそもそも仲良しの飲み友達だし、航平さん自身も俺のことを一ミリもそういう目で見てないことは自分自身でもなんとなく分かっていたし、そういう事に発展しない謎の自信があったが、まさかこの後思いもしない出来事が起こるとは、一樹はまだ知らなかった。


空に浮かぶ満月を眺め、一樹は航平さんとネオン街の広がる靖国通りを歩いた。

花園神社の脇道を通り、着いたのは新宿ゴールデン街だった。戦後の闇市の名残が残るこのエリアはなんだか薄気味悪い雰囲気と、どこか懐かしい感覚が芽生え、辺りには古びた飲み屋街が細い通路に並んでいた。

航平さんはみるみると、進み、路の上には、あかるい花園一番街と表記された看板が表記されていた。

一樹は周りをきょろきょろしながら歩き、個性的な名前が表記された看板を見ていた。すれ違う人たちもサラリーマン、OL、バンドマン、大学生、外国人観光客といった様々な人達だ。

航平さんは、

「ここだよ」

と、指をさした。

「なんだか昭和レトロな趣な店だね」

「ここは、一杯でも手軽に飲めるバーだから入りやすいよ」

と、航平さんは言い、店のドアを開けた。

店内は狭く、カウンターのみの席しかなかった。

「いらっしゃい、ここどうぞ」

と、メガネをかけた白髪で紳士的なおじさんが言った。

俺たちは席に腰を掛け、一息ついた。

「今日はご友人といらしてくれたんですね」

と、マスターらしき人が言った。

「そう、飲み友達なんだよ」

と、航平さんが言った。

「じゃあ、お酒はかなりお好きなのですね」

と、マスターが聞いた。

「はい、お酒は詳しくないですがかなり好きです」

と、答えた。

マスターはメニュー表を渡した。

航平さんは、

「俺はいつもので」

と、言い、マスターは棚からボトルをとりだし、ロックグラスに氷を入れ、ウィスキーをそそいで航平さんの目の前にすっと出した。

「これは何?」

と、俺は興味津々に聞いた。

「これは山崎の十二年ものです、一時期手に入りにくい時もありましたが、また手に入りやすくなったのでこうして棚にならべたんです」

と、マスターは言った。

「なるほど…」

と、だけ言った。

ウィスキーは好きだが、年代とか味の違いとかはあまり詳しくなかった。

「お客さまはどれにしますか?」

と、マスターが聞いたので、一樹はメニュー表を見た。

「アイリッシュでおすすめなのありますか?」

「ではせっかくなので、ブッシュミルズシングルモルト12年などはいかがです?」

と、マスターが言ったので、

「ならそれで、ロックでお願いします」

と、咄嗟に答えた。

マスターは速やかにグラスに氷をいれ、アイリッシュウィスキーを注いだ。目の前にだされたウィスキーは濃い琥珀色で、なんだか少し大人の雰囲気にさせてくれる感じだ。

グラスを持ち上げ、一樹はじっくり眺め、一口飲んだ。

「美味しい…、アイリッシュってこんなマイルドで複雑な味だったっけ…」

と、一樹は呟くように言った。

マスターは微笑みながら、グラスを磨き、

「それは良かったです」

とだけ言った。

「ここはお酒好きが集まる場所だから、色々なウィスキーが揃えらているんだよ」

と、航平さんがグラスを軽く傾けながら言った。

「確かに、ゆっくり味わいたい人にはいいね」

店内にはもう一人別の客がいて、OLが一人寡黙にお酒を飲んでいる。マスターも俺たちの会話に干渉せず、ちょうどよい距離感で居心地のよい空間だった。

航平さんと俺は、お酒の話、仕事の話など、他愛のない会話をし、心地よい酔いに浸った。グラスのウィスキーも空になり、溶けた氷だけになっていた。

「そろそろ行こうか」

と、航平さんが言い、

「そうだね、次行こうか」

と、俺は言った。

時刻は午前一時、もう終電はとっくに終わっていたので、朝まで飲むコースは覚悟した。

会計を済まし俺たちは店を後にした。

「次はどこで飲む?また二丁目戻る?」

と、俺は航平さんに聞いた。

「そうだねぇ…」

と、航平さんがまた考え込んだ。

「ホテル行く?」

と、航平さんが唐突に言ったので、俺は驚いて声が出なかった。しばらく頭の整理を行い、

「…ホテル?」

と、俺は間を置き聞いた。

「うん」

と、航平さんは真顔で言った。

「…」

俺は黙り込む事しかできなかった。

「嫌だったかな」

と、航平さんは聞いた。

「酔ってるの?」

「少し」

と、航平さんは言う。続けて、

「俺とエッチしよう」

と、真剣な顔して航平さんが言う。

「え?本気?」

「うん、本気」

と、航平さんは言う。

「俺らはただの友達でしょ?」

「友達でもエッチしちゃダメかな?それにゲイ界隈ではよくある事だし」

と、航平さんが言う。確かにこの界隈ではよくある事だし、別に航平さんとやるのは別に嫌じゃない、むしろタイプだ。でも今までの関係が壊れないか心配なのと、最近は卓也と以外とはやってなかったから、少し罪悪感があった。それに卓也の事が好きなのもある。でも…。

俺は葛藤に負け、航平さんに、

「俺でよかったら…」

と、言ってしまった。

「もちろん、今までずっと一樹としたかったから」

と、航平さんが言った。

航平さんは俺の手を引き、ホテル街に連れていった。

フロントで鍵をもらい、エレベータに乗ったころには、航平さんは俺の唇に優しいキスをしてきた。

部屋に着いた頃には、服を脱がされ、俺は航平さんと激しくキスをし、ベッドに押し倒されていた。

「ずっとこうしたかった…」

と、航平さんは耳元で吐息を混じらせながら言った。

「卓也にいつもこんな事されていたのか?」

と、さらに言葉攻めされ、全身が火照った。

俺は航平さに身体をむさぼられ、愛撫され、ひたすから航平さんに激しく抱かれる夜を過ごしたのだった。

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