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放課後、俺はらぴすと一緒に、朝の約束どおり寄り道をした。
向かったのは、通学路の途中にあるちょっとおしゃれな雰囲気の喫茶店。
SNSでふわふわのパンケーキが話題になっていて、いつか行ってみたいね、と前から話していた店だ。
店内には、穏やかなBGMが流れている。
ふわっと広がるカフェラテのやわらかい香りと、ほのかに甘いパンケーキの匂い。
それだけで、時間がゆっくり流れていくように感じられて、なんだか落ち着く空間だった。
「それでも、体育の時の心音には驚いたわぁ〜」
雑談の中で放たれたらぴすとの何気ない一言に、俺は思わずカフェラテを溢しそうになる。
「う、うるさい、忘れて」
「嫌だね」
正面に座るらぴすはニヤリと意地悪そうに笑っていた。
「うれしかったよ。普段はツンツンしてるからさぁ〜。俺のこと結構好きでいてくれてるんやなぁ〜って思った」
はっきりとした言葉に、顔が燃え上がるように熱くなる。
恥ずかしさが蘇って、どうにかなりそうだった。
思わず手で顔を覆ってら視線を向けないまま声をあげる。
「そんなんじゃないから」
「はいはい、ありがとな」
俺が恥ずかしさで素直になれないのをわかってるみたいに、らぴすは満足そうに微笑んで楽しそうだった。
それもまた悔しくて、カップを両手で包み込むように持ちながら、自分を落ち着かせようと無言でカフェラテを口につける。
ほろ苦さとふんわりしたミルクの甘さが、熱を帯びた気持ちを少しだけ和らげてくれる気がした。
穏やかな時間を過ごしていると、らぴすが思い出したようにスマホを手に取った。
「そういえば、最近ハマっとるゲームがあるんやけどさ」
らぴすは、スマホを操作しながら、楽しそうに画面を見せてくれる。
興味を持っているものを当たり前に教えてくれることが嬉しい。
「へぇ、どんなの?」
「育成系のRPG。めっちゃおもろいんよ」
俺は、促されるままに、視線をらぴすのスマホの画面に落とした」
画面には、カラフルなキャラクターが並び、戦闘や育成のステータスが表示されていた。
スマートフォンからは、かすかに電子音が響いている。
繰り返される短いメロディ。
幻想的なピアノの旋律に、ゲームらしい電子音楽重なって、どこかワクワクするような冒険ストーリーらしい音を作り上げていた。
「らぴすが好きそうな音楽だね」
流れているBGMを聞きながら、俺は何気なく口にした。
耳を澄ませるように聞いていたから、
なんだか心が満たされて、自然と口角が上がった。
「音楽?確かにそうやな」
らぴすら、スマホの画面を見たまま軽く相槌を打つ。
その適当な返事にも思わず笑ってしまった。
らぴすはいつもそうだ。
興味のあることに全力で、集中していると、俺の言葉なんて軽く流してしまう。
でも、それすらも彼の魅力だと思っていた。
バスケだってそう。
一生懸命で諦めない。
その姿をかっこいいと思うし、心の底から尊敬していた。
「今は、何してるの?」
そう尋ねると、らぴすは、「おっ」と嬉しそうに画面を見せてくれた。
「ついさっき、レアアイテムを手に入れたんよ!」
「本当だ!光ってる!すごいの?」
「これやったら、ボスのステージがめちゃめちゃ楽になるんよ」
嬉しそうに語るらぴすを見ていたら、俺まで楽しくなってるのはいつものこと。
ただこうして、たわいのない話をしながら一緒に時間を過ごせてることが、今日は特に嬉しかった。
「…..なんか、いいな」
スマホに視線を落としているらぴすを見ながら、俺は気づかないうちにそう口にしていた。
「ん?」
「あー…..なんかすごく楽しいなって」
カフェラテを手のひらで包みながら、俺は微笑む。
するとらぴすは、少し驚いたように俺を見た後、くしゃっと笑った。
「なんや、それ。めずらし」
「別に、本当に思っただけだよ」
照れ隠しにカフェラテを口にする。
#すにすて
505
「ふーん?かわいいな、ほんま」
そう言って、らぴすは軽く俺の頭をポンと叩いた。
「なにそれ!もう、子供扱いしないでよ!」
「いや、してないし!」
俺たち2人はくすくすと笑い合う。
少し照れてしまうけれど幸せな、そんな時間が、ただ愛おしかった。
特別なことは起きていない、穏やかな日常のひと時。
そんな時間が幸せすぎて、俺は、ずっと、こうしていたいとぼんやり願っていた。
俺たちはその日、外が夕焼け色に染まる頃まで、時間も忘れて話し続けていた。
窓の向こうでは、赤く染まった空がゆっくりと青に溶けていく。
_______あれ?もうそんな時間?
スマホを取り出して正確な時刻を確認する。
【18:00】
ホーム画面に浮かんだその絵文字をみて、心臓がほんの少しだけ速くなった。
「……あっ、もう6時だ!ごめん、帰るわ!?」
俺は慌ててバッグに手を伸ばし、レジに行こうと腰を浮かせる。
「え?なんか用事あるん?」
けれど、らぴすの不思議そうな声にハッとして、俺はぴたりと動きを止めた。
「えっと….いや、用事は….無いんだけど…..」
自分でも言葉に詰まった。
______なんで、帰らなきゃ行けないんだろ?
予定なんてない。門限も決まっているわけでもない。
急がなきゃいけない理由なんて、どこにも無いはずだった。
「心音?」
戸惑ってる様子の俺を、らぴすがじっと見つめてる。
ゲーム中だったスマホを置き、真剣な顔で覗き込んでいた。
「どうしたん?なんかあった?」
_______自分でも分からなかった。
時刻を見たとたんに、帰らなきゃという感情だけが浮かんで、自然と体が動いていた。
「あれ….?あはは、なんでだろ、なんか予定ある日と勘違いしてたかも」
誤魔化すように笑い、カバンを抱きしめながらもう一度腰を下ろす。
6時帰らなきゃいけない時間。
心当たりのないそのルールが、どうしてか頭の奥にこびりついていた。
「変やな。でも、そうやな、そろそろ帰ろ」
「……うん」
揶揄うように笑ったらぴすに、俺は合わせるように笑顔を作った。
けれど口元がぎこちなくて、自分でも違和感をぬぐえなかった。
胸の奥に、うっすらとした不安が広がる。
まるで、遠くの方でなにかが呼んでいるような、掴みたくても届かない感覚。
_______いや、考えすぎだよね。
そんな気持ちを払うように、俺はカップに残ったカフェラテを飲み干した。
next♡200